高齢者の血液透析の選択

    事例紹介

    経緯

    85歳/女性/腎機能低下と変形性膝関節症のため通院治療中
    軽度認知症の87歳夫、会社員の62歳長女との3人暮らし

    • 4日前、孫の結婚披露宴の翌日から倦怠感やむくみが出現した。食欲低下に加えて息苦しさも出てきたため、病院を受診したところ、腎不全に伴う心不全と診断、入院となる。
    • 緊急血液透析を行い心不全症状は改善したが、腎機能の更なる低下がみられた。医師は、血液透析を開始するタイミングだと判断し、今後の血液透析の必要性や通院の頻度等について患者と長女に説明した。
    • 看護師が患者と長女の受け止めを尋ねると、患者は「先生からは、週3回4時間ずつ透析をすると伺いました。体が楽になるなら、やりたいと思います。夫の世話がありますから、私はまだまだ元気でいなくてはいけません」と答えた。
    • 長女は患者の言葉にうなずくのみで何か言い辛そうな表情をしているので別室で話を聞いてみると、「母が透析をすると決めたなら支えてあげたいと思います。ただ、最近は家の中でも歩くのがおぼつかなくなって、母が言うように頑張っていけるのか心配です。透析をしなくてもすむ方法はないのでしょうか」と言った。
    • 看護師からは血液透析中の生活で気を付けることを数回に分けて段階的に説明したが、患者にとっては新しいことを1回の説明で理解するのは難しい状況であった。

    当事者の思い

    患者
    • 血液透析をするために頻繁に病院へ行くことになるが、体が楽になるならやりたい。
    • 医師と看護師から説明を受けた合併症のこと、水分摂取量や食事に制限が必要なことについては、やるしかないと思っている。
    • 夫の世話をし続けるためにも、元気でいたい。
    家族(長女)
    • 母が医師の説明をよく聞いて決めたことだし、体が楽になるなら血液透析はしてほしい。長生きしてほしい。
    • でも、日に日に衰えていく様子を見ていると、週3回の透析に耐えられるのか心配だ。
    • 生活のためには仕事を辞めるわけにはいかないし、今でも父の介護のために度々休暇を取っているため、これ以上、仕事を休むことはできない。今後、母が1人で通院できなくなったときには、毎回私が付き添わなければいけなくなるのではないかと思うととても不安。血液透析をしなくてもすむ方法はないのだろうか。
    医師
    • これまでも患者には生活習慣の改善が必要であることは説明してきたが、厳密な生活管理は難しそうだ。生活習慣の改善ができず、さらに状態が悪化するようであれば血液透析の導入は必要だ。
    看護師
    • 患者は、血液透析による拘束時間やシャントの管理等、生活への影響を十分にイメージできないまま、血液透析の導入を希望しているように思う。
    • どのような治療方針となっても、家族のサポートが不可欠であるため、家族の意向も考慮しなければならない。
    • 今後の患者のADL低下なども想定し、治療方針についての患者・家族の意思決定を支えていかなければならない。

    腎機能の低下に伴い、血液透析について医師から説明を受けた患者は導入を希望するが、長女はサポートに不安があり、透析以外の治療の選択も考えている。

    看護師は、患者が血液透析について十分にイメージできていないのではないかと考え、また、患者をサポートする長女の支援をどのように行っていけばよいかと悩んでいる。

    解決に向けて

    患者にとっての最善を考える視点

    • 腎機能が低下している状態で、どのような治療の選択肢があるか。
    • 血液透析を導入した場合としなかった場合、身体的変化が予測され、また、患者や家族の生活にどのような影響が考えられるか。
    • 血液透析を導入した場合としなかった場合の影響について、患者と家族が共有できているか。

    解決に向けた取り組み

    看護師は、血液透析を開始した場合としない場合の、生活の変化や自己管理等について、患者の理解の状況に合わせた説明をする必要がある。その際、今後のADLの変化等も予測し、1人で通院が困難となった場合の対応等についても話し合うことが必要である。その上で、活用できる社会資源についての情報等も提供し、患者と家族の不安を軽減しながら、納得して意思決定ができるよう支援していくことが求められる。

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