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第15回
2021/10/01

労災認定基準にみる「業務負荷軽減」のポイント
~夜勤・交代制勤務の負担軽減のヒントに~

先ごろ労災認定基準が改正され、業務による負荷要因として「脳・心臓疾患の労災認定基準」では「勤務時間の不規則性」が、「精神障害の労災認定基準」では「パワーハラスメント」が追加されました。

■労災認定基準見直しの経緯

労災保険は、働く人々が仕事(業務)や通勤が原因で負傷した場合や病気になった場合、さらに亡くなった場合等に、本人や遺族が保険給付(医療費、休業補償、遺族補償など)を受け、あるいは支援を利用できる制度です。
例えば過労死が疑われる場合、遺族による労災請求に対し労働基準監督署が調査の上、支給・不支給を決定しますが、「労災認定基準」はその拠り所となります。
改正前の「脳・心臓疾患の労災認定基準」は2001年、「精神障害の労災認定基準」は2011年に定められたものです。働き方の多様化や職場環境の変化、新たな医学的知見や立法の状況などを踏まえて改正に向けた検討が行われました。なお、改正「労働者災害補償保険法」の施行(2020年9月1日)に伴い、複数の職場を兼務する労働者については、保険給付額は全ての勤務先での賃金を合算した額をもとに決まること、また労災認定は全ての勤務先の負荷(労働時間やストレス等)を総合的に評価して判断することになりました。

■あらたな脳・心臓疾患の労災認定基準 「勤務時間の不規則性」とは

新たな労災認定基準は、「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(2021年7月)をふまえて9月15日付で適用されました。
新基準では、脳・心臓疾患発症につながる長時間労働のいわゆる「過労死ライン」(時間外労働月100時間超、複数月で80時間超)に至らなくとも、これに近い労働時間がある場合には、労働時間以外の一定の負荷があれば業務と発症の関連性が強いと評価できるとし、この「負荷要因」に「勤務時間の不規則性」を新設しています。
業務の過重性の評価にあたって、従来基準でも、「不規則な勤務」「拘束時間の長い勤務」「交替制勤務・深夜勤務」「精神的緊張を伴う業務」を負荷要因として挙げていました。新基準で新設された「勤務時間の不規則性」の細目は、『拘束時間の長い勤務』、『休日のない連続勤務』、『勤務間インターバルが短い勤務』、『不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務』です。負荷の程度を検討・評価するポイントとして、『勤務間インターバルが短い勤務』については「おおむね11時間未満の勤務の有無、時間数、頻度、連続性等」を、また、『不規則な勤務・交代制勤務・深夜勤務』については「交替制勤務における予定された始業・終業時刻のばらつきの程度、勤務のために夜間に十分な睡眠がとれない程度(勤務の時間帯や深夜時間帯の勤務の頻度・連続性)、一勤務中の休憩の時間数及び回数、休憩や仮眠施設の状況(広さ、空調、騒音等)」等を挙げています。

■看護職員の夜勤負担軽減のヒントに

医療施設勤務の看護職員の多くが夜勤を含む交代制勤務に従事していますが、現状では夜勤ができる看護職員の確保が難しいのが実情です。年齢が高くなっても、子育てや介護をしながらでも、無理なく続けられる夜勤を目指して、その負荷をどのように軽減していくかが切実な課題となっています。新労災認定基準が示す「勤務時間の不規則性」の要素は、看護現場が直面する課題に相通ずるものであり、今後の勤務負担軽減に向けた取り組みの方向性を示すものでもあります。
<引用・参考文献>
  1. 労働安全衛生総合研究所過労死等防止調査センター「平成29年過労死等の実態解明と防止対策に関する総合的な労働安全衛生研究」
  2. 「過労死等の労災補償状況」(各年度)厚生労働省労働基準局補償課 職業病認定対策室
  3. 「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正について」厚生労働省労働基準局長通知(基発0529 第 1 号令和2 年5 月29日)
  4. 脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(令和3年7月)
  5. 「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」厚生労働省労働基準局長通知(基発0914第1号令和3年9月14日)