看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド

タスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイドの表紙絵
看護の専門性の発揮に資する
タスク・シフト/シェアに関する
ガイドライン及び活用ガイド

日本看護協会では、医師の働き方改革のもとでタスク・シフト/シェアが進められる中でも、国民に必要な医療が安全かつタイムリーに提供されることが不可欠であり、そのためには、患者の最も身近にいる医療専門職である看護師が裁量を活用し、さらに専門性を発揮していくことが必要だと考えています。

そこで、「看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド」を作成しました。

「ガイドライン」は、パブリックコメント(2022年2月28日〜2022年3月21日)にお寄せいただいたご意見のほか、多くの看護職の皆さまからのご意見や情報などを基に検討を重ね、作成したものです。また、「活用ガイド」は、ガイドラインで示している内容を現場で運用する際に参考となるよう、Q&Aや具体例を盛り込んでいるものです。
タスク・シフト/シェアを進める上で、ぜひご活用ください。

看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアへの取り組み

「看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン及び活用ガイド」(以下、ガイドライン)を活用し、取り組みを進めている医療機関の事例について紹介します。

事例1 日本赤十字社 神戸赤十字病院

事例2 地方独立行政法人 明石市立市民病院

事例3 社会福祉法人聖隷福祉事業団総合病院 聖隷三方原病院

事例4 社会医療法人近森会 近森病院

事例1 日本赤十字社 神戸赤十字病院

【施設概要】所在地:兵庫県神戸市/病床数:310床/看護職員数:320人、(常勤換算)常勤291.8人(2023年10月時点)

看護部におけるタスク・シフト/ シェアの推進

高度急性期・急性期医療を担う神戸赤十字病院。同院ではタスク・シフト/シェアに係る国の動きを受け、「医師・看護師の業務効率改善委員会」(以下、委員会)が設置され、各職種間で移管可能な業務を提案するよう同委員会の委員長である副院長より指示が出された。
看護部からの提案を検討するにあたって、まず、タスク・シフト/シェアの目標を共通認識するため、機関紙「看護」(2022年3月号)のタスク・シフト/シェアに関する特集を参考にし、「患者の利益」を共通目標として病院全体で取り組むことが重要であることを確認した。

整形外科プロトコールの作成

話し合いが進む中、救急外来に搬送された大腿骨頚部骨折患者の待ち時間が長く、以前から課題となっていたことにまず焦点を絞った。診察までの間に検査・処置を実施し、鎮痛剤投与などができれば、患者の苦痛を早期に軽減することができる。そこで大腿骨頚部骨折のプロトコールの作成について、委員会に提案した上で取り組みを開始し、診療開始までの時間をより短縮できるように検討を重ねた。プロトコールの作成中に、ガイドラインで示されているタスク・シフト/シェアに関する基本的な考えや法的根拠、包括的指示に関する解説や事例を参考にしたことで、医師の指示の形態やプロトコールについての理解が深まり、着実に作成できたという。

プロトコール活用に向けた取り組み

プロトコールを確認している担当看護師
プロトコールを確認している
担当看護師

一方、プロトコールの活用にあたっては、関連する部署で学習会を開催し、看護師のアセスメントや判断に係る内容や、プロトコール適応外事例の注意点について勉強を重ね、包括的指示を活用する際の医療の安全と質の担保についても理解を深めていった。
作成したプロトコールは、救急外来の運用を統括する「救急対策委員会」の承認を受け、活用が開始された。

プロトコール活用による成果と今後の展望

整形外科大腿骨頚部骨折プロトコールは2022年7月から活用を開始し、10月には大腿骨骨折事例の7割に適用された。プロトコールを活用することで、予測性と準備性が標準化され、看護師が1分1秒を無駄にすることなく、患者に説明しながら処置・検査を進められるようになり、医療・看護の質向上にもつながっている。
同院は今後も患者の利益を共通目標とし、業務効率化を前提に各職種と業務範囲の相互理解を促進しながら、病院全体でタスク・シフト/シェアの取り組みを進めていく。
(2023年12月8日掲載)

事例2 地方独立行政法人 明石市立市民病院

【施設概要】所在地:兵庫県明石市/病床数:329床/看護職員数:337人、(常勤換算)常勤324人(2023年11月時点)

急性期・救急医療を担う病院として、地域に貢献している明石市立市民病院。同院では以前から看護部と事務職が協力し、看護師と医師の負担軽減における看護の関わりの観点で、看護師から医療専門支援職および事務職へのタスク・シフト/シェアなどに取り組んでいた。そして、医師の働き方改革の推進、地域医療体制確保加算の算定に向け、職員の業務負担軽減、処遇改善、労務管理の適正化を目的とした業務負担適正化委員会(以下、委員会)を2020年4月に発足し、協議を本格的に開始した。

