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代理意思決定する妻の葛藤
事例紹介
経緯
72歳/男性/急性多臓器不全により意識不明に陥る
無職/妻と2人暮らし。子供はいない
- 感冒症状が出現したため、近くの診療所を受診した。感冒の内服治療と点滴を受け、帰宅する。
- しかしその後、ショック症状を呈し救急搬送され、集中治療室に入院となる。感染症による敗血症と診断され、多臓器不全へと悪化した。吸引や処置時に顔をしかめる程度に意識レベルが低下した。人工呼吸器による呼吸管理、輸液療法で全身管理を行う。
- さらに腎機能が悪化し、医師は持続的血液濾過透析(以下、透析)の導入を考えており、妻と医師、看護師で、治療の方向性について話し合った。妻は、発症前の患者の意思としては、「生命が危険になり、治療の効果がないときは自然に死を迎えたい。苦しむのは嫌だ」と述べていたため、苦しい治療はやめてほしいと医師に話した。
- 医師は現在の患者の状態と、透析を行わなかった場合の生命への影響について丁寧に説明した。話し合いの結果、透析の導入は行わないことになった。
- しかし、話し合い後、妻は自分の決定が最善であったかどうか悩んでいる。
当事者の思い
患者 |
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---|---|
家族(妻) |
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医師 |
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看護師 |
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多臓器不全で腎機能が低下している中、透析を行わなければ生命の危機がある。しかし、透析を行った後の回復の見込みは不透明な状態である。患者は発症前に「生命の危険があり、治療の効果がない時は自然な死を迎えたい」という意思を表明しており、妻は患者の意思を尊重したいと思っている。しかし、患者の今後の状態が不透明な中でどのような代理意思決定をすればよいか、悩んでいる。
看護師は、今後の見通しが不透明な中、どのような方針が患者にとっての最善になるのか悩んでいる。また、代理意思決定をする妻にも寄り添い、支えなければならないと思っている。
解決に向けて
患者にとっての最善を考える視点
- 患者の現在の全身状態や予後から、どのような選択肢があるか。
- 透析を行う場合、行わなかった場合のそれぞれの予後について、妻はどのように受け止めているか。
- 変化する患者の状態や揺れ動く妻の心理状況について、保健医療福祉サービスに関わる専門職チーム間で共有できているか。
- 変化する患者の状態に合わせた治療方針、ケアになっているか。
解決に向けた取り組み
妻、保健医療福祉サービスに関わる専門職チーム双方で十分話し合い、双方が納得した治療の選択をする必要がある。その際、患者にとっての最善をあらゆる選択肢から考える必要がある。妻が捉えている患者の状態と医療職の考える臨床経過や予後について、見解の違いのないよう相違を埋める必要がある。
代理意思決定の場合、自分が決定した内容で果たしてよかったか、揺れる思いが生じてくることが多い。まずは、代理意思決定について思い悩んでいる妻に寄り添い、気持ちを聞く。その上で、妻が何に悩んでいるのか、現在の患者の状況について一緒に整理をする必要がある。
また、患者の意思が確認できない場合の治療方針の決定について、各種ガイドラインに沿ったプロセスになっているか、保健医療福祉サービスに関わる専門職チーム内で確認する。
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