- ホーム
- 看護職の皆さまへ
- 看護倫理
- 看護職のための自己学習テキスト
- 事例検討編
- 統合失調症を有する患者のがんの精査と治療の選択
統合失調症を有する患者のがんの精査と治療の選択
事例紹介
経緯
52歳/男性/統合失調症
両親は他界。妹夫婦が定期的に面会に来るが他に親戚づきあいはない
- 20歳代前半に幻覚妄想状態で発症し、通行人への暴力や自宅への放火などの問題行動があり精神科病院に入院。一旦は退院したものの、安定した社会生活が送れず、夜になると大声を発し、物を壊すような音がするという近隣からの通報で介入した警官に対しても暴力的で著しい精神運動興奮が見られたため精神科病院へ再入院となり、以降、現在まで入院生活が続いている。
- ある日、受け持ち看護師が、患者のベッドサイドにあるゴミ箱に血液の付着したティッシュペーパーが捨てられていることに気付いた。患者に事情を尋ねると、数週間前から咳とともに血痰があるということだったため、受け持ち看護師は主治医に報告した。主治医から診察を依頼された内科医によって実施された検査では、胸部単純X線検査で異常陰影が発見され、血液検査でも腫瘍マーカーの異常値が示された。
- 担当した内科医からは、1.肺がんが疑われること、2.胸部CT検査や喀痰細胞診、気管支鏡検査を行い、確定診断をつけた上で治療方針を明確にする必要性があることが患者と妹夫婦に説明された。患者は、「自分ががんであるはずがない」と否認し、それ以上の検査を強く拒み、話し合いの場から立ち去ってしまった。
- その後も、患者は検査を拒否し続けたが、内科医は統合失調症の患者だから十分に状況判断ができていないのではないかと考え、強制的にでも検査を受けさせるべきだと主張した。
- 受け持ち看護師は、患者が最善の決定をするための支援をしたいと考えていた。しかし、患者はがんである可能性を否認しており、十分に話し合える状況ではないことから、患者の本心が見えにくいと感じていた。現在、患者の精神状態は安定しているが、がんの告知によって精神症状が悪化する可能性もあると予測していた。妹夫婦からは検査を受けるように患者を説得してほしいと頼まれ、受け持ち看護師としてどうすればよいのか悩んでいた。
当事者の思い
患者 |
|
---|---|
家族 (妹夫婦) |
|
医師 (精神科医:主治医) |
|
医師 (内科医) |
|
看護師 |
|
統合失調症の患者に肺がんの疑いがあり、確定診断のための検査や治療が必要だが、患者は自分はがんではないと思っており、また、現在の生活を続けたいという考えから、検査・治療を希望しないでいる。
看護師は、検査や治療を受けたくないという患者の意思を尊重するべきか、患者の思いに沿わなくても必要な検査や治療を受けることを優先するべきか悩んでいる。
また、看護師は患者が現状を正しく理解した上で意思決定をしてほしいと思っており、そのためにどう支援すればよいか考えている。
解決に向けて
患者にとっての最善を考える視点
- 患者は医師からの説明をどのように理解し、受け止めているか。
- 医師からの説明により、患者の精神状態にどう影響するか。
- 今後、時間の経過に応じてどのような検査・治療の選択肢があるか。
- 患者及び家族や医師が納得した方針となっているか。
解決に向けた取り組み
精神疾患を持つ患者は判断能力が乏しく意思決定が困難であるといった考えにとらわれず、精神疾患を有する患者を「1人の権利を持った主体」としてその意思を尊重し、患者の状況に応じて説明をすることが重要である。患者の希望を最大限優先する必要があるが、精神症状によって意思が変動する可能性があるため、精神症状の変化と併せて患者の意思を繰り返し確認し、柔軟に対応できるようにする。
その他の事例を見る
よりよいウェブサイトにするために
みなさまのご意見をお聞かせください