看護職の働き方改革
看護職における「働き方改革」とは
働く方々が、個人の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革です。働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現することで、成長と分配の好循環を構築し、働く人一人一人がより良い将来の展望を持てるようにすることを目指します(厚生労働省ウェブサイトより抜粋)。
日本看護協会では、国の「働き方改革」を受けて、看護における働き方改革の目標を「働き続けられる仕組みを創る。その仕組みは実現可能で、持続可能な仕組みであること、看護職が生涯にわたって、安心して働き続けられる環境づくりを構築し推進する」としました。そして、全ての看護職個人が生涯にわたり健康で安全に働き続けられる働き方と、個人の多様な属性等に応じ、組織が看護職個人の働き続けられる働き方を実現するための方策について検討を重ねてきました。
就業継続が可能な看護職の働き方の提案
このたび、看護職個人が組織の中で働き続けられることに焦点を当てた「就業継続が可能な看護職の働き方の提案」を10項目にまとめました。本提案は、パブリックコメント(2020年12月16日〜27日)にお寄せいただいたご意見のほか、多くの看護職の皆さま、有識者からのご意見や情報などを基に検討を重ねたものです。
看護職一人ひとりが将来に展望を持ち、自ら学び、自らを高めていくことで仕事にやりがいと喜びをもって働けるために、ぜひ本提案をご活用いただき、皆さまの職場で働き続けられる職場づくりに取り組んでみてください。
パブリックコメントの結果について
「就業継続が可能な看護職の働き方の提案」(案)に対するパブリックコメントの募集(2020年12月16日〜27日)では、多数のご意見等をお寄せいただき誠にありがとうございました。
寄せられた主なご意見・ご質問に対する回答は以下からご確認いただけます。
働き方改革関連法
「働き方改革関連法」に向けて
国は「働き方改革」を総合的に推進するため、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保等のための措置を講じます。保健・医療・福祉の分野においても、2019年4月1日から働くルールが変わります。それぞれの職場でルールを見直し、法律にのっとった適切な労働時間・休日等の管理を行いましょう。
「働き方改革関連法」の施行で何が変わる?
1.時間外労働の罰則付き上限規制が導入されます※
- 中小企業への適用は2020年4月から
- 時間外労働の上限は原則として月45時間、年360時間となり、この範囲内で36協定(時間外・休日労働に関する労使協定)を締結します。
- 特別な事情がある場合に1.を超える時間外労働を行わせる場合にも、上限時間の規定(年720時間 以内)、複数月平均80時間 以内(休日労働を含む)、月100時間 未満(休日労働を含む)を守って36協定(特別条項月)を締結します。
- 労働時間を適正に把握しましょう。業務上の必要性があって受講を指示された教育訓練・研修や指示による自己学習の時間、業務の準備・後始末(更衣を含む)の時間は労働時間として取り扱わなくてはなりません。
- 実際に1.と2.の協定の範囲で時間外・休日労働が行われていることを確認します。
2.年次有給休暇年5日の取得が義務付けられます。
年10日以上の有給休暇を付与された労働者には、年間5日の有給休暇を取得させなくてはなりません
- 有給休暇を取得させる日は、労働者本人の意向を聞いた上で事業主(管理者)が指定します。
- 年次有給休暇管理簿を作成し、労働者本人に取得状況を周知します。
- 年次有給休暇取得について各部署でおおよその年次計画を策定することや、有給休暇取得を前提とする人員配置とすること、有給休暇申請のルールを再確認するなど、職場の仕組みを整えます。
3.労働時間の状況の把握の実効性確保のため客観的方法による労働時間の記録が必要です
- タイムカードやICカードなどによる客観的な方法での勤務時間の把握が必要となります。
- 出退勤時刻の記載のない押印方式の出勤簿からの切り替えを急ぎましょう。
これだけは抑えておきたいポイント!
