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第14回
2020/10/26

「ヘルシーワークプレイス」の輪を広げよう

看護職とサービスの受け手である患者(利用者)・家族との良好な関係形成は、当事者間だけでなく周囲の人にも良い影響を与え、最終的には提供される医療・看護の質の向上など組織運営にも良い影響を及ぼすという好循環が生まれます。一方で、第2回(2018年)で紹介したように、看護職が患者・家族からの暴力・ハラスメントに悩んでいる現状もあります。
このような現状をうけ、日本看護協会では2019年4月、看護職員に対する患者・家族らからのハラスメント対策を事業主に義務づけることを国に要望しました。その結果、同年6月の職場のパワーハラスメント防止対策の法制化にあたって、衆参両院は顧客から労働者への著しい迷惑行為等(カスタマーハラスメント)への対策と、訪問看護や医療現場でのハラスメントの実態把握等を求める附帯決議を可決しました。そして、令和元年度厚生労働科学研究事業「看護職等が受ける暴力・ハラスメントに対する実態調査と対応策検討に向けた研究」で、国として初めて看護職等が受ける暴力・ハラスメントについての実態調査が行われました。
この調査から、看護職等が受けている暴力・ハラスメントの正確な状況を把握するための報告体制の整備が喫緊の課題として明らかになりました。これは、回答施設(n=905)のうち21.2%(192件)が看護職に対する暴力等の発生件数を把握しておらず、また「報告されない看護職等への潜在的な暴力等」の有無については、「とてもあると思う」「あると思う」と回答した施設が77.8%(724件)に上っていたためです(図1)。
暴力・ハラスメントの予防対策としては、患者(利用者)・家族との良好な関係形成のためのコミュニケーションスキルアップを目指した研修の導入が有用とされています。しかし、調査(n=939)では、「ロールプレイなどを取り入れた暴力等予防のためのコミュニケーショントレーニングを行っている」と回答した施設は14.5%(136件)と、まだ少ないことが明らかになりました(図2)。例えば、第9回でご紹介した「医療メディエーション」モデルの研修もその一つですが、患者(利用者)・家族と良好なコミュニケーションをとれる人材を育成する視点が非常に大切であり、今年度厚生労働省では、暴力・ハラスメントに対する教材(e-ラーニング)を作成する予定です。また、暴力・ハラスメント対策においては、予防から発生時・発生後とそれぞれの段階に対し取り組むことが必要であり、各段階での対策については、労働安全衛生ガイドライン2)でも紹介をしています。ぜひご活用いただき、患者・家族からの暴力・ハラスメント対策に取り組んでみてください。
本会の「看護職の健康と安全に配慮した労働安全衛生ガイドライン ヘルシーワークプレイス(健康で安全な職場)を目指して」では、ヘルシーワークプレイスを構成する人々として、「看護職一人ひとり」、「看護管理者」、「組織・施設」と並んで、「地域・社会・患者(利用者)」を挙げています。それは、看護職が継続的に質の高い看護を提供していくためには、「地域・社会・患者(利用者)」の理解と協力が欠かせないからです。2019年9月に本会が全国の病院・有床診療所を対象に実施した調査では、回答医療機関の59.0%が本「ガイドライン」を「知っている」と回答していますが、今後も皆様とともに「地域・社会・患者(利用者)」に対し看護職が働く環境について理解と関心を持っていただけるよう働き掛け、協働してヘルシーワークプレイスを作っていけるよう活動を続けていきたいと思います。

図1.報告されない看護職等への潜在的な暴力 n=905

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令和元年度厚生労働科学研究事業
「看護職等が受ける暴力・ハラスメントに対する実態調査と対応策検討に向けた研究」

図2.患者との良好なコミュニケーションの工夫(複数回答 n=939)

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令和元年度厚生労働科学研究事業
「看護職等が受ける暴力・ハラスメントに対する実態調査と対応策検討に向けた研究」

■参考文献:
  1. 近藤隆雄:サービス・マネジメント入門〔第三版〕-ものづくりからかちづくりの視点―,生産性出版,2007