看護職員の夜勤負担に係る調査研究

    看護は社会的意義が大きくやりがいのある仕事です。24時間365日、患者の傍らでその生命と安全を守るという業務の性格上、夜勤は必要不可欠ですが、夜勤を含む交代制勤務は身体的な負担とともに生活上の不便もあり、看護職が仕事を続ける上での障壁となり、時に離職の要因となることも知られています。

    看護職員の夜勤・交代制勤務の過重負担を防ぐためのルールが必要です。しかし、現在わが国では労働法制上は夜勤の長さや回数についての規制がなく、診療報酬・入院基本料の通則「夜勤に従事する看護職員の月平均夜勤時間数72時間以内」が実質的に規制として機能しています。

    しかし、月平均夜勤時間数72時間要件のかからない病棟も増えてきており、夜勤を「月72時間以内」にとどめることの効果をはじめとして、さまざまな角度から、夜勤・交代制勤務の負担軽減対策についての科学的な根拠が求められているのです。

    日本看護協会は2017(平成29)年度、公益財団法人大原記念労働科学研究所、独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所との三者合同プロジェクトを設置し、夜勤時間(回数)の上限基準設定、勤務間インターバル規制、適正な看護師の配置人員等、夜勤負担の軽減に向けた政策提言に資するデータを得ることを目的に、調査研究を行いました。

    研究1:安全、健康、生活を念頭においた看護師の1ヶ月72時間夜勤規制に関する研究

    調査対象
    全国24病院および24病院の看護師651人
    調査方法
    質問紙による施設調査と看護師個人への生活時間調査(14日間連続して記録)
    実施期間
    2017年7月〜9月
    回収状況
    回収率82.3%

    <結果概要>

    回答者の1カ月の夜勤時間を「72時間以下」か「72時間超え」に区分し、安全、健康、生活に及ぼす影響を分析した結果、月延べ夜勤時間数が72時間を超えると、情動ストレス(自覚症状?群)が高まるとともに、起床時に疲労感(自覚症状?群)が有意に高くなることが確かめられました。
    情動ストレスや疲労は、業務や生活の「安全」確保に影響を及ぼす可能性があります。さらに「生活」面では自宅外での複数人での娯楽時間が少ない傾向がみられ、これは疲労回復や情動ストレスの解消に効果的なこれらの活動が不活発となることを示します。

    研究にあたった佐々木司氏(公益財団法人大原記念労働科学研究所)は「1カ月の夜勤時間数が72時間を超えると、睡眠によっても情動ストレスが解消できず、それが就床前まで続くことを示している」※1として、感情労働者である看護職員にとって大きな問題であるとしています。

    研究2:交代制勤務看護師の勤務間インターバルと疲労回復に関する研究

    調査対象
    神奈川県内の2病院で交代制勤務に従事する看護師30人
    調査方法
    反応時間検査、疲労感調査、生理心理指標調査(血圧、腕時計型睡眠計、ストレスホルモン)による客観調査
    実施期間
    2017年11月

    <結果概要>

    夜勤・交代制勤務では勤務計画表上は十分なインターバルを確保していても、実際には時間外勤務によって確保が困難となり、疲労回復が不十分なまま次の勤務に入る可能性があることが示唆されました。
    また、同じ勤務間インターバルでも、インターバル前後の勤務の組み合せによっては睡眠時間の長さに差が生じました。

    久保智英氏(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所)は、「夜勤後は、日勤後に比べて勤務間インターバルの時間帯が睡眠取得に適していない昼間になってしまい、必ずしも疲労回復に適した睡眠がとれない場合が考えられる」として「日勤後あるいは夜勤後での勤務間インターバル配置時刻の違いによる疲労回復効果の差を考慮したシフト編成は重要だ」※2と述べています。

    【引用】

    • ※1:佐々木司 「安全、健康、生活を念頭に置いた看護師の1ヶ月夜勤規制」に関する研究, 看護7(1), p54, 2019.
    • ※2:久保智英 「交代制勤務看護師の勤務間インターバルと疲労回復」に関する研究, 看護7(1), p48, 2019.

    研究成果を踏まえた本会の取り組み

    提言

    研究1、2の成果を受け、2018年9月13日に日本看護協会は「看護職にとってなぜ勤務間インターバル確保が必要か――看護職の夜勤負担に関する調査報告会」を開催し、福井トシ子会長が「夜勤72時間以下の確保、勤務間インターバル11時間以上の確保」を提言しました(「協会ニュース」2018年10月号の特集記事に掲載)。

    国への働き掛け

    国に対しても政策要望を行いました。

    1. 「労働時間等設定改善指針」改訂

    「働き方改革法」成立(2018年6月)に伴い、「労働時間等設定改善指針」改訂が行われることとなり、新たに「勤務間インターバルの確保」「深夜業回数の制限」の2項目が追加されるため、下記の内容を「指針」に盛込むことを求めてパブリックコメントを提出しました。

    • 交代制勤務における「夜勤」についても「深夜業回数の制限」の対象となること
    • 「勤務間インターバルの確保」にあたっては、夜勤を含む交代制勤務の特性に十分配慮すること

    一般に国が示す「指針」には強制力はありませんが、取り組みの必要性と改善目標を示し、取り組みの糸口を示すものとなります。本会要望の内容は改訂「指針」に反映されました。

    2. 「過労死等の防止のための対策に関する大綱」改正

    「過労死等の防止のための対策に関する大綱」(2018年7月24日閣議決定)について、改正案段階で関係者に対し働き掛けを行った結果、「なお、看護師等の夜勤対応を行う医療従事者の負担軽減のため、勤務間インターバルの確保等の配慮が図られるよう検討を進めていく。」(第4 国が取り組む重点対策 3啓発 (9)商慣行・勤務環境等を踏まえた取組の推進の「ウ.医療従事者」の項)と記載され、看護職の夜勤・交代制勤務負担軽減に向けた検討を進めることが明記されました。

    3. 「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」報告書

    関係者に対し夜勤を含む交代制勤務に従事する看護職員の労働実態および勤務間インターバル確保の重要性について伝える等の働き掛けを行った結果「勤務間インターバル制度普及促進のための有識者検討会」報告書(2018年12月21日公表)において、夜勤を含む交代制勤務に従事する看護職員に勤務間インターバル制度を導入する必要性、意義が記載されました。

    参考資料

    2018年9月に開催した「看護職にとってなぜ勤務間インターバル確保が必要か――看護職の夜勤負担に関する調査研究報告会」で配布した資料はこちらです。

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