女性とその家族への健康支援

    助産師による女性とその家族への健康支援の必要性

    わが国では女性の社会進出が進み、就業率が増加しています。
    一方で、女性の平均寿命と健康寿命の間には約12年の乖離があり、半数以上の女性が月経関連の不快症状、不妊症、産後うつなど、女性特有の健康問題を抱えています(女性特有の健康課題による社会全体の経済損失が約3.4兆円との推計もある)。また、さまざまな事情により、社会的な支援を必要とする方もいます。

    助産師は、就業場所にかかわらず、母子のケア並びに女性の生涯における性と生殖にかかわる健康相談や教育活動を通して家族や地域社会に広く貢献する専門家であり、保健師など地域の多職種との連携のもと、全世代を対象に必要な支援を提供することが期待されています。

    助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー;CLoCMiP®)では、日本の助産師に求められる必須の実践能力(助産師のコア・コンピテンシー)の4要素のひとつにウィメンズヘルスケア能力を掲げ、「女性のライフサイクルの観点からの対象理解」と「リプロダクティブヘルス/ライツに基づく支援」の2つの枠組みを示しています。国際的にも、助産師の性と生殖・妊産婦・新生児・思春期の健康(SRMNAH)へのかかわりの重要性が述べられています(世界助産白書2021)。

    SRMNAH(性と生殖・妊産婦・新生児・思春期の健康)とは

    • 国際助産師連盟(ICM:International Confederation of Midwives)は、「性と生殖・妊産婦・新生児・思春期の健康」の頭文字をとりSRMNAHと表記しています。

    • Sexual(性)
    • Reproductive(生殖)
    • Maternal(妊産婦)
    • Newborn(新生児)
    • Adolescent(思春期)
    • Health(健康)

    「世界助産白書2021」には、次のように記述されています。

    • SRMNAHは、持続可能な開発目標(SDGs)の本質にかかわる重要な要素である
    • 幅広いSRMNAH従事者の中で助産師が中心的な役割を果たしている
    • 助産師はプライマリケアに不可欠な医療提供者であるだけでなく、たとえば、性と生殖の権利の擁護、セルフケア支援の推進、女性と思春期の女子のエンパワーメントなど、妊産婦ケアにとどまらず、幅広く介入し、広義の健康目標に貢献できる

    詳細は「世界助産白書2021 エグゼクティブサマリー」を参照

    SRMNAHへの投資により期待される効果

    「世界助産白書2021」の中で、ICMは、SRMNAHへの投資の必要性について次のように述べています。

    • SRMNAH の向上には、保健医療従事者に対するコミットメントと投資が不可欠
    • 十分な教育を受け免許を有する総合的な能力を持った助産師は、多職種から成るチームと働きやすい環境に支えられ、人々の生涯にわたり必要不可欠なSRMNAHへの介入の約90%を提供できる。しかしながら、世界のSRMNAH従事者の10%未満でしかないのが現状
    • 世界全体を見ると、2019年にSRMNAHのエッセンシャルケアのニーズをすべて満たすのに必要なSRMNAH従事者の労働時間は、65億時間であった
    • 2030年までに68億時間まで増加するとの予想がある
      • ・ その半分強(55%)が妊産婦と新生児の健康への介入(出生前・出産・出産後のケア)
      • ・ 37%がその他の性と生殖に関する健康への介入(カウンセリング、避妊、包括的な中絶ケア、性感染症の検出と管理など)
      • ・ 8%が思春期の性と生殖に関する健康への介入
    • SRMNAH従事者によるニーズ対応を妨げている要因としては、数の不足、非効率なスキルの組み合わせ、不均衡な配置、教育・研修プログラムのレベルと質のばらつき、適格で質の担保された教育者の不足(監督やメンタリングを担う人材を含む)、有効な規則がないなどがあげられる

