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第16回
2021/10/08

夜勤中の仮眠を取ろう
~医療安全の確保とあなた自身の健康のために~

■特に長時間夜勤では、安全を守るために仮眠を確保しよう

安全に夜勤をするためには仮眠が大切です。勤務前の睡眠は夜間の疲労を軽減するために、また夜勤中の仮眠は覚醒度と注意力を保つために欠かせません。長時間にわたる夜勤では2時間以上の仮眠を取ることが望ましいですが、短時間でもできる限り眠ったほうがよいのです。日本看護協会「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」(2013年)は、夜勤中に仮眠をとることを推奨しています。「ガイドライン」では、1回の勤務時間を「13時間以内」とするよう推奨していますが、拘束時間が16~17時間に及ぶ長時間夜勤が一般に行われており、さまざまな理由からその短縮はなかなか進んでいません。特にそのような長時間夜勤で、医療安全と働く人の安全・健康を守るために、ぜひ実行していただきたいのが「夜勤中の仮眠の確保」です。

■仮眠はなぜ必要?その効果とは?

1.疲労回復と明け方の眠気解消
夜勤中の仮眠は、いつもの夜間睡眠と同じ「睡眠時間帯」に眠るため、寝つくまでの時間が短く、疲労回復に必要な深い睡眠が出やすいことから、効率的な疲労回復が可能になります。また、仮眠によって勤務終了までの夜間の覚醒時間が短くなるため、特に早朝時刻帯に生じる眠気が抑えられ、この時間帯のヒヤリ・ハットの発生防止にもつながります。
2.生体リズム維持(アンカースリープ効果)
夜勤は、そもそも体温が低下していく時刻帯に起き続けることになるため、本来人間が持つ日中志向型の生体リズムが崩れやすいですが、深夜帯に仮眠を取ると、睡眠の体温を下降させる働きによって本来の生体リズムを維持できます。すなわち、睡眠の一部をいつも寝ている夜間に取っていれば、それがアンカー(錨:いかり)になって、頂点位相(1日でもっとも体温が高い時刻)のずれによるリズム障害が防げるというものです。
一般社会や生活を共にする家族が昼型の生活スタイルであるため、あなた自身も夜勤時以外は昼型の生活をすることになり、その都度日中志向の生体リズムに引き戻されることになります。このため、仮に感覚的に「夜勤慣れ」を感じたとしても完全な夜型の生体リズムに適応することはありません。よって、仮眠により本来の生体リズムを維持しておくことが社会生活上も健康保持のためにも大切です。
3.生活時間の有効活用
仮眠により疲労回復しておくと、夜勤明けやそれに続く休日に疲労が残ることを避けられ、自分の自由な時間を昼間睡眠にあてる必要が少なくなるため、生活時間の有効活用につながります。仮に、仮眠を取らなかった場合は、疲労回復を図るために夜勤明けやそれに続く休日を、寝たり起きたりして過ごすことも珍しくないと思います。昼間は、量や質ともに満足する睡眠を取ることは難しいので、疲労を持ちこさないためには夜間に仮眠を取ることが効果的です。
4.長期的に夜勤を続けた時の健康影響を防ぐ
長期的に夜間に人工照明に曝露(ばくろ)することで、乳がんや前立腺がんの発生の怖れが高まる可能性があるといわれています。これは、夜間睡眠中に分泌されるはずの抗酸化作用や抗腫瘍作用を持つメラトニンが分泌抑制されるためです。仮眠を2時間取った場合は、通常の夜間睡眠時間より短いとはいえ、その間はメラトニンが分泌されるので影響を少なくすることが期待できるとされています。

■上手な仮眠、効果的な仮眠のヒント

仮眠後しばらくはぼんやりとすることがあります。これを避けるために仮眠を取らない人がいますが、逆に疲労をため込むことにつながります。きちんと覚醒することができるまでの時間を考慮して、起床時間を決めましょう。安心して眠れるように、入眠前にはアラームをセットしておきましょう。
1.眠気を払うための方法
  • ストレッチをするなど軽く身体を動かす。
  • 手や顔を冷たい水で洗う。
  • 明るい部屋に行く。明るい光を浴びる。
2.仮眠室の確保がポイント
あなたの施設に仮眠室はありますか。また仮眠室の環境はどうですか。緊急時以外、ナースコールなどで睡眠が阻害されない場所にあること、空調、温度、照明の調整ができ、清潔な寝具ときちんと横になれる設備があることが大切です。静かに休める場所がない場合、必要なら施設の管理者などに相談し、場所が確保されるようにしましょう。

■夜勤中の仮眠環境の整備にむけて~体制・仮眠室~

夜勤中に交代で仮眠を取るには、仮眠に入っている時間帯の看護体制として看護師が実質一人にならないよう配慮が必要です。夜勤者が何人であっても全員が仮眠を取る必要があるので、確実に仮眠が取れて、かつ安全に業務を遂行できる人員配置が必要です。部門の管理者の皆さんは、夜勤者全員が順に仮眠を取れるよう、スケジュールを立て指示をしてください。
安全に、快適に仮眠が取れる環境づくりも大切です。しかし、日本看護協会の調査によれば、看護職員の仮眠のために「仮眠のための個室が必要数ある」病院は2割程度にすぎず、「仮眠専用スペースはないが横になれる場所がある」が4割弱という結果でした(図1)。
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図1 仮眠環境の整備状況(病院調査)

また、看護職員の側でも、仮眠環境に対する満足度は決して高いとはいえません(図2)。地域医療介護総合確保基金で仮眠環境の整備をサポートしている県もあります。お勤め先の仮眠環境の実態を確認し、よりよい仮眠環境づくりに向けて皆さんの意見を聞きながら、改善に向けて一歩を踏み出してみませんか。  image

図2 職員の仮眠環境への満足度(看護職員調査)

■引用・参考文献:
  1. 「看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」日本看護協会(2013年)
  2. 吉田有希,佐々木司,三澤哲夫,肝付邦憲:12時間2連続夜勤を想定した夜間覚醒時にとる仮眠の効果;仮眠後の覚醒水準に及ぼす影響,労働科学,74(10):378-390,1998.
  3. Cohen M,LippmanM,ChabnerB:Pinealglandandbreastcancer,Lancet,2(8104-5):1381,1978
  4. StevensRG:Electricpoweruseandbreastcancer;ahypothesis,Am J Epidemiol,125(4):556-561,198
  5. 日本看護協会:2019年病院および有床診療所における看護実態調査報告書, 2020.