時間外労働時間の上限規制について
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- Q.1 私の病院では、時間外労働はほとんどなく平均で1カ月に1時間程度で、極端に長い職員もいません。上限規制に全く引っかからないので、36(サブロク)協定は締結する必要はないでしょうか
- A.1
労働基準法では、労働時間は原則として、1日8時間・1週40時間以内とされています。これを「法定労働時間」といいます。また、休日は原則として、毎週少なくとも1日与えられることとされています。
法定労働時間を超えて、たとえ1分でも労働者に時間外労働させる場合は、労働基準法第36条に基づく労使協定(36協定)の締結、所轄労働基準監督長への届け出が必要です。36協定では、「時間外労働を行う業務の種類」「時間外労働の上限」などを決めなければなりません。また、就業規則や労働契約に時間外労働や休日労働をさせることができる旨の定めが必要です。
働き方改革の柱の1つである「時間外労働の上限規制」の導入に伴い、2019年4月以降、36協定届の様式が変わります。もし、まだ36協定を締結していないのであれば、早めに対応するようにしましょう。 - Q.2 院内研修を時間外に行っていますが、時間外勤務手当などは出ていません。時間外勤務手当は支払わなくてよいでしょうか
- A.2
職員に対する研修・教育時間は以下3点の場合に労働時間と見なされます。勤務時間外に行われた場合には時間外勤務として賃金の支払いが必要です。
- 研修教育の内容が業務そのものか、業務と密接に関連するもの
- 参加が強制されているか、名目上「自由参加」とされていても欠席すると何らかの不利益措置がある
- 職員自身の労働安全衛生に関する教育
【参考】労働に関するよくあるご質問 時間外の院内研修 - Q.3 始業時間になると申し送りやケアが始まるため、スタッフはいつも30分早く出勤し情報収集をしています。時間外勤務手当は支払わなくてよいでしょうか
- A.3
業務の準備(情報収集等)に必要な時間が所定労働時間内に確保されておらず、始業前に出勤する必要がある場合などは、労働時間として時間外勤務手当を支給することが妥当な取り扱いです。
【参考】労働に関するよくあるご質問 申し送り - Q.4 スタッフはいつも実質1〜2時間程度残業していますが、病院の取り決めに従い、申告する残業時間数に制限があります。タイムカードの導入については、「残業の実態が明らかになる」と反対されています
- A.4
所定労働時間外に行った労働に対して賃金を支給しないことは違法です。労働時間に対する賃金は全額支払う義務があり、1日の残業申請の上限を設けることは不適切です。
2019年4月からは、医師も管理監督者も含めて、労働時間の状況の把握の実効性確保のため、タイムカードやICカードなどによる客観的な方法での勤務時間の把握が必要となります。出退勤時刻の記載のない押印方式の出勤簿の場合は、使用者の現認(押印)が必要です。可能であれば、より客観的な方法への切り替えを急ぎましょう。
- Q.5 当院では看護職員にはユニフォームの着用が義務づけられていますが、更衣の時間は労働時間として扱う必要がありますか
- A.5
業務に就く際の所定の服装への更衣は業務の準備行為にあたると解され、労働時間として扱うことが適切です。業務終了後の私服への更衣も、業務の後片付けにあたり、同様に労働時間として扱います。
- Q.6 新人看護師に時間外勤務手当を出す時期は「試用期間後」でよいでしょうか
- A.6
試用期間中であっても業務を行っている時間は労働時間であり、時間外労働があれば割増賃金の支払いが必要です。一人前でないから、新卒の職員だからという理由で、実際に行った時間外勤務に対する賃金を支払わないことは違法です。
新規採用者への教育指導は業務性が高く、教育指導を受けている時間は労働時間として扱います。 - Q.7 管理職の場合、時間外勤務手当は支払われないのでしょうか。「残業代も年収の中に含む」と事前に説明されています
- A.7
労働基準法第41条では、事業の種類にかかわらず、監督もしくは管理の地位にある者(「管理監督者」)は、深夜業を除く労働時間、休憩および休日に関する規定が適用されないと定めています。
しかし、労働基準法上の「管理監督者」とは、職場内のいわゆる「管理職」の定義とは異なり、経営上の責任を負う一方で相応の高い処遇を受け、自分自身の労務管理に大幅に自由裁量があることなどが判断基準とされています。
まず、「管理監督者」に相当するかどうかを、職位ではなく具体的な権限や処遇、勤務状況に即して判断する必要があります。一般に、医療機関の中間管理職(看護師長・主任など)については、 「管理監督者」とみなすことは難しいと考えられます。
