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機関誌「看護」2025年8月号
世界の看護2025(State of the World’s Nursing 2025)報告書
日本看護協会国際部
2025年5月12日の「国際看護師の日」に、世界保健機関(WHO)は2020年に引き続き、世界の看護の状況を示す「世界の看護(State of the World’s Nursing 2025;SoWN2025)」報告書(以下:本報告書)を公表した(※1)。本報告書は194カ国から提供された最新データを基に作成され、コロナ禍後の世界の看護労働力を評価し、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)をはじめとする、グローバルヘルスの目標達成に必要な行動が示されている。
本稿では、本報告書の中から、世界の看護職の雇用や労働条件などに関する結果を中心に紹介する。
主な結果
- 世界の看護師(※2)数は2,980万人(うち日本が所属する西太平洋地域は850万人、世界の28.5%)。
- 世界全体の看護師不足は改善されたが、未だに580万人が不足しており、不足の状況には地域差がある。
- 世界の看護師の33%が35歳未満、19%が55歳以上である。
欧州の高所得国を中心とした20カ国では、55歳以上の割合が35歳未満の割合を上回り、今後、看護労働力の維持が困難となるリスクがある。 - 看護師の最低賃金(94%)、社会的な保護の取り組み(92%)、保健医療従事者の安全(78%)の規定は、回答した多くの国で整備されている。
- 看護師の労働時間・条件(55%)や、精神面でのウェルビーイングの提供(42%)の規定が整備されている国は少ない。
- 59%の国で、保健医療従事者への攻撃を防ぐための取り組みがある。
- 82%の国で、政府に主任看護官がおり、前回報告書の71%より増加した。
- 新卒看護師のケアの質や実践能力を確保するための教育の拡大において、教員や臨床実習の場の確保、デジタル技術を活用した学習環境の整備が課題である。
政策の優先事項
グローバルヘルスの目標達成に欠かせない看護師の労働力を維持・確保するためには、労働条件の改善によってディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を確保する必要がある。中でも、看護師のメンタルヘルスとウェルビーイングの向上に取り組むことが急務であることが示された。
今年公表された国際看護師協会(ICN)の「国際看護師の日」の啓発文書(※3)や、本会の「看護の将来ビジョン2040」と同様、本報告書においても看護職のウェルビーイングの向上が重要な課題であるとされた。
本報告書では、そのほかにも気候変動など5つの新しい分野に対応するための優先的な政策も示されている。本報告書から世界の看護の状況を確認することで、日本や自施設の状況を振り返る際の参考となれば幸いだ。
※1 State of the world's nursing report 2025(WHOホームページ)
※2 本報告書での「看護師」には、ISCO-08でコード2221に分類される看護師と、コード3221に分類される准看護師を含む
※3 International Nurses Day(ICNホームページ)
看護師 平和を築く存在
国際看護師協会 第二副会長 手島 恵
会員協会代表者会議とICN大会の開催
2025年6月7日から9日まで国際看護師協会(ICN)の会員協会代表者会議(CNR)が開催され、137カ国と地域から140の組織の代表者がフィンランド・ヘルシンキに集いました。同月9日から13日まで行われたICN大会では、引き続き7,000人ほどが参加しました。
CNRでは、2021~2025年の理事会で取り組んだ内容がまとめられました。特にICN看護学生・キャリア初期の看護師同盟の結成や、看護・看護師の定義の公表、看護教育の検討委員会の結成については、パメラ・シプリアーノ会長の卓越したリーダーシップによりなされた画期的な取り組みと言えます。
CNRには、パレスチナ、イラン、イラク、スーダンなどの紛争地域の代表者も参加し、ICNヘルシンキ共同声明が検討され、CNR終了後の6月11日に公開された同声明の4番目の記述(図表1)の最後は、「看護師は、健康を生み出す存在であり、同時に平和を築く存在でもある」と締めくくられています。
人々の健康を最も脅かすのは、紛争や戦争であり、その最前線の地域で働いている看護師に対して、開会式・閉会式で祈りをささげる時間が設けられました。また、ウクライナの代表者は、Peace for Healthのセッションに登壇し、次の大会では、「招待者としてではなく、ICNの会員として参加したい」と語っていたのが強く心に残りました。
次回アジアでのICN大会に向けて
6月9日のICN大会の開会式では、ファレル・ウイリアムスが歌う「Happy」の軽快な音楽と、ICN事務局長のハワード・カットン氏の絶妙な語りで幕が開きました。フィンランドは国連が毎年公表する世界幸福度ランキングで、8年連続1位を獲得している国です。ヘルシンキの市街には緑が多く残り、デパートの中にも犬を連れてくる人がいるなど自然と人が共存し、時間に追われてあくせくしている様子もなく、豊かに暮らしている印象がありました。
13日の閉会式では、9日のCNRでの投票結果が公表され、2025~2029年の会長はホセ・ルイス・コボス氏(スペイン選出)が務めることに決まりました。14日の理事会での互選で、筆者は第二副会長に就任しました。これからも、皆さまにICNの動向をお届けできることを楽しみにしております。
次回のICN大会は、2027年に台北で開催されることが告知されました。皆さま、2年後のアジアでの開催に備え、研究発表や参加の準備を進めましょう。
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