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2023年

6月号

第21回アジアワークフォースフォーラム(AWFF)


国際看護師協会 Western Pacific/Subarea Asia 理事  手島 恵

第21回アジアワークフォースフォーラム(AWFF)が、3月1日(水)~2日(木)、タイのバンコクで開催されました。対象となるアジア17カ国のうち、10カ国の看護協会の代表者が参加しました。本稿では、フォーラムに関する報告書を国際看護師協会(ICN)がまとめましたので、その内容の一部を紹介します。

報告書の内容

このフォーラムは、COVID-19の大流行の影響が医療システムの再構築を困難にし、同時に看護師のストレス、燃え尽き症候群、離職の主要な原因となっている中、看護師の労働力不足の課題をどのように分析し、対処するかが重要な焦点となりました。

パンデミックは、看護師が保健システムの支柱であり、集団の健康の持続的な改善を達成するための中心的な存在として、保健システムの再構築に不可欠であることを社会に再確認させました。WHOも、看護師はUHC(Universal Health Coverage)を達成するための重要な支援者であると認識しています。そこで、フォーラムでは、パンデミックが看護師にもたらした前例のない世界的な課題を踏まえ、これらの課題を検討・検証し、各国間の協力を推進する戦略を探りました。

フォーラムに参加した国の多くは高齢化が進み、看護師に対する需要が高まっています。この看護師不足に対処するためには、パンデミック対応に重要な役割を果たした結果、ストレス、重労働、燃え尽き症候群などのダメージを受けた看護師に、回復を促すことのできる効果的なサポートを提供するとともに、看護師の教育、賃金、労働条件の改善により、労働力の長期的な持続性の確保に投資することが急務となっています。

特に、パンデミックの影響で早期に離職した看護師を補充する必要性から、新たに訓練・教育する看護師の数を増やすだけでなく、優先的に集団保健のニーズを満たす適切なスキルと資格を持つ看護師も育成し次に備えることが重要です。これには、複雑で困難な保健システムにおいて安全で効果的かつ質の高いケアを提供できるよう、より多くの看護師を学士卒レベルで育成するための看護教育の向上や、新人看護師が職場に効果的に適応できるような継続教育の強化も含まれます。

看護への期待

フォーラムは、高所得国による積極的な海外人材の雇用の増加について、低・中所得国が自国民に対して安全で利用しやすい保健サービスを維持する能力に有害な影響を与えることへの深い懸念を表明しました。

さらに、パンデミックによって効果的なプライマリーケアと慢性期ケアの必要性が増していること、また、高齢化によって、これらの分野で地域社会との最初の接点となる高度実践看護師の価値がますます認識されてきていることが明らかになりました。

これらを充実させることは支出ではなく投資であり、医療システムの再構築とUHCの達成を支援し、経済成長による投資回収を生み出します。改善された教育やキャリア機会へのアクセスを通じて社会の発展を支援するという点で、複数の投資回収が期待できるのです。

 

国際看護師協会(ICN)第21 回アジアワークフォースフォーラム(AWFF)・第17回アジア看護師協会同盟(AANA)会議の報告


日本看護協会 国際部


国際看護師協会第21 回アジアワークフォースフォーラム

2023年3月1日、2日に第21回国際看護師協会(ICN)アジアワークフォースフォーラム(AWFF)が、タイ・バンコクで開催された。新型コロナウイルス感染症パンデミックの影響により、前回(2019年11月)から約3年ぶりに行われた。ICNおよび日本、中国、インドネシア、マレーシア、マカオ、シンガポール、台湾、フィリピン、タイ、インドの10カ国・地域の各国看護師協会(NNA)の代表者が参加(写真1)。
本会からは勝又浜子専務理事(写真2)、労働政策担当の森内みね子常任理事(写真3)が、また、本会よりWHO西太平洋地域事務局(WPRO)に出向している安西恵梨子氏がWHOのNursing Officer として参加。手島恵氏もICN理事として出席した。


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1. フォーラムの概要

コロナパンデミック禍で、よりいっそう深刻化した看護労働力に関する課題について、各国・地域の現状を共有するとともに、ICNやグローバルな看護労働に関する有識者から、看護労働力の世界的な不均衡の状況等についての情報が提供された。その上で、今後、アジア地域全体で看護職を効果的に支援するための戦略や看護協会の役割について議論した。

また、今回の参加NNAが所属するWHO西太平洋地域(WPR)、および東南アジア地域(SEAR)のNursing Officer による情報提供が行われ、「世界の看護2020(State of the world’s nursing 2020 )」における地域分析を踏まえ、2021年5月に第74回世界保健総会(WHA)で初採択された「看護と助産のグローバル戦略の方向性(GSDNM)2021-2025 」の実効性を高めるために、看護のリーダーシップをいかに発揮できるか議論を行った。2日間にわたる会議の終盤では共同声明を作成した。この声明は、ICNのウェブサイトで確認できる※1

