国際情報のページ
機関誌「看護」2026年8月号
第79回世界保健総会(WHA)と国際看護師協会(ICN)
日本看護協会 国際部
世界保健総会の役割と第79回の決議内容
2026年5月18日から23日にかけて第79回世界保健総会(WHA)(※1)が開催された。WHAは、世界保健機関(WHO)の最高意思決定機関として、世界的な保健に関する事項や予算など、WHOの組織的な事項について議論される。
今年1月の米国の脱退による財政的な影響に対応するため、組織再編や優先事項の再設定が昨年より進められてきた中、第79回WHAでは、グローバルヘルスのガバナンス構造の改革について合意がなされるとともに、結核、薬剤耐性、統合的な救急・クリティカルケア・手術を推進する戦略など多数の意思決定が行われた。また、世界において保健医療従事者が不足する中、倫理的な国際採用が求められており、2010年の第63回WHAにて採択された「保健医療人材の国際採用に関するWHO世界行動規範」の改訂が最終日に決議された。
看護の声を代表するICN
国際看護師協会(ICN)は、WHOと公的な関係にあるNGOとして毎年WHAに参加している。本WHAでは、さまざまな保健関連の決議が採択されても、看護職や保健医療従事者がいなければ、それらの決定は現実のものとはなり得ないとして、WHOにおいて保健医療従事者に関する事項の優先順位が下がることがないよう取り組んだ。主要な議題において発言するとともに、サイドイベントやミーティングを通して関係者・団体との意見交換を行い、看護の声を届けた。
ホセ・ルイス・コボス・セラーノ会長、ハワード・カットンCEOなど現地でWHAに対面参加する代表者のほか、ICNはバーチャル代表団を集い、ウェブ会議ならびにホームページ、WhatsAppアプリを通じてコミュニケーションをとり、看護にとって重要な話題について情報共有が行われた。本会もICNバーチャル代表団に初参加し、WHAでの議論を追った。
ICNが発言した主な議題は、「保健医療人材の国際採用に関するWHO世界行動規範」、ユニバーサル・ヘルスカバレッジ(UHC)、 プライマリヘルスケア(PHC)、保健医療にかかわる緊急事態などである。また、他の保健医療専門職団体と連携し、保健医療へのさらなる投資やグローバルヘルスのガバナンス構造の改革を支持する意見を提出した。
「保健医療人材の国際採用に関するWHO世界行動規範」の議題では、保健医療従事者が世界的に不足する中、看護職を含む保健医療人材がより高額の給与やキャリアアップを求めて人材不足の高所得国に移動していることを踏まえ、人材の送り出し国が自国の人材を確保し、保健医療システムを維持できるよう世界規模での人材確保に向けた協調的な行動の必要性を提言。そのためにも、主要な人材受け入れ国による協調的かつ具体的な再投資メカニズムや、看護師の雇用、教育、定着に向けた共同投資の推進などを訴えた。
さらに保健医療にかかわる緊急事態の議題では、世界各地の紛争において、保健医療施設や保健医療従事者に対して攻撃が生じていることを非難するとともに、紛争が保健医療従事者の安全やメンタルヘルスに大きな影響を及ぼしており、すべての国家および武力紛争当事者に対して国際人道法に基づく義務を履行し、保健医療従事者を保護することを求めた。
ICNバーチャル代表団に参加し、ICNや他の参加者と情報共有を行うことは、現地との時差がある中でWHAの議論の動向を把握する上で大変有用なものであった。WHAに参加しながら情報共有をしてくださったICNの担当者に感謝するとともに、ICNの精力的な活動を実感した1週間であった。
※ https://www.who.int/about/governance/world-health-assembly/seventy-ninth[2026.5.25 確認]
ICNの発言全文[2026.5.25 確認]
次世代の期待に応える看護という仕事
国際看護師協会 第2副会長 手島 恵
国際看護師の日のイベント
5月12日の国際看護の日(IND:International Nurses Day)には、各地域(※1)でウェビナー形式のオンラインセミナーが約1時間にわたって開催されました(※2)。前半はホセ・ルイス・コボス・セラーノICN会長によるあいさつとIND報告書(※3)の説明が行われ、後半は各地域リーダーからのメッセージで構成されました。アジア・パシフィック地域では、フィリピン、オーストラリア、ミャンマーからの現状報告に加え、日本におけるINDの取り組みについて筆者が報告を行いました。
筆者の報告では、日本看護協会が制作した2026年の「看護の日・看護週間」のポスターが、若い人たちに自らの未来を想起させるデザインであることを紹介しました。さらに「看護の日」のトークイベントで秋山智弥日本看護協会会長と現在放映中の連続テレビ小説『風、薫る』(NHK)で主人公の一人を演じる俳優の見上愛氏との対談が行われたこと、このドラマの着想が「コロナ禍にあるとき、看護師が一生懸命働いていることを広く社会に知ってもらいたいと思った」というNHKプロデューサーの言葉にあることをお伝えしました。そして毎朝、約1,600万人の日本人がこのドラマを視聴しており、入院中の患者さんの多くが朝食をとりながら楽しんでいると述べると「日本語での放映でしょうが、ぜひ見てみたい」という反響がありました。
看護を専門的に学んだ人が就く職業としての基盤を築いた大関和をモチーフにしたこのドラマが、今後、社会や国民の看護職に対するイメージをどのように変化させるのか、とても楽しみです。
また、金沢大学病院で毎年夏に開催されている一日看護体験についても報告しました。高校生約20名が参加するこのプログラムは、病院長と看護部長が並んで辞令を交付することから始まり、最後はさまざまな医療職が楽器を奏でる音楽会で締めくくられます。翌日に手術を控えた患者さんが「この音楽会が立ち向かう勇気をくれた」と語る場もあり、看護の仕事が医療処置にとどまらず、患者さんの心に深く寄り添うものであることを、参加者の高校生は体験を通して感じ取っています。実際に「看護師になりたいという気持ちが増した」という感想が多く寄せられていることから、こうした丁寧なかかわりが次世代の動機づけにつながっていることを強く感じます。
看護職を志す若者が最も多い国
2024年にOECDが公表した調査によると、15歳の若者が「なりたい職業」として看護師を挙げる割合は、コロナ禍前の2018年とコロナ禍後の2022年を比較すると、OECD加盟国の少なくとも半数で低下していました。特にカナダ、デンマーク、アイルランド、ノルウェー、英国、米国では大きな減少が確認されています1)。世界的に若者の看護職への関心が低下する中で、最も看護職を志す若者が多い国が日本であることは大きな驚きでした。オープンキャンパスや一日看護体験といった地道な取り組みが着実に成果を上げているとのことで、このデータは世界の看護2025報告書2)にも掲載されています。
次世代の人たちが、看護職を選んで本当によかったと心から思え、働き続けられるような職業へと進化させていく責任が、今まさに看護職である私たち一人ひとりに課せられていると深く実感しています。
※1 ICNの地域は、WHOの地域分けに準じて6地域に分けられる
※2 国際看護の日オンラインセミナー
※3 ICNが毎年INDのテーマに合わせて作成する報告書
引用・参考文献
1) OECD:Fewer young people want to become nurses in half of OECD countries.
2) WHO:State of the world’s nursing report 2025.
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