事例1:介護施設における利用者・家族の参画と多職種連携による利用者の安全確保

概要

介護施設における利用者の安全を守るために、看護職である施設長が医療機関での経験を活かし、介護施設の特徴を踏まえながら、職員それぞれの職種の専門性を発揮・連携し、利用者・家族も一緒に利用者の安全確保に参画できるようにマネジメントを行ったことで、当施設全体の安全意識を高め、利用者・家族の考えも考慮した安全確保に多職種で取り組むようになった。

社会福祉法人いずみ会 特別養護老人ホームリンデンバウムいずみ

施設概要(2022年7月現在)

施設の画像

  • 【設置主体】社会福祉法人いずみ会
  • 【所在地】秋田県秋田市
  • 【施設定員】65名(個室:24室、4人部屋:12室)
    要介護度:原則3以上(平均4.2)
  • 【職員体制】看護職:5名、介護職:29名、生活相談員:2名、栄養士:2名、機能訓練指導員:1名、介護支援専門員:1名、施設長:1名、事務員:5名
  • 【その他】安全対策管理加算算定あり

2000年11月に特別養護老人ホームとして開設したリンデンバウムいずみは、秋田市の中央部に位置し、日々の生活介護はもとより、看取り介護にも取り組み、利用者・家族の協力も得ながら、終末期も安心して過ごせる施設を目指している。

一般的に特別養護老人ホームにおいて入所から看取りまでの期間は平均3年程度である。入所してからの3年の間に少しずつ身体機能は低下していくため、時間の経過とともに転倒、転落、誤嚥などが発生する危険性が高まっていく。また、利用者一人ひとり異なる状態にあるため、ケアの標準化は難しく、全利用者に対し個別の対応が必要となる。生活の場である施設においては、利用者ごとにその人にとっての最良の生活を維持することと、利用者の安全を確保することが、必ずしも一致しないことに、利用者個別の対応を行いながら安全を確保することの難しさがある。

利用者・家族の参画と多職種連携による安全確保の取り組み

まず、各職種が情報収集しアセスメントしたことを職員間で共有する仕組みがなかったため、話し合いの場を設けた。また、安全管理委員会では、施設内の安全確保についての年間目標と計画の立案や教育研修等の実施、および、インシデントレポートに関する職員へのフィードバックを行うようにし、事故の再発防止策や利用者の状態へのアセスメントに対して多くの職員が様々な案を出す等、既存の組織の仕組みも活用して職員が安全確保に関わるようにした。

さらに、利用者のリスクを認識したうえで、利用者の望む生活の実現にむけた支援を行うためには、①倫理観の醸成、②各職種の専門性の発揮、③利用者・家族を含めた多職種による協議・検討、の3つの視点が必要と考え、体制を整えていった。

倫理観の醸成

ミーティングの様子
ミーティングの様子

利用者・家族を含めた多職種で、利用者の状態やリスクを共有し、利用者が望む生活の実現にむけた組織としての支援方針を検討する方法として、臨床倫理4分割法のシート(以下、シート)を導入した。利用者に接する職員全員で、その人らしい最良の生活・暮らしと安全確保のバランスを検討し、方向性を定めるようにした。また、家族との面談や電話連絡の際に、そのシートを用いて、利用者の生活・暮らしと安全確保について一緒に考え、最終的に、利用者や家族の意見・気持ちをシートの中に反映させ整理した。

それぞれの専門性を発揮するために

各職種が専門性を発揮して利用者の安全確保につなげていくためには、各職種それぞれの視点をもって利用者を観察し、それらをアセスメント・統合した上で、チームとして利用者に接し、支援のプロセスと結果を順序立てて理解していることが必要であった。

そこで、同施設では、業務日誌の中に、アセスメント表を入れて、その日に転倒・転落や誤嚥リスクが高い利用者をリストアップし、職員で共有する仕組みを整えた。そして、朝と夕の引き継ぎミーティングの際に当日の職員全員で集まり、利用者の安全管理について、看護職、介護職、栄養士、理学療法士それぞれの視点から意見を出し、日中・夜間の計画を立てることを開始した。

