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機関誌「看護」2025年9月号

ICN 第2副会長に手島恵教授選出される

日本看護協会国際部

はじめに

2025年国際看護師協会(ICN)理事選挙において、本会から2期目候補者として擁立していた手島恵氏(東京医療保健大学副学長/看護学研究科長/教授)が2025~2029年の理事として見事、再選出、第2副会長に就任した。日本が所属する選挙区、西太平洋・アジア地域では、今期も定数2人に対して、日本、台湾、中国の3つの看護師協会から理事候補者が擁立されるという激戦であったが、これまでのICN理事としての実績、真摯な選挙運動および精力的なアピールが実を結んだ。
本稿では、今期のICN理事選挙について概説し、手島氏の立候補以降の選挙運動を中心に振り返る。

今期のICN理事選挙の概要

ICNの地域は、世界保健機関(WHO)の地域区分に準じた6地域(10の下位地域)から構成され、各地域には理事選出数が割り当てられる。今回の理事選挙では、10の下位地域の定数11人に対し、17人というこれまで最多の候補者が立候補を表明した。対立候補者のいない地域がある一方、日本が所属する選挙区は複数の対立候補者が出ていた。ICNのハワード・カットン事務局長は、ICN組織への信頼性の高まりと評価し立候補者を歓迎していた。

選挙運動の方針・戦略

選挙の流れの中で候補者が十分な戦略を練りながら準備が求められるものには大きく分けて、①届出資料の準備、②選挙運動のための資料の準備がある。いずれの資料も候補者のビジョンや考え方として公表されるため、選挙運動の基盤となるものである。そこで、本会と手島氏は資料を作成するに当たり、選挙運動の方針や戦略について検討を重ねていった。本会と手島氏で選択した選挙資料のうち、リーフレットは本誌2025年4月号の同連載で紹介しているので、本稿では、選挙資料の制作後からの活動を中心に説明する。

ICN理事選挙運動に関する規定は理事選挙を重ねるごとに厳格化され、運動期間、運動の対象、広報媒体、選挙運動費の報告などについて詳細に定められている。候補者はこれらのルールを厳守し、決められた選挙運動期間内にいかに効果的な活動を行うかが重要となる。
手島氏は本会とも協働し効果的な選挙運動の方針・戦略を検討し、12月5日(選挙日の6カ月前)にICN・選挙推薦委員会から立候補者が公示されてから、選挙活動期間の終了(投票日前日の0時)まで精力的な選挙運動を行った(図表1)。制作したリーフレット、ビデオ、履歴書の内容は、事前にICN事務局の承認を得る必要があり、掲示のタイミングなどのスケジュールも戦略を練って対応した。

ICN理事候補者ウェビナー

1)概要

候補者ウェビナーは有権者となる各国看護師協会が各候補者の人物像や次期理事としてのビジョンを理解し、交流を持つ機会となるようICNが設定している選挙運動の一つである。本ウェビナーは各国・地域の時差を考慮し2グループに分けて開催され、手島氏は第1グループで候補者8名とともに参加した。

2)戦略

候補者ウェビナーに臨むに当たり、本会と手島氏は、他の候補者のビジョンやPR内容を選挙資料から分析した。そして、手島氏の強みをどのようにアピールしていくか戦略を練った。それらを踏まえ、手島氏は候補者スピーチにおける自己PRの準備、質疑応答の事前準備に備えた。本会では、他協会のこれまでの国際会議での発言などを通じた関心内容も分析しながら、そこからさらに手島氏の経験や実績の強みを引き出せるような質問を準備し主張していった。