    日本看護協会は、健康と生活支援双方の視点を持ち、多様なニーズに応える助産師などによるSRMNAHに係る相談支援(以下、SRMNAH関連事業)をあらゆる地域で継続的に受けられる仕組みが必要だと考え、本コンテンツでは、SRMNAH関連事業の企画・運営に必要な基本的な考え方や留意点、そしてプログラムの考案や事業実施の参考にできる情報を示しました。

    SRMNAH関連事業を企画・運営する組織、およびSRMNAH関連事業にかかわる助産師の皆さまには、ぜひ参考にして取り組みを進めていただきたいと思います。

    本コンテンツで示すSRMNAH関連事業の内容

    女性のライフサイクルの観点からの対象理解、リプロダクティブヘルス/ライツに基づく助産師の支援は多岐にわたります。

    本コンテンツでは、「性と健康の相談センター事業」の基本事業として示しされた内容や「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(いわゆる、女性活躍推進法)などを加味し、特に以下の事業に助産師が貢献することを想定し情報を提供します。


    1. 思春期、妊娠・出産、不妊・不育等に関する専門的な相談支援
    2. 生殖や妊娠・出産に係る正しい知識等に関する講演会の開催
    3. 男女の性や生殖、妊娠・出産、不妊治療等に関する普及啓発
    4. 児童・生徒向けの性に関する教育等
    5. 更年期の健康支援
    参考

    助産師によるウィメンズヘルスケアに関する健康支援の実施状況

    2022年に日本看護協会が実施した「助産師の専門性発揮のあり方に関する実態調査」において、病院看護管理者を対象に、「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー;CLoCMiP®)活用ガイド」に掲げるウィメンズヘルスケア能力に関連した業務の実施状況を尋ねたところ、11項目中8項目の実施割合は半数に満たないという結果でした。この結果を、本会が2016年に実施した実態調査の結果と比較したのが下のグラフです。

    graph1助産師の就業先として最も多い病院において、CLoCMiP®に掲げるすべてのウィメンズヘルス関連業務に携わる機会が減少傾向にあることが分かります。

    次項に示すように、女性の健康支援は国を挙げて推進されており、助産師の役割発揮が期待されています。社会のニーズが高まる中、助産師が関わりを強化できるよう方策を検討する必要があります。

    国による女性とその家族への健康支援を推進する動き

    1)21世紀における第三次国民健康づくり運動(以下、「健康日本21(第三次)」)

    2024年度から「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」に基づく「健康日本21(第三次)」が開始されています。(2035年度までの12年間の計画)

    ビジョン:全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現

    • ビジョン実現のための基本的な方向は次の4つです。
    • ・ 健康寿命の延伸と健康格差の縮小
    • ・ 個人の行動と健康状態の改善
    • ・ 社会環境の質の向上
    • ・ライフコープアプローチを踏まえた健康づくり(※)
    • (※)「女性については、ライフステージごとに女性ホルモンが劇的に変化するという特性などを踏まえ、人生の各段階における健康課題の解決を図ることが重要である」と示されています。
    参考

    2)成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針(以下、「成育基本方針」)(2023年3月改定)

    「成育過程にある者及びその保護者並びに妊産婦に対し必要な成育医療等を切れ目なく提供するための施策の総合的な推進に関する法律」に基づき策定されました。

    • 「Ⅱ 成育医療等の提供に関する施策に関する基本的な事項」として、プレコンセプションケアや産後ケア等が追記されました。
    • 「Ⅰ-3 関係者の責務及び役割」に、「(略)保健師、助産師、看護師(略)は、責務として、国及び地方公共団体が講ずる成育医療等の提供に関する施策に協力し、成育過程にある者の心身の健やかな成育並びに妊産婦の健康の保持及び増進に寄与するとともに、成育医療等を必要とする者の置かれている状況を深く認識し、良質かつ適切な成育医療等を提供する必要がある」と、看護職への期待が示されています。
    参考

    「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針について」

    3)こども未来戦略~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~(2023年12月策定)

