看護職の労働時間管理
- 2008年、日本看護協会が実施した「時間外勤務、夜勤・交代制勤務等緊急実態調査」の結果から、看護職の労働時間には多くの問題があり、過労死のハイリスクに当てはまる人が約2万人にも上ることが明らかになりました。また、医療安全の観点からも時間外勤務をなくし、夜勤・交代制勤務の負担軽減に取り組む必要性があらためて確認されました。
看護管理者の側も、職員の労働時間管理について「非常に問題がある」5.7%、「やや問題がある」43.0%と回答するなど、労働時間管理に課題を感じていることが分かりました。労働時間管理に課題があると考えている看護管理者にその原因を尋ねたところ、トップは「長年の慣例・習慣」(35.7%)、「職員定数を増やすことができない」(28.5%)、「欠員のまま充足されない」(27.7%)という結果でした。
- 調査の実施背景や結果は「ナースのかえるプロジェクト」をご覧ください。
- 看護職員の定着対策が組織の重要課題である今こそ、「長年の習慣・慣例」で手つかずだった問題に組織を挙げて取り組むチャンスです。下掲の資料をぜひご活用ください。
- 日本の医療を救え
- 夜勤の負担軽減と長時間労働の是正をめざして
- 夜勤専従者の「過重負担」を防ぎましょう
労働時間管理適正化に向けて
働く看護職の職場への不満の1つが、長時間労働の問題。労働時間管理は、働きやすい職場づくりのためには避けて通ることのできない重要な問題なのです。
調査から明らかになった「問題」
- 過労死につながりかねない長時間労働がある
- 時間外勤務手当の不払い
- 始業時刻前に開始する業務(前残業)・勤務時間外の研修・持ち帰り仕事など時間外勤務として扱われていない業務がある
- 労働基準法上の時間外・休日労働の規定適用を受けない「管理監督者」の範囲が不適切
- 休憩が十分にとれていない
- 「36協定」未締結の病院が少なくない
- 労働基準監督署の「当直」許可要件に沿わない当直実態がある
- 交代制勤務での勤務感覚が短く実質的に長時間の連続勤務に近い
看護職員の労働に深刻な影響があるものや、法令違反の疑いが濃いものが含まれ、早急に自主的な是正の取り組みが必要です。
「労働関係法令違反の放置は経営リスク」という認識が必要です
労働基準監督行政の基本的な姿勢は、(1)法律の理解を広め(2)自主的な改善を促し(3)その後に監督・指導を行う―というものです。
しかし、是正勧告に従わないなど悪質な事業主を送検する権限もあります。労働基準監督署は、指導を行った病院名や指導内容を公表しませんが、指導を受けた病院が法令順守の姿勢を示すために、自ら指導を受けた事実を公表することもあるようです。
時間外勤務手当の未払い賃金がある場合、2年前までさかのぼって延滞金を含めて支給が求められ、多額に及ぶこともあります。法令違反の放置は経営リスクであることを組織として認識し、早急に改善への一歩を踏み出しましょう。
「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(厚生労働省・2017年1月20日)が公表されました。
労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置や労働時間として扱うべき時間についての考え方を示したものです。
業務のための所定の服装への着替えや後始末、参加することが業務上義づけられている研修・教育訓練の受講や、指示により業務必要な学習等を行っていた時間は労働時間とすることが明記されています。それぞれの職場での労働時間管理を見直すにあたって、ぜひ参考にしてください。
時間外勤務を減らすマネジメントの「技」
労働時間管理の原則は、業務量に応じて場所・時間帯ごとに適切な人員配置をすること。さらにこんなマネジメントの「技」が、現場で効果を上げています。
「終わっていない仕事はないか」「何か手伝えることはないか」―スタッフの業務遂行状況を確認しながら、リーダーが声を掛けしましょう。みんなで分担すれば1人だけ残業することはなくなります。
突発的な業務負担発生に備え、院内の応援システムを
緊急入院、看守り、急変、食事介助、清拭などのリリーフ要請に応え、看護部から指示を出す応援システムをつくりましょう。リリーフ要員は特定入院料算定のICU、CCU、救命救急センターなど人員配置にあらかじめ余裕を持たせてある部署から確保しましょう。
業務発生時刻に合わせて日勤帯の設定自体を変更
入院患者への医師のオーダー変更が夕方にずれ込み、その対応で日勤者が残らざるを得ないなら、10時〜19時の日勤帯を設定してみましょう。
のんびりさん・じっくりさんには、まず丁寧な指導を
時間外勤務が多いスタッフに対し「仕事ができないため残業している人には時間外手当は出しません」はNGです。同じく「新人のうちは時間外勤務の申告は認めません」もNG。時間外勤務の理由の把握と丁寧な個別指導が基本です。「要領が悪い」「みんなのレベルに追い付けない」と見えるなら、まずは個別に「タイムマネジメント」のコツを指導しましょう。