3)候補者ウェビナーの様子

冒頭の各候補者のスピーチでは、それぞれが丹念な事前準備をして臨んでいることがうかがえた。一方、世界の国・地域から当日どのような質疑が投げかけられるかわからないことに加え、ICNの公用語を母国語としない候補者もいる。このような中、質疑応答では即座の対応力が求められる。思いがけない質問に戸惑いを見せる候補者もいる一方、手島氏は終始落ち着いて回答していた。特にICN理事候補者のビジョンとして、人々の健康を守り、人々の生活を持続的に保障するためにはユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)推進が不可欠であり、その中心となる看護師の量的・質的確保のために、看護師のWell-beingの確保の重要性を強調した。
また、ICN理事として世界の看護の声を聞いてきた手島氏は、地域における各国看護師協会の能力開発のための具体策として、WHO地域事務局のNursing Officerとも連携し、ネットワークを強化して好事例を共有する機会を持つなど具体的な提案を行った。特に、これらの課題を解決するための基盤となるICNが今後もさらに世界の看護の声を代表し、世界に影響を与える組織であり続けるために、会費に依存しない盤石な組織体制構築の強化に向けた具体策看護師 平和を築く存在を提案していたことも、現理事会を経験した数少ない候補者である手島氏の強みとなり、他の候補者とは一線を画していた。これらの提案は他候補者の共感を引き出し、各国看護師協会に強い印象を与えた。
手島氏の応答は、キャッチフレーズに掲げていた“多様な価値観を包含する柔軟なリーダー”を体現し、各理事候補者の発言にも影響をもたらし、一人ひとりがリーダーとしてリーダーシップを発揮できるチームづくりに寄与する、協調型リーダーシップの模範を各国看護師協会に示す機会になった(写真1)。

おわりに

手島氏は2期目のICN理事として再選出された。公示から現地での選挙運動終了日まで、世界中の看護師のWell-beingを確保したいという手島氏の熱意と、地道で真摯な選挙運動を積み重ねた努力が各国看護師協会との信頼関係を築き、最終的に当選につながったと考える。
また、第2副会長という国際的な看護政策に直接影響を与えるICN組織の舵取りを担う重要な執行役員というポジションに日本人が就任したということは、日本の経験をもって世界の看護の発展に寄与するチャンスである。さらに、手島氏のグローバルな経験を今後、国内の看護の発展や看護政策の推進に活用できるよう、本会では手島氏との連携を強化するとともに情報発信をよりいっそう強化していく。

ICN新しい理事体制に

国際看護師協会 第2副会長 手島 恵

ICN初の男性会長

2025年6月13日、ヘルシンキで開催された第30回国際看護師協会(ICN)大会の閉会式において、第30代会長が公表されました。それに先だって開催された会員協会代表者会議(CNR)で投票が行われ、9日にホセ・ルイス・コボス・セラーノ氏が選出されたことが明らかになりました。選挙前のコボス氏との個人的な会話では、「自分は歴史上はじめての男性看護師の会長になる」と話していましたが、会長選出後、いっさいその話はしなくなりました。興味深いことに、日本看護協会も同じ時期、総会で秋山智弥氏が会長に選出され、世界と日本で男性が看護協会長として選出されたのです。これは、看護という職業が男性、女性というジェンダーを超えたプロフェッションになってきていることの証のように考えますが、皆さまはどのようにお考えになりますか。