    少子化・人口減少のトレンドを反転させるため、これまでとは次元の異なる少子化対策の実現に向けて取り組むべき政策強化の基本的方向を取りまとめたものです。

    今後3年間の集中取組み期間において、できる限り前倒しして実施する「加速化プラン」において実施する具体的な施策として「妊娠期からの切れ目ない支援の拡充~伴走型支援と産前・産後ケアの拡充~」が掲げられました。

    参考

    「こども未来戦略」~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~(こども家庭庁)

    4)こども大綱(2023年12月閣議決定)

    こども政策を総合的に推進するため、政府全体のこども政策の基本的な方針などを定めています。

    「こども施策に関する重要事項」の中には、「こどもや若者への切れ目のない保健・医療の提供」として、「不妊、予期せぬ妊娠や基礎疾患を持つ方の妊娠、性感染症等への適切な相談支援や、妊娠・出産、産後の健康管理に係る支援を行うため、男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身に付け、栄養管理を含めた健康管理を行うよう促すプレコンセプションケアの取組を推進するとともに、家庭生活に困難を抱える特定妊婦等を含む当事者が必要としている支援に確実につながることができるよう、切れ目のない支援体制を構築する」と明記されています。

    参考

    「こども大綱」(こども家庭庁)

    5)女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(以下、「女性活躍推進法」)(2015年8月成立、2026年3月までの10年間の時限立法)

    女性の職業生活における活躍を推進し、豊かで活力ある社会の実現を図ることを目的に制定されました。

    女性の活躍推進に向けた数値目標を盛り込んだ行動計画の策定・公表や、女性の職業生活における活躍に関する情報の公表を事業主に義務化されています。
    2019年5月の改正では、自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析及びこれを踏まえた行動計画の策定・届け出・社内通知・外部公表について、常用労働者数301人以上の事業主には男女の賃金の際の把握を義務化されています。

    6)性と健康の相談支援センター事業

    男女ともに性や妊娠に関する正しい知識を身に付け、健康管理を促すプレコンセプションケアを推進することを目的としています。

    • 本事業の実施主体は都道府県等であり、原則として、次の5つの取り組みを基本事業として行うものとされています。
    • (1)思春期、妊娠・出産、不妊・不育等に関する専門的な相談支援
    • (2)生殖や妊娠・出産に係る正しい知識等に関する講演会の開催
    • (3)相談対応を行う相談員の研修養成
    • (4)男女の性や生殖、妊娠・出産、不妊治療等に関する普及啓発
    • (5)児童・生徒向けの性に関する教育等を行う専門家等に対する研修

    また、本事業の実施にあたっては「医師、保健師又は助産師等」を配置するよう示されています。

    2022年度の創設移行、年々事業予算が拡充しています(2024年度予算案:7.8億円(9.5億円))。
    令和5年4月1日時点で、全国の総窓口数は362カ所、専門職の配置は多い順に、保健師470カ所、助産師205カ所、看護師112カ所と看護職が占めています。

    参考

    SRMNAH関連事業を企画・運営・実施する上で考慮すべきこと

    日本看護協会は、SRMNAH関連事業を展開するためには、組織的にSRMNAH関連事業を計画・交渉・受託するための仕組みを構築することが重要だと考えています。それは、限られた者だけが事業に携わる機会や知識・技術を独占する属人的な体制では、地域で持続的かつ効率的に事業を展開することが困難だという理由からです。

    2021年に日本看護協会が女性とその家族への健康支援を行う事業所等にヒアリングを行った結果から、SRMNAH関連事業を促進・継続するためには、以下の8つの機能が円滑に機能していることが重要と考えました。単一の機関が、8つの機能すべてを満たす必要はなく、不足している機能がある場合は、他機関と連携(業務委託を含む)し、補う方法もあります。

    助産師の就業先が病院であることが多いことから、特に、病院に就業する助産師が、地域で専門性を生かして活躍するために、SRMNAH関連事業にかかわる人材の確保やマッチングを円滑に行える体制整備が必要です。