「管理監督者」に該当しない「管理職」は、休日労働・時間外労働の規制対象となり、割増賃金の支払いが必要になります。固定残業代などで役職手当に時間外勤務手当が含まれている場合は、就業規則や賃金規定でその金額の内訳を明記しなければいけません。なお、「管理監督者」であっても、深夜業に対する割増賃金の支払いは必要です。
年次有給休暇の年5日取得について
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- Q.8 2019年4月から「年次有給休暇年5日」の取得が義務付けられますが、連続して取得する必要はありますか
- A.8
年次有給休暇は、労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的とし、原則として「労働者が請求する時季」に与えられます。2019年4月から「年次有給休暇年5日」の取得が義務付けられますが、5日間連続して取得することは義務付けられていません。
- Q.9 年次有給休暇を計画的に入れてよいと聞きました。年次有給休暇は本人に使用する権利があると思うのですが、どのような手続きが必要でしょうか
- A.9
「年次有給休暇の計画的付与制度」は、雇用主側が労働者にあらかじめ特定の期間を指定して年次有給休暇を付与する(取得させる)仕組みです。年間最低5日は労働者の自由に利用できる日数として確保します。導入について、雇用主側の独自の判断で勝手に行うのではなく、労使協定を締結します。「計画的付与制度」がルール化されていないにもかかわらず、勤務計画表作成時に看護管理者が職員の意向を聞くことなく有給休暇を組み込むことは不適切です。
- Q.10 現在、「夏季休暇」が5日ありますが、2019年4月以降は「夏季休暇」の他に年次有給休暇を5日取得しなければならないのでしょうか
- A.10
お勤め先の就業規則で「夏季休暇」が所定休日とされているのであれば、年次有給休暇はこれとは別に取得すべきものとなります。一方、年次有給休暇の取得推進のため、夏期休暇を年次有給休暇で取得する仕組みとしている場合もあり、そうであれば夏季休暇は有給取得の5日に含めても構いません。
なお、就業規則の不利益変更は原則認められません。例外として、社員全員の同意を得るか、変更が「合理的なもの」であることが求められます。
同一労働同一賃金について
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- Q.11 非常勤職員から「正規職員と同じように看護ケアをしているのだから同じ給料にすべきだ」と言われました
- A.11
2020年4月から正規職員と非正規職員間の不合理な待遇差は禁止されます(中小企業は2021年4月から)。待遇差がある場合は、その判断の元になるルールを明確化させておく必要があります。
合理的な待遇差の理由としては、職務内容だけでなく、責任の範囲・程度の違いなども含まれます。例えば、夜勤、土日祝日勤務の可否、委員会等への参加、配置転換、転勤、出張等の可否、クレーム対応をするかどうかなども、待遇差の合理的な理由となります。
「働き方改革」について
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- Q.12 「働き方改革」について院長と事務長から「小さい病院には関係ない」と言われたのですが、本当でしょうか
- A.12
「働き方改革」は事業所や組織の規模にかかわらず必要なものです。しかし、中小事業所の保護のため、今回の働き方改革関連法でも猶予が設けられている項目があります。
ただし、病院・診療所など保健医療業では「中小企業」とは「常時雇用する職員数が100人以下」規模です。病床数ではないので、注意が必要です。
働き方改革法で、中小企業に猶予期間があるのは、時間外労働の上限規制(2020年4月)、同一労働同一賃金(2021年4月)のみです。月60時間を超える時間外労働に係る「割増賃金率」(50%)は現在適用が猶予されていますが、猶予期間は2023年4月に終了します。 - Q.13 「理事長・院長や看護部長は管理監督者だから、今回の働き方改革の対象ではない」と言われましたが、何も対応しなくてよいのでしょうか
- A.13
理事長・院長や看護部長などの管理監督者であっても、年次有給休暇の時季指定義務(年5日の取得)、産業医との連携強化、労働時間の把握義務は対象になります。
その他関連するQ&A
過去に機関紙「協会ニュース」(毎月1回発行)でご紹介したQ&Aについては、「ナースのはたらく時間・相談窓口 バックナンバー」をご確認ください。
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