合言葉はエンパワメント

コボス会長は、スペイン看護師協会の第3副会長を務めています。妻も看護師として働いており、3人のお嬢さんの2番目が看護大学生です。そのような環境からも、彼は「足が地に着いたICNの運営をしたい」と語っていました。ICNをグローバルな保健医療の主体として向上させ、ICNの各国看護師協会を強化していくことを英語、フランス語、スペイン語を交えて発言。歴代の会長が公表する合言葉(Watchword)は「Empowerment(エンパワメント)」と発表しました。
ICN大会の閉会式で行われた就任演説の中で彼は、「合言葉は『エンパワメント』です。なぜなら、私たちは世界で3,000万人を超える医療従事者最大のグループであるにもかかわらず、私たちの貢献が十分に認められていないからです。しかし、考えてみてください。たった1人の人間が数時間で世界の流れを変えることができるなら……3,000万人の看護師が協力すれば何ができるでしょうか」と、すべての看護師に毎朝、世界を変えるために何ができるかを自問し、夜にはその目的を果たすために何をしたかを振り返るよう求め、また、演説では、次のようにも語りました。
「しかし、明確に言っておきます。私はICNを変えるために来たのではありません。パメラ・シプリアーノ氏と彼女のチームが率いてきた偉大な仕事を継続するために来ました。明確なロードマップがあり、新しい理事会とともにその道を歩んでいきます」と、ICN運営の安定化や、看護学生・キャリア初期の看護師同盟の発展、看護教育へのアプローチ等を踏まえ、さらにICNを強くしなやかな組織に発展させると強調しました。さらにコボス会長は、すべての声を聞く計画を表明し、世界中の看護師に「世界の看護師の皆さん、私たちは準備ができています。これが私たちの瞬間です。この機会をつかみましょう。看護師をエンパワーし、未来をリードしましょう」と呼びかけました。
会長を退任したシプリアーノ氏は、退任演説でICNの会長として務めたことを光栄だとし、これは自身のキャリアの頂点であったと語りました。「世界中の看護師の揺るぎない勇気に感嘆してきました。献身と創造性は比類ないものです。人類への連帯と慈しみに限界はありません。今日、私は職業人生の一章を閉じます。これは永遠に大切にするものです。皆さまの会長として務めることができたことは、特権であり栄誉でした。すべての終わりには新しい始まりがあります。私たちはともに大きな進歩を遂げたことを知り、この役職を去ります。新しい理事会による職業の未来を導くための取り組みを楽しみにしています」と締めくくりました。
ちょうど本号が出版されるころから、新しい理事体制が本格稼働します。これからも、皆さまに情報をお届けできるのを楽しみにしております。

2025年ICM評議会報告

日本看護協会健康政策部助産師課

ICMとは

国際助産師連盟(以下:ICM)は117カ国136の助産師協会が加盟する、100万人以上の世界の助産師を代表する国際組織で、世界の助産師職能団体を支援、強化するために活動している。日本看護協会(以下:本会)は1955年からICMに加盟し、世界の助産関連情報を国内での政策提言などに活用したり、日本の助産・助産師の国際的なプレゼンス向上のための活動を行っている。

多岐にわたる議題

ICMは年に1度、すべての会員協会の代表者を召集し、最高意思決定機関として機能するICM年次評議会を開催している。今年は6月11日にオンラインで開かれ、2024年度年次報告書・財務報告書が提示されたほか、合計6つのICM基本文書の更新案が提案された(図表1)。2021年以降、ICMを含め国際的に助産師のSRMNAH(性と生殖・妊産婦・新生児・思春期の健康)へのかかわりの重要性が述べられてきたが、今回の文書の更新でもその内容が組み入れられた。
「助産ケアの理念とモデル」(前回更新は2014年)においては、助産の理念や助産師によるケアモデルについて、助産師が人生のあらゆる段階において提供する包括的なSRMNAHケアが他のすべての側面にも適用されることなどを盛り込んだ提案がなされた。
ガバナンスの変更(定款の更新)に関して、昨年の年次評議会で副会長職の廃止などを含めた提案がなされ賛成多数となったが、会議が定足数に満たず議決には至らなかった。それを受け、昨年度の提案に加えて、ICMが財政的に持続可能であるよう資金調達の機会を探っていることなどを背景に、新たな理事会のポストとして資金調達とパートナーシップの支援を具体的な役割とし、組織から独立した「アライアンス理事」の創設などが提案された。
本会は投票に先立ち、独立選挙委員会(IEC)更新版 ToR(※)に関する決議で、ICMのガバナンスにかかわる重要事項の決定プロセスに会員協会が参画できるよう、事前に意見出しできる機会を設けていただきたいという趣旨の意見を提出し、ICMからは評議会や事前の意見提出を通じて意思決定への参加が可能である旨の回答があった。
評議会の議題は、加盟協会の投票によりすべてが承認された。

※ Terms of Referenceの略。業務の目的・範囲などを明確に定義した文章のこと

今後の展開に向けて

本会は、日本国内において助産師が専門性を発揮し、すべての母子が安全・安心に出産できる持続可能な体制の整備に向けて事業を推進してきた。今後、その取り組みをいっそう推進するとともに、ICM加盟協会としての活動を通じて国内への情報発信をしつつ、これまでの本会の政策的な取り組みと成果を周知し、諸外国の参考となるよう協力していきたい。

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