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第3回
2018/09/18

若い看護職は暴力やハラスメントの被害者となりやすい

看護職は、なによりも患者の安全と適切なケアの提供を優先し、患者の権利の尊重に努めてきました。もちろんそれらは看護職として然るべき行動ですが、しかし、その一方で、自分自身や同僚、部下である看護職の人権の尊重を後回しにする傾向になかったでしょうか。
例えば、「患者さんに暴力をふるわれても看護職だからしかたない」、「私たちも若い頃はよく先輩に怒鳴られた」と看護職自身がそれらの行為を暴力やハラスメントとして捉えることなく、“誰もが一度は経験すること”として捉えてきませんでしたか。
暴力やハラスメントは、被害者を精神的に追い詰めるだけでなく、PTSD(心的外傷後ストレス障害)やうつ病など精神障害を引き起こし、最悪の場合、自死に至ることもあります。“誰もが一度は経験すること”という捉え方が時として人の命を奪うこともあるのです。
特に新卒看護職などの若い年代の看護職ほど、職場内の暴力やハラスメントの被害者になりやすいことがわかっています。「2017年 看護職員の実態調査」(日本看護協会)のなかで、最近1年間に勤務先または訪問先などで暴力・ハラスメントを受けた経験を尋ねたところ、経験が「ある」と答えたのは52.8%であり、その中でも20代は57.1%と他の年代より高い割合でした。特に20代では「意に反する性的な言動」、「身体的な攻撃」の項目が他の年代と比べて高く、「精神的攻撃」も少なくありません(表参照)。

【表】年齢・暴力やハラスメントを受けた経験のあるもの(複数回答)

意に反する性的な言動 身体的な
攻撃
精神的な
攻撃
人間関係からの切り離し 過大な要求 過小な要求 個の侵害 何らかの暴力・ハラスメントを受けたことがある
2,617
(100.0)
420
(16.0)
600
(22.9)
825
(31.5)
468
(17.9)
342
(13.1)
160
(6.1)
199
(7.6)
1,383
(52.8)
20〜29歳 485
(100.0)
100
(20.6)
149
(30.7)
148
(30.5)
80
(16.5)
66
(13.6)
24
(4.9)
48
(9.9)
277
(57.1)
30〜39歳 651
(100.0)
121
(18.6)
166
(25.5)
226
(34.7)
111
(17.1)
92
(14.1)
38
(5.8)
57
(8.8)
351
(53.9)
40〜49歳 766
(100.0)
118
(15.4)
164
(21.4)
230
(30.0)
142
(18.5)
107
(14.0)
53
(6.9)
49
(6.4)
409
(53.4)
50〜59歳 584
(100.0)
73
(12.5)
108
(18.5)
191
(32.7)
112
(19.2)
68
(11.6)
39
(6.7)
37
(6.3)
299
(51.2)
60歳以上 126
(100.0)
6
(4.8)
11
(8.7)
29
(23.0)
20
(15.9)
8
(6.3)
5
(4.0)
6
(4.8)
44
(34.9)
無回答・不明 5
(100.0)
2
(40.0)
2
(40.0)
1
(20.0)
3
(60.0)
1
(20.0)
1
(20.0)
2
(40.0)
3
(60.0)
20〜29歳
485
(100.0)
意に反する性的な言動 100
(20.6)
身体的な攻撃 149
(30.7)
精神的な攻撃 148
(30.5)
人間関係からの切り離し 80
(16.5)
過大な要求 66
(13.6)
過小な要求 24
(4.9)
個の尊厳 48
(9.9)
何らかの暴力・ハラスメントを受けたことがある 277
(57.1)
30〜39歳
651
(100.0)
意に反する性的な言動 121
(18.6)
身体的な攻撃 166
(25.5)
精神的な攻撃 226
(34.7)
人間関係からの切り離し 111
(17.1)
過大な要求 92
(14.1)
過小な要求 38
(5.8)
個の尊厳 57
(8.8)
何らかの暴力・ハラスメントを受けたことがある 351
(53.9)
40〜49歳
766
(100.0)
意に反する性的な言動 118
(15.4)
身体的な攻撃 164
(21.4)
精神的な攻撃 230
(30.0)
人間関係からの切り離し 142
(18.5)
過大な要求 107
(14.0)
過小な要求 53
(6.9)
個の尊厳 49
(6.4)
何らかの暴力・ハラスメントを受けたことがある 409
(53.4)
50〜59歳
584
(100.0)
意に反する性的な言動 73
(12.5)
身体的な攻撃 108
(18.5)
精神的な攻撃 191
(32.7)
人間関係からの切り離し 112
(19.2)
過大な要求 68
(11.6)
過小な要求 39
(6.7)
個の尊厳 37
(6.3)
何らかの暴力・ハラスメントを受けたことがある 299
(51.2)
60歳以上
126
(100.0)
意に反する性的な言動 6
(4.8)
身体的な攻撃 11
(8.7)
精神的な攻撃 29
(23.0)
人間関係からの切り離し 20
(15.9)
過大な要求 8
(6.3)
過小な要求 5
(4.0)
個の尊厳 6
(4.8)
何らかの暴力・ハラスメントを受けたことがある 44
(34.9)
無回答・不明
5
(100.0)
意に反する性的な言動 2
(40.0)
身体的な攻撃 2
(40.0)
精神的な攻撃 1
(20.0)
人間関係からの切り離し 3
(60.0)
過大な要求 1
(20.0)
過小な要求 1
(20.0)
個の尊厳 2
(40.0)
何らかの暴力・ハラスメントを受けたことがある 3
(60.0)
2,617
(100.0)
意に反する性的な言動 420
(16.0)
身体的な攻撃 600
(22.9)
精神的な攻撃 825
(31.5)
人間関係からの切り離し 468
(17.9)
過大な要求 342
(13.1)
過小な要求 160
(6.1)
個の尊厳 199
(7.6)
何らかの暴力・ハラスメントを受けたことがある 1,383
(52.8)
では、なぜ若い年代の看護職が暴力やハラスメントの被害にあいやすいのでしょうか。
その背景には、生命を左右する緊急性・切迫性の高い場面で、時に社会的に不適応な態度や発言も問題視されない風潮が影響していると考えられます。さらに、ICN(国際看護師協会)の所信声明「職場の暴力の予防と管理」(2017年改訂日本看護協会訳)では、看護学生や新人看護師が職場の暴力やいじめに対処する力が弱い、脆弱な存在であるため、被害者となるリスクが高いとしています。
また、同所信声明では、あらゆる形式の暴力を「ゼロ容認(Zero tolerance)」として政策の開発を促進し、支援するとしています。「暴力やハラスメントとは何を指すのか」、その内容を明確化し組織で共有することが重要です。さらに、若い年代の看護職が薄弱な存在であることを理解した上で、暴力やハラスメントに対する対処能力を身につける研修等を設けることも一つの対策となります。
今回は、若い年代の看護職に焦点をあてましたが、全ての看護職が暴力やハラスメントの被害者になり得ます。看護職を守ることは、結果的に患者(利用者)を守ることにつながるという認識のもと、看護職の健康と安全に配慮し、働きやすい環境をみんなで作り上げていきましょう。