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第18回
2021/10/22

職場の心理的安全

「先ほどの指示の内容がよくわからなかったので、もう一度聞いてもいいですか」
「なんでそんなこともわからないの」

あなたの職場でこんな場面を経験したことがありますか。
もし、このような状態が日常的に続くと、職場に行くのが憂鬱になってしまいますね。また、疑問やちょっとしたアイデアを言いにくくなるでしょう。

■職場の心理的安全とは

いま、「職場の心理的安全性」が注目を浴びています。「心理的安全性(psychological safety)」とは、ハーバード大学で組織行動学を研究するエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱した概念です。エドモンドソン教授によると心理的安全性とは「支援を求めたりミスを認めたりして対人関係のリスクをとっても、公式、非公式を問わず制裁を受けるような結果にならないと信じられること」であると定義しています。そして、「個の職場では、率直に意見を言ったりアイデアを提供したり質問したりしても、懲らしめを受けるんじゃないか、ばつの悪い思いをするんじゃないかと不安になったりしない」と感じるときに存在するものだとしています1
心理的安全性が、世界中の多くの企業から注目を集めるようになったのは、Google社が2012~2015年までの4年間に行った生産性向上のための労働改革プロジェクトの成果報告として、「心理的安全性がチームの生産性を高める重要な要素である」と発表したことに端を発しています。
上司や同僚に質問や相談をしたいときに「そんなことも知らないのか」と思われる不安から、質問や相談を躊躇したり、強く叱責されることを恐れ、ミスがあっても報告できず、後々大きなトラブルになってしまうこともあります。
エドモンドソン教授は、心理的安全性に関心を持つようになった頃、調査の一環として病院で調査を行いました。新著『恐れのない組織』では、こんな例を紹介しています。
A医師がある投薬を指示しなかったことに対し疑問をもった看護師が、迷った末に意見を言わないことにしました。前の週にA医師の指示に疑問を投げかけた別の看護師が人前で厳しく叱責されていたことを思い出したからです。A医師の方が自分より知識が豊富で、自分の意見など受け入れられないという思いもありました。エドモンソン教授は、こうした「職場で率直に意見できないというのは、重要な、しばしば見過ごされている行動の典型」であり、「対人関係のリスクを取っても安全だと感じられる職場環境であること、それが心理的安全性」だとしています。そして「有能なチームには率直に話す風土があって、気軽にミスを報告したり話し合ったりできる・・・優秀なチームは、ミスの数が多いのではなく、報告する数が多いのだ」と考えたのです。また病院内でも、グループによって心理的安全性に違いがあり、「心理的安全性はグループレベルで存在」することから、心理的安全性はグループリーダーによって作られると述べています。

■職場の心理的安全がもたらす効果

このように、心理的安全性が高まると、職場の風通しがよくなることで職場の人間関係の改善も期待でき、仕事に集中しやすい環境が維持できます。また、メンバーが発言しやすい環境ができるため、チーム内での情報交換が活発化します。ミスの報告をする際の心理的なハードルが低くなるため、ミスや問題が生じたときにもすぐに報告・共有ができ、迅速な対応が可能になります。
さらに、心理的安全性が高まると、ストレスが減るなどのメンタルヘルスケア面での効果も期待できます。ストレスが軽減されれば、心に余裕が生まれ、仕事のやりがいを感じやすく、仕事への「エンゲージメント向上」といった効果が生まれるとされています。
では、心理的安全性が高いチームを作るにはどうすればよいか。まずは、お互いの存在を受け入れるだけでなく、尊重し合える関係性を築くことが大切です。多様な価値観を認め、お互いの個性の違いを深く理解することが重要です。それは、まさにヘルシーワークプレイスが目指す職場の姿であり、その実現に求められていることと同じです。
仕事の取り組み方やチームへの貢献など、チームメンバーに対し、感謝の気持ちを伝えることも重要です。言葉にすることで、相手を受け入れる姿勢を示せます。

<心理的安全性を測る「7つの質問」>

心理的安全性を測定する方法として、エドモンドソン教授が提唱した以下の7つの質問があります。ネガティブな回答が多ければ、チーム内で信頼関係が築けておらず、不安を抱えている可能性が高いとされています2
  1. このチームでミスをしたら、きまって咎められる。(R)
  2. このチームでは、メンバーが困難や難題を提起することができる。
  3. このチームの人びとは、他と違っていることを認めない。(R)
  4. このチームでは、安心してリスクをとることができる。
  5. このチームのメンバーには支援を求めにくい。(R)
  6. このチームには、私の努力を踏みにじるような行動を故意にする人は誰もいない。
  7. このチームのメンバーと仕事をするときには、私ならではのスキルと能力が高く評価され、活用されている。
さて、あなたの職場はいくつあてはまりますか。
<引用・参考文献>
1.エイミー・C・エドモンドソン、『チームが機能するとはどういうことか――「学習力」と「実行力」を高める実践アプローチ』、英治出版、2014.
2.エイミー・C・エドモンドソン、『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』、英治出版、2021.