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人生の最終段階における施設入居者の家族と医療・介護職の葛藤
事例紹介
経緯
94歳/女性/15年前に脳梗塞(右半身麻痺)後、日常生活はほぼ全介助/要介護5
夫は10年前に他界。6年前から特別養護老人ホームに入居。息子、娘は独立し他県に在住
- 入所当初は介助を受けながら杖歩行可能だったが、誤嚥性肺炎や大腿骨頸部骨折での入退院によりADL、認知機能が低下し、この数年はほぼ1日中寝たきりとなった。
- 半年前から話しかけてもほとんど反応がなく、表情もなくなり傾眠となった。徐々に衰弱が進み、3日前からは血圧やSpO2(酸素飽和度)が低下し、看取りの近い状態となった。
- これまで息子や娘はほとんど面会に来ていなかったが、傾眠となった頃から電話で話し合いを重ね、本人の意思を尊重して「自然に看取りたい」という希望を聞いていた。同時に施設スタッフ間でも、安楽な状態を維持した自然な看取りを行うことを共有してきたが、息子や娘に看護師が電話で看取りが近い状況を伝えたところ、蘇生措置を望んでいる。
当事者の思い
入居者 |
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---|---|
家族 |
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医師 |
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看護職 |
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介護福祉士、 生活相談員 |
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看取りが近い状態。本人は入所前に、蘇生処置は希望しない意思を示しているが、息子や娘は全身状態が悪化していく母親に自分たちが何もできない、何もしないことに罪の意識を感じ、悲しんでいる。
看護職は、入所前の本人の意思を尊重してこのまま看取ることが最善だと思っているが、家族の意向と反するため、どのように家族をサポートし、看取りの体制を整えていくべきかを悩んでいる。
解決に向けて
入居者にとっての最善を考える視点
- 入居者のこれまでの経過と現在の全身状態から、治療・ケアにおいてどのような選択肢があるか。
- 看取り期の蘇生処置と予後について、家族はどのようにとらえているか。
- 心肺停止時の治療・ケアの方針と看取りの対応について、入居者に関わる施設スタッフ間(医師、看護職、介護職)で共有し、統一できているか。
- 母との別れを受け止めきれない家族の心理状況について、入居者に関わる施設スタッフ間(医師、看護職、介護職)で共有できているか。
- 入居者の息子と娘の思いを受け止め、代理意思決定を支えられるよう、施設スタッフ間で、統一した関わりができているか。
解決に向けた取り組み
- 家族と施設スタッフ間で話し合った上で、入居者にとって最善の方針を選択することが必要である。
- 入居者のこれまでの生きざまを踏まえて、本人の意向を尊重した最善について、あらゆる方面から検討し、どのような選択肢があるのかを考える必要がある。
- 家族には、病院へ搬送すれば心肺蘇生や点滴等の蘇生処置を行える(ただし身体に負担のかかる処置である)、安楽な状態が維持できるように見守り、自然のなりゆきに任せるなどの選択肢について、丁寧に説明していくことが大切である。
- 入居者が蘇生処置を望んでいなかったと分かっていても、できることがあるならやってあげたいと揺れ動く家族の思いに真摯に寄り添う必要がある。
- 地域の近隣病院などの専門性の高い看護師などの有識者から助言を得る機会やつながりも持ちながら、また、家族と施設スタッフ間で、ジレンマを抱えたままとならないよう十分に納得がいくまで話し合い、最善の方針を検討する。
- 入居時から折にふれ、人生の最終段階における医療・ケアについて、入居者、家族、施設スタッフ間で話し合い、共有しておくことが重要である。
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