勤務時間外の院内研修
院内研修は可能な限り勤務時間内で実施するのが基本です。勤務時間外の研修参加は、「業務」「自己研さん」のどちらで扱われるのかをあらかじめスタッフに明示しましょう。
日本看護協会が行った「時間外勤務、夜勤・交代制勤務等緊急実態調査」(2008年)では、回答者の75.5%が時間外の院内研修に参加したと回答し、その長さは月平均3.8時間、93%は時間外勤務として申告していないという結果でした。
【業務とするケース】
(1)業務として参加を指示
(2)時間外勤務手当の支給
例1 | 業務遂行上必要な指示・伝達を含み、実質的には組織的に受講が必要な内容である研修 |
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例2 | 具体的な教育・育成計画に基づき該当者全員に受講させる研修 (新採用者研修、入職3年目研修、中堅研修など) |
例3 | 組織内で特定の職責や役割を担わせる前提で、必要な知識・技術・能力等を備えさせるための研修 |
例4 | 安全衛生に関する教育・訓練 |
「自由参加」なら自己研さんなのか
形式的には「自由参加」でも、参加しないと業務遂行に具体的な支障があったり(例1の内容)個人の評価に影響する場合には、実態として「自由参加」とはいえないとみなされます。
- 【自己研さんとするケース】
- 自らの意思で参加
- 勤務時間外
看護職は専門職として常に研さんを求められています。その意欲に応え、新たな知識・技術を学ぶ機会を組織内で提供することも広く行われています。研修機会の提供と、受講時間の確保や経済支援などは職員の期待に応えるものです。
しかし業務上の必要性があって受講させる研修と、自己研さんのための研修の混同は、労働時間の把握をあいまいにし、未払い残業発生の要因になりかねません。看護管理者は、研修の扱いについて、明確に区分した上、組織内に明示しましょう。
有給休暇取得への道
「有給休暇が取れない」「長期休暇が欲しい」と多くの看護職から声が寄せられています。
「時間外勤務、夜勤・交代制勤務等緊急実態調査」(2008年)からも、看護職は日々の仕事に追われ、心身の疲労から健康を害しかねないリスクがあることが明らかになっています。心身の健康が保たれてこそ、安心・安全で質の高いケア提供が可能となります。できることから職場で取り組んでみませんか。
- 「個人別年次有給休暇取得計画表」の作成
- 年度の初めに個人ごとに作成します。作成にあたっては各人の取得希望時期を聞いた上で、必要があれば部署ごとに取得時期を調整します。その際、労使協定による「年次有給休暇の計画的付与制度」を活用して、休暇取得日が集中するのを避けながら、なるべく公平に取得をすすめます。「勝手に休暇を入れられた!」という不満を招かないよう、事前の準備が必要です。
※「年次有給休暇の計画的付与制度」とは、雇用主側が労働者に、あらかじめ特定の期間を指定して年次有給休暇を付与する(取得させる)仕組みです。導入について労使協定を締結します。年間最低5日は労働者の自由に利用できる日数とします。 - 半日単位・時間単位の年次有給休暇利用を導入しましょう
- 現在の労働基準法では、休暇の取得単位は1日または半日。しかし2010年4月からは、法改正により労使協定を結べば時間単位での取得もできるようになります(年間5日まで)。育児や介護、ちょっとした用事のために時間単位の休暇を歓迎するスタッフは多いはず。利用のルールづくりを始めましょう。
- 未消化年休は「貯蓄制度」で活用を
- 年度替りで未消化の年休が消えてしまう!こんなケースにお勧めしたいのが、時効で消滅する年次有給休暇を積み立てて、いざというとき活用する仕組みです。使用目的は(1)病気休養(2)看護・介護(3)リフレッシュ(4)ボランティア(5)自己啓発(6)災害(7)再就職準備など。すでに多くの企業で導入されています。
- 注意! 有給休暇取得の取得制限は違法行為になる場合もあります
- 「有給休暇が取得できない」との相談が日本看護協会へ多数寄せられています。「上司が部下に取得してはならないと伝える」「取得日数の限度を示す」「取得理由を限定する」などの行為は労働基準法違反の疑いがあります。
有給休暇は職員の希望期日に取得させることが原則です。ただし、その日に休暇が集中するため「事業の正常な運営を妨げる場合」に、使用者は労働者から指定のあった年次有給休暇を別の日にするよう変更を命じることができます(時季変更権)。中には7対1の算定要件の維持を理由として、有給休暇取得を制限する例がありますが、有給休暇の消化をはじめ、産休、育休、病欠、研修、会議等の時間を見込んだ人員配置が必要です。
日本看護協会としては法令順守できる人員配置が担保されるよう診療報酬の改定を求めていきます。
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