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認知症を有する術後患者の抑制の検討
事例紹介
経緯
78歳/男性/アルツハイマー型認知症、大腸がん
グループホームで暮らしている。長男・次男夫婦が近隣に在住
- 患者は2年前にアルツハイマー型認知症と診断され、息子宅の近所のグループホームに入居した。現在は「認知症高齢者の日常生活自立度 Ⅱ」(日常生活に支障をきたすような症状・行動や意志疎通の困難さが多少見られるが、誰かが見守っていれば自立可)で活発に歩き回っている。食事、排泄などは自立。入浴は億劫がるため声かけや一部介助が必要な状態である。最近のことが覚えられないなど、短期記憶障害が見られる。
- 血便の精査のため短期入院をして大腸の内視鏡検査をしたところ、大腸がんが見つかったため、手術目的で入院となった。
- 医師は患者・家族に対し、術後には、腹腔ドレーン、胃管チューブ、尿道カテーテル、末梢点滴など、多くのライン類が入るため、必要な場合には身体抑制を行うことを説明し、同意書にサインをもらっていた。
当事者の思い
患者 |
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家族 |
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医師 |
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看護師 |
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認知症による認知機能の低下がある患者が、術後に安静やライン類の管理が必要となる手術を受ける状況において、看護師は、患者の尊厳を守るためにはできるだけ身体抑制をしたくないという思いと、患者の安全を確保するためには身体抑制が必要だという思いの間で葛藤を抱えている。
解決に向けて
患者にとっての最善を考える視点
- 3要件「切迫性・非代替性・一時性」の観点から身体抑制が必要な状況であるか。
- 身体抑制を実施する期間を最小限とするためにはどのような方策が考えられるか。
- 家族は身体抑制を行うことについてどのように考えているか。
解決に向けた取り組み
患者の自由な行動を制限することは、患者の尊厳を損ねるため、本来実施すべきではない。しかし、医療職には、患者の安全を確保する責務もある。そのため、とりわけ集中治療の現場などの急性期の医療機関においては、患者の安全を守るために身体抑制が必要となる場合もある。しかしながら、どのような状況であっても、身体抑制を行うか、行わないかについての判断は、慎重かつ丁寧になされるべきである。患者の身体状況や意識レベル、認知機能や安全を保つことができない場合のリスク等を総合的に考えた上で、身体抑制の3要件「切迫性・非代替性・一時性」の観点から、看護師個人ではなく、チームで判断するプロセスがとても重要である。そのため、フローチャートなどを用いてこの判断のプロセスを明文化したり、身体抑制を実施している間のアセスメントや記録の頻度・項目等に関するルールを定めるなど、院内の体制整備がなされていることが望ましい。
<身体抑制の3要件についての判断>
身体抑制の3要件「切迫性・非代替性・一時性」について判断するためには、下記のような様々な観点から患者の状態を把握し、リスクをアセスメントした上で、的確な判断をすることが求められる。
①切迫性
切迫性の判断にあたっては、まず、患者の身体状況や意識レベルのアセスメントを丁寧に行うことが不可欠である。認知症と診断されていて、認知機能の低下があるように見える場合であっても、栄養状態や電解質バランスといった一時的な身体状況の変化から生じているものであるのか、疾患により生じているのかによって対応は異なる。患者の全身状態と認知機能を的確に把握し、安静を守れなかったり、自己抜去をするリスクがどの程度あるのかについてアセスメントをする必要がある。
次に、術直後に安静を守れなかったり、腹腔ドレーンを自己抜去するなどの事故が起こった場合に、患者の身体にどのような影響を与えるかを予測する必要がある。その際には、自己抜去など、事故発生時点での影響だけでなく、それによる入院期間の延長や身体機能の低下なども含めて考えることが求められる。
②非代替性
患者の安全を確保する方法が身体抑制以外にないのかについても検討が求められる。患者の認知機能によっては、説明を丁寧にしたり、掲示をしたり、医療機器の置く場所を工夫することで身体抑制を防ぐことができる場合も少なくない。
③一時性
保健医療福祉サービスに関わる専門職チームにおいて検討を行った結果、身体抑制をしない場合のリスクが大きく、身体抑制以外に患者の安全を確保する方法がないのであれば、術直後の一定期間のみ身体抑制が行われる。その場合には、必要最低限の期間、最も効果的な方法で身体抑制がなされることが求められる。
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