訪問看護における活動

更新日:2020年9月16日

高齢者の「ステイホーム」を支える訪問看護

松戸市東松戸訪問看護ステーション 看護師長
 水野敏子さん

松戸市東松戸訪問看護ステーションの皆さん
松戸市東松戸訪問看護ステーションの皆さん

松戸市東松戸訪問看護ステーションは、千葉県東葛北部に位置し、病院に併設された24時間対応の自治体立事業所だ。新型コロナウイルス感染症が拡大する中、居宅サービスの利用状況は大きく変化した。看護師からの感染を危惧して訪問を控える利用者や、デイサービスの休業に伴うショートステイへの変更が増えた一方で、デイサービスを訪問看護の利用に変更し、訪問回数を増やすことで異常の早期発見や感染症に対する不安やストレスの軽減につながった利用者もいる。孤立しやすい環境にある利用者にとって、医療知識のある訪問看護師は、心と体の両面から療養を支える大きな存在だ。

4月、同ステーションの利用者が、通っていたデイサービスで感染者が確認されたことから2週間の自宅待機を求められた。訪問看護も中止となり、高齢者2人の生活だったためADL低下による介護者の負担増加と、孤立する不安や認知機能の低下リスクが予測された。

そこで、看護師長の水野敏子さんは、電話を使ってこの利用者や介護者の体調確認や感染対策のアドバイスを行い、不安の軽減に努めた。また、発熱し感染の可能性のある利用者が出た際には主治医に相談し、訪問した看護師が受診可能な病院を探すこともあった。このようなケースでは、利用者を医療機関につなぐことが通常時のように容易ではなく、地域での体制整備が求められる。在宅療養者の重症化防止のため、早期から予防的に関わることも訪問看護師の重大な使命だ。しかし、業務が煩雑になる中で人員不足のため新規契約ができない状態が続き、新規の利用ニーズに十分応えられないというジレンマもある。

利用者や家族とともに感染対策を徹底

感染対策として、同事業所では、出勤時の体温測定やスタンダード・プリコーション(標準予防策)を徹底したほか、訪問時にはガウン・キャップ・フェイスシールドを携帯し、必要時に使用している。訪問前には電話で利用者や家族の体温・体調確認を行い、訪問時にはマスクの着用に協力してもらっている。水野さんは「利用者や家族も、マスク着用や手指の消毒、うがいなどが徹底されており、危機意識が高いことを実感した」という。

黄色ガウンを着た訪問看護師の画像

青色ガウンを着た訪問看護師の画像

黄色は微熱や吸痰の利用者、青はそれ以外の利用者と、
状況ごとに色分けして使用している

水野さんらは、利用者宅への巡回方法も、効率を考えた動線から、症状やケア内容を重視し感染拡大のリスクに配慮したものに変更した。訪問する利用者には、当日の朝、電話で体調の確認を行う。利用者や家族に発熱やせき、倦怠感があれば訪問順を最後にした。また、利用者に対し、できる限り同じ看護師が訪問できるよう業務を調整した。毎月の外来受診による感染リスクを不安に感じている利用者や家族には、受診頻度を減らしてよいか、主治医に確認をしてみるようアドバイスもした。同ステーションは自治体立事業所で、公用車を利用しているため自宅からの直行・直帰ができない環境にある。そのため、スタッフ間の濃厚接触を避けることを徹底。その結果、スタッフやその家族も体調を崩すことなく業務ができている。

こうした中、物資不足については、千葉県看護協会はじめ全国訪問看護事業協会や自治体からのマスクなどの提供により、現在1日1枚の使用としている状況だ。また、地域の量販店から訪問看護連絡協議会に訪問時に着用するアンダーシャツの提供や飲料メーカーから飲み物の差し入れを受けた。異業種からの支援は、感謝と共に厳しい環境下でのモチベーション維持にもつながった。

4月から利用者数の変化はないが、延べ訪問件数は増えており、収入は増加傾向にある。デイサービスやショートステイを控えている利用者が数人いたため、代わりに訪問看護を利用した影響が出ているという。

状況に応じて柔軟に 地域をつなぐ訪問看護師

現在も、3密を避けるため、地域のサービス担当者会議や病院に出向いての退院時共同指導ができず、水野さんらは多職種との情報共有をスムーズに行う難しさを感じている。退院時やサービス担当者間での会議が開催できず、病院のメディカルソーシャルワーカーやケアマネジャーと繰り返し電話やFAXで情報を共有した。

今後も感染拡大が懸念される中、水野さんは「利用者の状況に応じて、訪問必須・訪問回数を減らす・訪問中止の3段階の判断が求められる」と語る。「ステイホーム」は安全のために必要な対応である反面、地域にいながら、それぞれの利用者が孤立した環境にもなりがちだ。多くの疾患を抱える高齢者の健康支援や認知症予防、感染対策を遵守した安全な生活支援に向け、「地域で暮らし続ける」在宅支援を実践する上で、地域をつなぐ訪問看護師に期待される役割は大きい。

(2020年9月14日確認)