利用者・家族を含めた多職種の連携を推進

利用者のリスクを認識したうえで、本人の望む生活の実現にむけた支援を行うために、組織としての方針をもち、家族を含めた多職種で連携して対応することを重要と捉えた。また、多職種がお互いの専門性を認め、最良のケアの提供のために、誰もが意見を述べることができるような職場風土を作ることも大事にした。これらを通じ、職場風土を整えることで、組織の安全文化の醸成や、利用者にとって安全で安心のあるその人らしい生活を提供することにつながった。

そして、多職種連携とあわせて、家族との積極的な協働にも配慮した。特に、家族にも利用者の安全確保を意識してもらえるように、転倒や誤嚥のリスクなど、利用者に関する良いことも悪いことも含めた正確な情報について、面会時や電話等で頻繁に情報共有に努めた。

取り組みによる効果

チームとして進化

以前は、職員同士、あるいは、家族との連携が十分とはいえない状態だったが、誤解なく情報を伝えることの重要性を理解し、チームとして活動できるようになった。また、「一人の責任には絶対にしない」という施設長の姿勢が、職員の負担を軽減し、結果として職員を守り、施設長と職員間の信頼関係を築くことにつながった。

また、職員の倫理観が養われ、利用者にとっての最善を職員一人一人が考えるようになった。日々、利用者にとっての最良の生活と安全確保のあり方を繰り返し考えながらも、利用者に接する職員全員で支援の方向性を決めるようになったため、独りで悩んだり過度な負担を感じたりすることなく支援を行えるようになった。

家族との関係性に変化

利用者・家族も一緒に安全確保に参画できるようにマネジメントを行い、家族と情報共有するようになったことで、何か事故があった場合でも家族に理解してもらいやすく、トラブルに発展しなくなった。また、以前は一方向だった家族との関係性が双方向となり、その人らしい生活・暮らしや最良の安全に対して、職員側と家族側で生じていた認識のずれも少なくなった。家族に対して実施したアンケートでは、職員の支援について高い評価を得ている。

施設全体の安全に対する意識が向上

職員の安全に対する意識が変化し、危険な要因に敏感に反応するようになったり、安全確保に関するアンテナが高くなり、転倒の可能性を視野に入れて環境を整える等、各職種がそれぞれの専門性を発揮し、主体的に危険を予防するための視点をもって取り組むようになった。また、朝夕の引き継ぎの場で、職員それぞれが安全性の観点から自分の意見を積極的に話すようになった。

個々の専門性だけでなく、チームマネジメントによる多職種連携が施設全体の安全意識を高め、危険を予防するための行動を促すことにつながっていった。

今後の展望

多職種が連携しチームとして機能するようになったこと、そして、家族と協働するようになったことが当施設の強みとなっている。今後も安全への取り組みを継続・推進し、利用者・家族・職員皆が納得できるような「その人らしい生活・暮らしと最良な安全」の提供に努め、「この施設を選んで良かった」と利用者・家族に思ってもらえるようチームで取り組んでいきたい。

(2022年9月16日掲載)

コラム:介護保険施設に求められている安全対策

介護保険施設は、厚生労働省令で定めるところにより、利用者の安全を確保するための指針の策定、従業者に対する研修の実施その他の当該施設における安全を確保するための措置を講じなければなりません。

また、この厚生労働省令において、事業類型毎に定める基準に基づいた規定がされており、介護保険施設は、この基準に基づいて、サービスの提供により事故が発生した場合には、速やかに市町村、利用者の家族等に連絡を行うとともに、必要な措置を講ずることとされています。2021年には市町村に提出する介護事故報告書の様式が標準化され、介護保険サービスを提供するすべての事業所に標準様式の活用が求められています。将来的には報告された介護事故情報の収集・分析に基づき、介護事故の発生・再発防止やサービスの質向上につながる情報共有ができるよう、国において調査・検討が始まっています。

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