ガイドラインを活用し、他職種と連携

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採血指導を行っている看護師

委員会は副院長が委員長を務め、診療部、医療技術部、看護部、患者支援部、経営管理本部、人事部など多くの職種が入っている。検討するに当たり「看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアに関するガイドライン」を委員全員に配布・周知し、病院全体で他職種へのタスク・シフト/シェアが可能な業務を整理。各部門でできることを年間計画に挙げ、計画的に取り組みを進めてきた。加えて、職員の研修に係るガイドラインを委員会で作成し、タスク・シフト/シェアに関する研修は病院のための業務として、病院が費用を負担することが決定された。

委員会の中で、まず、診療放射線技師から造影剤注入時の静脈路確保実施の意思表明がされた。告示研修※修了者に対し、院内での安全な実施に向け看護部の教育担当課長が放射線技師長と協働して計画を立案。看護師が指導者として静脈路確保の技術習得の援助を行い、安全に実施できるよう取り組んでいる。加えて、状態が安定している患者の搬送も進んで実施するようになった。

また、臨床検査技師が検査時の採血や、糖尿病教育入院患者へ簡易血糖測定器の使い方を指導するようになり、外来の看護課長と採血室の看護師とで臨床検査技師へ採血指導を行っている。清水直美看護部長は「他職種の業務には、看護師がよく知らないものもたくさんある。タスク・シフト/シェアを進める際には、他職種の大変さも受け入れつつ、看護の専門職としてどのように動いたらいいのか考え、話し合うようにしている」と話し、互いの業務を理解、尊重しながら、少しずつでもできるところから他職種へのタスク・シフト/シェアを進めたいと考えている。

患者のために~看護師のやりがいを求めて

看護部では、「患者のために」何ができるかを話し合い、タスク・シフト/シェアと業務整理を両輪として取り組みを進めた。
清水看護部長は「タスク・シフト/シェアを進めて、スタッフがもっと看護を語り、看護の喜びを分かち合う時間を確保できるようになれば、看護師のやりがいにもつながるのではないか。そして、それが患者の利益につながり、患者のためになるように、それぞれの職種が専門性を生かしたタスク・シフト/シェアを今後も推進していきたい」と抱負を語った。
(2023年12月8日掲載)

※2021年7月に「臨床検査技師等に関する法律施行令の一部を改正する政令等の公布について」(医政発0709第7号)が厚生労働省医政局長より発出され、診療放射線技師の業務範囲が拡大したことに伴い、厚生労働大臣が指定する告示研修(厚生労働省告示第273号)の受講が義務化された。院内での実施に当たっては研修の修了が必須となっている。

事例3 社会福祉法人聖隷福祉事業団総合病院 聖隷三方原病院

【施設概要】所在地:静岡県浜松市/病床数:934 床/看護職員数:748 人(2024年12月時点)

静岡県浜松市の中核病院として急性期医療に取り組む聖隷三方原病院。同院の看護部は「看護の専門性をいかし、医療を必要とする人に質の高い看護をタイムリーに提供する」ことを目標に掲げている。少子高齢化などによる患者像の複雑化・多様化によって、看護に求められる役割が広がる中、幅広い医療サービスで地域のニーズに応え、限られた人材で効率的に対応するための取り組みを進めている。

看護の専門性を発揮し、患者の利益に貢献

同院では、看護師の責任(裁量)で療養上の世話を行う方針を明確に示している。松下君代総看護部長は、全新入職員への看護部の説明とは別に、新任医師に看護師の業務を知ってもらうため、オリエンテーションの場を設け、看護師が行う「療養上の世話」や「診療の補助」とは何か、そして「療養上の世話」は看護判断で実施すること、診療の補助には医師の正しい指示が必須であることなどを説明。また、看護師は「療養生活支援の専門家」として的確に判断し看護実践すること、チーム医療においては医師がリーダーであり、患者や家族、多職種との調整を担う看護師がキーパーソンであることを伝えている。

さらに、看護師も電子カルテのオーダー権限を持ち、食事形態や安静度などのオーダーや変更を実施することで、患者の状態に応じた柔軟な対応を可能にした。電子カルテの導入の際や更新時には看護師の意見も反映され、現場のニーズに即した運用が行われている。具体的な看護実践例としては、看護師が患者の摂食嚥下能力を評価し、リスクマネジメントマニュアルに基づいて適切な形態を決定することで、誤嚥事故を減少させている。この成果は医師からも信頼を得ており、看護師が裁量をもって療養上の世話を実践することの基盤となった。

同院での実践は、看護倫理や医療安全などと併せて示した同院独自の「みかたはらルールブック」に基づき、全職種共通の認識を持って行われている。さらに、主治医が退院を決定した後、看護師が患者の状態から退院日を判断し、主治医や院内外の関係者とも調整して決めている。患者や家族が自宅で安全に療養生活を送れるよう、生活背景も考慮してきめ細やかに退院準備を進める取り組みが、地域包括支援センターや訪問看護ステーションの看護師からも高く評価されている。

多職種連携と人材育成で質の高い看護を実現

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多職種の皆さんで情報交換

一方、医療従事者の負担軽減にも力を入れており、全職種が参加する役割分担推進委員会を設置し、タスク・シフト/シェアに関する年間計画を立案している。松下総看護部長は「タスク・シフト/シェアは、患者にとっても看護職や多職種にとっても良い効果をもたらす形で進めることが重要」と話し、調整を重ねながら多職種連携と人材育成を推進している。

