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食事をめぐる介護施設での他職種との意見の違い
事例紹介
経緯
85歳/男性/6年前の脳梗塞(左半身麻痺)後、日常生活はほぼ全介助/要介護4
妻が他界した3年前から特別養護老人ホームに入居。娘2人は独立
- 脳梗塞でほぼ寝たきりの状態。徐々に口数が減り、活動も低下、日中もベッド上でうとうとしていることが多くなった。
- 現在、食事の形状は全粥きざみ食で、車いすに座り食堂で介助を受けながら摂取している。食べる意欲はあるものの、嚥下するとむせ込みがみられ、その頻度も高くなってきた。誤嚥のため過去に2回救急搬送されており、誤嚥性肺炎も繰り返している。
- 長女と次女のどちらかが1週間に2〜3回来所し、入居者の好物である握り寿司や刺身を食べさせると、むせ込みながらも嬉しそうに全て摂取している。長女と次女には父親に少しでも長く生きていてほしいという希望はあるが、過去に医師から胃ろうの造設を勧められた際には長女、次女ともに「今さらそこまでは…」という気持ちで承諾はしていない。
- 看護師は、咀嚼・嚥下機能が著しく低下しており、誤嚥による窒息や肺炎を防ぐために経口摂取は控えることが今の最善と考えているが、介護職は入居者に食べる意欲がある限り、食べたいものを食べてもらいたいと考えている。
当事者の思い
入居者 |
|
---|---|
家族 (長女、次女) |
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医師 |
|
介護職 |
|
看護師 |
|
嚥下機能が低下している高齢の入居者に対して、口から食べたいという入居者の希望を叶えようとすれば、身体状況の悪化や死に至る危険性がある。
好きなものを食べたいという入居者の気持ちに応えたいという暮らしの観点を大切にする介護職と、入居者の気持ちは尊重したいが身体状況のアセスメントに基づいた危険性を考慮すると安全に経口摂取を行う条件が整備されなければ経口摂取は控えるべきと考える看護師の間で意見が異なっている。
解決に向けて
入居者にとっての最善を考える視点
- 現在の嚥下機能で、好きなものを食べたいという入居者の思いを尊重するにはどうしたらよいか。
- 入居者・家族の食べたい、食べさせたい気持ちを尊重するために、最も良い方法は何か。
- 看護師、介護職のほか、入居者の生活に関わる様々な職種が協働した取り組みになっているか。
解決に向けた取り組み
看護師と介護職は、アプローチは異なっても、入居者にとって安全で安楽な状態を提供するという目標に違いはない。そこで、入居者・家族の食べたい、食べさせたい気持ちを尊重しながら、今の環境の中で最も良い方法を探ることが求められる。
看護師は栄養評価やフィジカルアセスメントから、入居者の状態にあった食形態やとろみのつけ方、一口の量、姿勢の調整について検討する。直接的な食事介助は介護職が中心となって行うことが多いため、介護職と安全な介助方法を共有することが重要になる。また、入居者・家族の食べる楽しみを大切にした関わりは大切であるが、嚥下機能や認知機能の悪化によっては、代替栄養について医師と相談し、家族に説明を行い、介護職とも合意が得られるよう働きかける。看護師には多職種間の考えを共有し、合意をつくっていく取り組みが求められる。
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