    SRMNAH関連事業は、国や地方自治体が予算を確保し事業を展開することも多くあります。
    そのため、地域のニーズをふまえ必要なSRMNAH関連事業として企画・運営するためには、まずは行政などと助産師が連携し、互いが認識しているSRMNAHに関連した地域の課題をすり合わせ、事業化し対応すべき課題に優先順位をつけて実施内容を協議・具体化するプロセスがあるとよいです。

    SRMNAH関連事業を実施する担当者は、事業の対象者となる者の発達段階を理解し、集団教育/個別相談、対面/オンライン等の実施方法別の留意点や効果を踏まえ、適切なプログラム構成や実施方法を検討する必要があります。

    SRMNAH関連事業の実施例の紹介

    1)2022年度ヒアリング結果の一部(SRMNAH関連事業)の紹介

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    2)日本看護協会の女性活躍推進法に基づく行動計画

    本会も、女性が自らの健康に目を向け、自ら健康づくりを実践できるよう研修による健康支援を行い、男性もともに働く女性の健康に対して理解を深める機会を設けています。

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    SRMNAH関連事業のプログラム考案や実施の参考となる資料等

    「助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)活用ガイド2022」

    日本看護協会

    産後ケア実務助産師研修

    日本助産師会

    「助産師による思春期の健康教育」

    日本助産師会出版

    女性の活躍推進

    働く女性の心と体の応援サイト

    厚生労働省委託事業 一般財団法人女性労働協会内

    女性の活躍・両立支援総合サイト

    厚生労働省委託

    女性の活躍推進

    内閣府 男女共同参画局

    性と健康の相談支援

    「性と健康の相談支援に向けた手引書」

    令和3年度 子ども・子育て支援推進調査研究事業 プレコンセプションケア体制整備にむけた相談・研修ガイドライン作成に向けた調査研究、令和4年(2022年)3月発行

    「女性健康支援センターの取り組み事例集」

    厚生労働省雇用均等・児童家庭局母子保健課

    スマート保健相談室

    こども家庭庁 若者の性や妊娠などの健康相談支援サイト

    健やか親子21

    こども家庭庁 妊娠・出産・子育て期の健康に関する情報サイト

    女性の健康推進室 ヘルスケアラボ

    厚生労働省研究班監修

    生涯を通じた女性の健康支援

    内閣府 男女共同参画局

    いのちの教育

    生命の安全教育

    文部科学省

    プレコンセプションケア

    #つながるBook

    一般社団法人 日本家族計画協会

    プレコンセプションセンター

    国立研究開発法人 国立成育医療研究センター

    妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針―妊娠前から、健康なからだづくりを―

    国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所 国立健康・栄養研究所

    「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針~妊娠前から、健康なからだづくりを~ 解説要領」

    厚生労働省 令和3年3月

    職場と一緒に!働く女性の健康づくり 企業における健康支援の取り組み事例

    厚生労働省 令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「妊産婦および妊娠・出産にあたっての適正な栄養・食生活に関する、効果的な情報発信に関する調査研究」

    不妊・不育

    みんなで知ろう、不妊症・不育症のこと

    こども家庭庁

    性感染症

    サイトメガロウイルス、トキソプラズマ等の母子感染の予防と診療に関する研究班

    国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)成育疾患克服等総合研究事業 

    性暴力・性犯罪

    女性に対する暴力の根絶

    内閣府 男女共同参画局

    性犯罪・性暴力対策

    内閣府 男女共同参画局

    産後ケア

    「産前・産後サポート事業ガイドライン 産後ケア事業ガイドライン」

    こども家庭庁

    その他

    妊娠中の検査に関する情報サイト

    こども家庭庁委託事業

    「NIPT 非侵襲性出生前遺伝学的検査」

    令和3年度 厚生労働科学研究費補助金(成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業)「出生前診断の提供等に係る体制の構築に関する研究」

    災害対応力を強化する女性の視点

    内閣府 男女共同参画局

    困難な問題を抱える女性への支援

    厚生労働省

    性的指向・ジェンダーアイデンティティ理解増進

    内閣府

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