中でも、看護チームの一員である看護補助者は約100人が在籍し、看護補助者が作成に携わった業務マニュアルに基づいた教育を受けている。看護補助者の役割を明確にし、正職員での雇用を進めることで定着率を高め、看護師が専門的なケアに集中できる環境を整えてきた。

また、看護師の新人教育では、臨床実践能力を高めるための教育プログラムを実施し、チームナーシングと併せて先輩看護師とペアで相談しながら判断力を養う仕組みが、現場での安心感を支えている。現在24人の認定看護師や6人の専門看護師、37人の特定行為研修修了者が所属しており、医師と連携しながら患者に適したケアを迅速に提供している。

これらの取り組みによって、看護師が専門性を発揮し、質の高い看護を提供できる体制が構築されており、看護に向き合う時間、患者の療養環境を整える時間が増加した。その結果、看護師がやりがいを感じながら働き続けることができ、人材の確保や定着にもつながっている。同院の看護部は、患者や地域社会、そして医療チーム全体にとって利益となる看護を実現するため、着実に歩みを進めている。
(2024年12月23日掲載)

事例4 社会医療法人近森会 近森病院

【施設概要】所在地::高知県高知市/病床数:489 床/看護職員数:530人(2025年1月時点)

高齢化率全国2位の高知県において、急性期を中心に地域に求められる医療の提供に力を注ぐ近森病院。
患者にとってより良い医療を提供するため、タスク・シフト/シェアに取り組み、看護師や他職種が専門性を発揮し、自ら考え行動するチーム医療を実現している。

「病棟常駐型チーム医療」で看護の専門性を発揮

同院では、医療の高度化や高齢患者の病態の複雑化に伴い、医師や看護師の業務が増大していた。岡本充子総括看護部長は「特に高齢患者には治療だけでなく、退院後の生活支援やフレイル予防、廃用症候群予防など多岐にわたる対応が求められる中、日々の業務に追われこれらのケアが十分にできていないのではないかと看護師はジレンマを感じていた」と話す。このような課題に対して、看護師だけ医師だけが患者に介入するのではなく多職種がベッドサイドで協働することが必要と考え、「病棟常駐型チーム医療」を導入した。

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相談・報告し合う多職種の皆さん

病棟常駐型チーム医療は、多職種が病棟に常駐し、それぞれの職種が専門性を発揮し自律して直接患者に介入する体制だ。多職種が病棟に常駐することで患者情報が共有されやすくなり、気がかりなことはすぐに相談でき、適切なタイミングで最適な患者介入が可能となった。情報共有がリアルタイムで行われることで、定例会議に割く時間が減り、看護師はベッドサイドでケアを提供する時間が増えた。

また、この体制の中で、多職種がコア業務に注力できるようタスク・シフト/シェアを推進した。看護業務については、看護判断を必要としないルーチン業務と、常に判断が必要な非ルーチン業務に分け、それぞれを明確化した。看護判断を必要としないルーチン業務は、標準化した上で他職種に委譲し、看護師が行う業務については、医療と生活の両面から患者を全人的に看て統合的に判断しケアを提供すること、さらに先を予測して対応することなどを考えながら絞り込んだ。これにより、看護の専門性発揮によるケアの質向上と業務の効率化を実現している。さらに多職種の労働環境の改善や、やりがいを持って生き生きと働く職員の増加といった成果も生まれている。

心不全患者へ最善の医療・ケアを提供する「心不全チーム」

本成果の一例として、ケアの質向上に取り組む慢性心不全看護認定看護師に触発された病棟常駐チームの他職種が共に研さんし、心不全療養指導士の資格を取得。心不全患者の最善の医療・ケアを目指して活動する「心不全チーム」が誕生したことが挙げられる。心不全チームは、対象患者が入院すると、それぞれの職種が収集した情報を、慢性心不全看護認定看護師が集約した上でカンファレンスを行い、患者一人ひとりに合わせた最善なケアを提供している。このような活動により、患者の症状管理が向上し、療養生活の質を高めている。

チーム医療では看護が要

同院が実施する病棟常駐型チーム医療の中で、看護師は多くの場面で看護判断をいかし、チーム医療を牽引している。また、心不全チームのような組織横断的な活動が進み、組織全体の業務の効率化と質の向上に寄与している。

看護を要としたチーム医療は、各職種それぞれの視点で全人的に患者を診ることができ、医療の質を上げ患者の利益に貢献している。さらに、労働生産性も高まり、結果的に病院機能の向上や収益の増加をもたらしている。これらの成果により、設備投資や人件費の増額といった未来への投資も可能になった。岡本総括看護部長は「病院経営においても、看護がチーム医療の要として役割を果たすことが鍵である。さらに、チーム医療の中で看護の専門性を発揮するにはマネジメントも重要」と語る。この要となる看護の専門性を発揮できる人材を育成するとともに、多職種と協力しながらチーム医療をさらに進化させていく。
(2025年1月22日掲載)

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