地域全体で感染予防に取り組む

野村訪問看護ステーション・三鷹市連雀地域包括支援センター 所長 家崎芳恵さん

医療法人財団慈生会野村病院に併設されている、野村訪問看護ステーションと三鷹市連雀地域包括支援センター。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、家崎芳恵所長は「もし職員が感染したら、200人の利用者の在宅看護はどうなるのか」との危機感を持った。職員に感染者が出た場合でも訪問看護事業が継続できること、そのために地域の訪問看護事業所が協力し合うことが必要だった。また、在宅療養者は、訪問看護だけでなく訪問介護、デイサービス、ケアマネジャーなど多くの関係者と関わっており、療養者や介護者にも感染予防に対する正しい知識と対応を知ってもらうことが重要だ。家崎所長は「訪問看護が先導して、感染拡大予防対策を伝えていかなければ」と考えた。

サービスの維持へ 相互協力と情報共有

訪問看護事業を維持するため、家崎所長はまず職員をチーム分けし、時差通勤、直行・直帰、フレックス勤務などを使って職員同士の接触を減らした。カンファレンスや相談ができないことによるストレスや不安、情報の集約不足の危険性なども考慮し、オンラインで顔を見ながら相談・報告ができる仕組みも整えた。また、職員の感染で事業を縮小することになった時のために、訪問が必須の利用者と家族対応が可能な利用者とを振り分けた。さらに、感染者や濃厚接触者への訪問が必要になった場合に対応する職員と、非感染者に対応する職員のチーム分けも実施。感染者への訪問に対応する職員のメンタルケアや、宿泊場所の確保なども想定して準備を整えた。

これまで、地域の訪問看護ステーション同士の連携はあっても、タイムリーな情報共有や協力体制は十分ではなかった。そこで、家崎所長らは2月下旬、三鷹市内の事業所に、感染対策マニュアルの有無や実施している対策、個人防護具(PPE)の有無などを調査した。3月上旬には、市内の訪問看護ステーションのメーリングリストを作成。「みんなで守ろうみたか」をもじって「トリプルM」と命名した。20事業所23人が参加し、地域の現状やフェイスシールドの作り方を共有したほか、各種マニュアルの提案などを行った。今のところ地域の訪問看護師の発症はないが、今後もいざという時に協力し合えるよう関係強化を図っていくという。

関係者へ適切な感染予防と支援を

フェイスシールドを着けて利用者に対応する家崎芳恵さん
フェイスシールドを着けて
利用者に対応する訪問看護師(右)

同ステーションでは、利用者が安心してサービスを受けられるよう、毎月発行している「野村訪看STだより」にステーションが行う感染対策や利用者側でできる感染予防の取り組み、フレイルや熱中症予防などの記事を掲載した。ケアマネジャー向けには、事務所の環境整備(消毒)や利用者との面接時、食事やミーティング時など、テーマや場面ごとに動画を作り、視聴者を限定してYouTubeで配信した。初めての試みだったが、顔見知りの訪問看護師が登場することで、関心を持って見てもらうことができた。現在は「手洗いの仕方」「マスクの扱い」といった体験型の研修も計画している。利用者が発熱した際、訪問に不安を抱えるヘルパーについては、手指消毒の仕方やマスクの交換などを丁寧に説明した。

4〜5月は「熱がある」だけで受け入れ医療機関が見つからず、救急搬送に2時間もかかるという状況が続いていた。新型コロナウイルス感染症なのか、他の疾患なのかは医師でも判別が難しい中、家崎所長らは、現場の判断材料になればとチェックリストを作成し、感染症の可能性は想定しながらもチームで日常的な観察ができるような体制を構築していった。

今後を見据え、医療機関とも連携

こうした中、同ステーション利用者の入院先で院内感染が発生していたことが退院当日に分かったが、退院した患者や関係者には伝えられなかった事例があった。いつ、どこで感染が発生するか分からない状況の中、地域で感染を蔓延させないため、退院後1週間は訪問時にガウン、手袋、マスク、フェイスシールドを着用することにし、在宅チーム全員で担当エリアの区分けやガウン着用の練習をした。4月ごろにはPPEが不足しており、退院後の対応に関してはガウンを割烹着で代用することとし、急遽スーパーに買いに走ったこともある。

今後の課題は、介護者が感染し、在宅で暮らす要介護者が濃厚接触者となった場合の対応だ。PCR検査で陽性であれば医療機関に入院となるが、そうでない場合は入院や介護施設での受け入れは難しい。また、要介護者が感染を疑う症状を呈したり実際に濃厚接触者になったとき、現状では、PCR検査を受けるには実施機関に出向く必要があることから、寝たきりの場合などに検査を行う体制が整っていないことも課題の一つだ。多職種が関わる在宅療養の現場で適切な感染予防対策がとれるよう、家崎所長は、在宅で濃厚接触者に対応できる訪問看護師、ヘルパーのチームをつくり、医療機関の協力を得ながら教育をしていくことが必要だと考えている。

(2020年9月14日確認)

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