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第8回
2019/09/17

「妊娠は病気じゃありません」発言が
なぜ「マタハラ」になるのか考えてみましょう

「妊娠は病気じゃありません」発言がなぜ「マタハラ」になるのか考えてみましょう

「マタハラ」は「マタニティハラスメント」の略で、妊娠・出産・育児休業などの利用をめぐる、職場でのさまざまな嫌がらせの総称です。ここでは、看護の現場で実際にあった出来事をめぐって、ご一緒に考えてみましょう。
仮に看護師長Aさんとしますが、Aさんが妊娠した部下にかけた「妊娠は病気じゃありませんからね」という言葉が「マタハラ」にあたるとして、周囲から厳しい声を浴びてしまいました。「妊娠は病気ではない」ことは科学的な事実ではありますが、妊娠した部下から夜勤を減らしたいと相談されたときにこの言葉が発せられており、当然社会的な文脈で解釈されることになります。おそらく、病棟で夜勤ができるメンバーの確保が難しくなっていたところへ、さらに「おめでた」で夜勤の減免申請が出たため、これを何とか控えて欲しいという思いが発言の背景にあったのでしょう。この発言からにじみ出る上司のホンネ、つまり、「妊婦だって特別扱いはしません」「甘えないでね」「夜勤はしてもらいます」「最近の人は権利ばかり主張して困る」・・・などのネガティブなニュアンスを、部下は敏感に感じ取り、上司への反発や批判につながったのです。
この場合、「看護師長Aさんの“妊娠は病気じゃありませんから”発言」は、「マタハラ」(マタニティハラスメント防止措置の対象行為)に該当します(下図)。この段階では、実際に妊娠した部下から時間外勤務や夜勤減免の申請は出ていませんが、対象者にこれら制度の利用をためらわせるような上司の言動自体が、「ハラスメント」にあたることに注意してください。当然、労働基準法に定められた妊産婦の軽易業務転換や時間外・休日・深夜業の減免申請自体を拒否することはできませんし、制度を利用したことを理由に減給や降格などの不利益な取扱いをすることも禁じられています。

【図】妊娠・出産等に関するハラスメントの類型

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厚生労働省:職場におけるハラスメント対策マニュアル(平成29年度)

日本では「育児・介護休業法」で、事業主にマタニティハラスメント防止対策が義務付けられています(表)。実際にハラスメント事案が発生したら、事業主は被害者への配慮の措置、行為者への措置(注意指導、懲戒など)とともに、再発防止のため管理者の啓発や制度の周知などの対策をとらねばなりません。また、「ハラスメントの原因や背景要因解消のための措置」を求められています。女性が多数を占める看護の職場では、常に職員の妊娠・出産が発生し、さらに育児との両立支援措置の利用が続きます。法定の母性保護、育児両立支援措置に適切に対応するためには、看護職員の妊娠・出産をあらかじめ見込んだ人員配置が必要です。しかしこれが十分ではない、さらには欠員補充がされない状況では、現場を預かる中間管理者が人繰りに窮した果てに、部下への不適切な言動に走ってしまうこともあるのでしょう。「ハラスメントの原因や背景要因解消」は容易ではありませんが、組織の責任としてぜひ、考えていただきたいものです。

事業主に義務づけられた雇用管理上必要な措置

  1. 事業主の方針の明確化およびその周知・啓発
  2. 相談(苦情を含む)体制の整備
  3. 事後の迅速かつ適切な対応
  4. ハラスメントの原因や背景要因解消のための措置
  5. 当事者のプライバシーの確保等
なお、妊産婦の軽易業務転換や時間外・休日・深夜業の減免には客観的に妊娠の事実が確認できれば良く(たとえば母子保健手帳の写しの提出)、必要性について医師の診断書を求めることは不適切です。さらに、母性健康管理措置に関する主治医の連絡カードを受け取った場合、事業主は通勤緩和や休憩に関する措置など主治医の指示が守れるようにすることが求められます。
さて、看護師長Aさんの部下たちからはその後こんな声が挙がりました。「欠員補充がないのだから、切迫流産で何週間も休まれたらそのほうが迷惑、無理をさせないで。」「夜勤はいいから、日勤リーダーに入って欲しい」「しんどければナースステーションで座っていていいですから。居てくれると若いナースは心強い」。看護師長Aさんは、部下たちのサポートに感謝しながら、管理者として何ができるか再考しようとしています。