2. ICN、各国NNA 等からの主な情報提供

①ハワードカットンICN CEO

コロナパンデミックにより、世界の多くの看護職がトラウマを抱え、職を離れてしまった。看護教育が崩壊し、ストライキや労働争議が行われている。
購買力平価(PPP)による比較では、AWFFの国ではマカオ、シンガポールの看護職の賃金が高い。日本は2019年と比較し、PPPでは賃金が下がっている。

②WHO Nursing Officer

世界と比較し、WPRおよびSEARの両地域ともに35歳以下の看護職の割合が高く、ほとんどの国・地域で看護職が不足している。また、看護職のリーダーシップ育成プログラムや看護行政責任者の役職がある割合が低い。
WHOのパートナーは各国行政であり、各国政府と看護職がリーダーシップを持って連携することが重要。NNAとしても保健省や財務省と交渉するなどの取り組みが求められる。


本会からは、日本では、厚生労働省の看護系技官の職員数は30年前と比べると2 倍に増加しているものの医系技官の4分の1程度であり、県行政幹部の登用も含め、本会、都道府県看護協会それぞれが政策力をつけることの重要性を強調した。加えて、看護出身の議員を国会に送り、厚労省と連携し効果的に政治的関与をしていることも報告した。

また、各NNA からの情報提供によると、コロナパンデミックにより看護職が疲弊し労働条件も悪くなっていた。そして、多くの国・地域で看護師不足が起きており、看護師の定着には、高い給与やよりよい労働条件、福利厚生、キャリアアップなどの環境整備が喫緊の課題であるとした。

日本では看護職の海外からの受け入れ・送り出しともに活発ではないが、参加国・地域間では看護職の送り出し側と受け入れ側に分かれ、送り出す側では、看護職の自国の需給状況にかかわらず看護職が海外で働くことに対し積極的な事例もあった。さらにASEANや中華圏で、看護の教育や資格制度を共通にすることについて積極的な動きが見られた。

第17回アジア看護師協会同盟会議

ICN AWFF の2日間の会議に引き続き、3月3日に同会場にて第17回アジア看護師協会同盟(AANA)会議が開催された。日本、インドネシア、インド、マレーシア、マカオ、シンガポール、台湾、フィリピン、タイの8NNA、また、今回からインド看護審議会がメンバーとして承認され出席した。本会からは、勝又専務理事が参加した。

1. 会議の主な内容

本会は、勝又専務理事が「看護職の資質向上に向けた日本看護協会の取り組み」をテーマに日本の看護職の現状、資質向上のための継続教育の現状と本会の取り組みについて紹介。また、職能団体として、看護職が力を発揮し活躍できる制度、仕組みを構築するため、政策実現に向けたエビデンス構築の体制強化に取り組んでいることにも言及した。

①学術・研究コラボレーション

当該地域の参加協会は、当該地域で開催される国際学会について、学術における重要なネットワークとして認識。また、研究のコラボレーションについては、各NNAが国内外で積極的に学会を開催したり、ジャーナルを発行したりしていることが共有された。一方、国や地域によっては、リソースの限界などの課題があるとしたが、看護職の実態に関連した研究については、看護協会が責任を持って実施するべき領域であることを確認した。

本会は、研究に関して、アカデミアで各領域研究が進められていることを説明。その上でコロナに関してエビデンス構築のために研究費の助成を行っていることを紹介。一方、厚生労働省からの委託事業を通じて、本会と大学機関と三者で政策に寄与できるようにしていることにも言及した。

②基礎教育・継続教育

多くの国・地域で、看護を専門職として確立して、エビデンスを活用し、説明責任を果たすために、看護教育がディプロマから学士レベルへとシフトチェンジしていることが共有された。また、多くは更新制を導入していること(更新頻度は1~6年ごとと国・地域によってさまざま)が伝えられた。

本会からは、日本の看護職に更新制度はないことを紹介した上で、まず、各医療施設に対して看護職の継続的な資質向上にしっかり取り組んでもらうことを促し、自ら学ぶ生涯学習を支援していくことが必要だと説明した。

③人員確保の課題

パンデミックや高齢者、複雑で増加するケアのニーズに対応するためには専門的な教育を受けた看護師が重要であるとの認識が共有された。また、多くのNNAで看護師の国際移動や移住を問題視している一方、これらも看護師にとっての1つのキャリアの選択肢であり、受け入れ側となる国・地域の看護労働力確保策にもつながるとの認識を持つ協会もあった。

次回のICN AWFF/AANA会議は2024年11月にマレーシアで開催予定。

※1 第21回ICN/AWFF 共同声明

 

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