事例2:薬剤関連のインシデント防止に対する組織的な取り組み

概要

内服薬飲み忘れなどのインシデントに対して、薬剤部と病棟のセーフティマネジャーによるワーキンググループや飯塚病院の特長的な活動の一つであるTQM活動サークルが組織的な取り組みを行い、取り組みの中で試行錯誤して完成させた「未実施防止カード」を活用したことで、看護職以外の職種や患者も巻き込み、内服薬飲み忘れ防止へと繋がった。

株式会社麻生 飯塚病院

施設概要(2023年3月現在)

施設の画像

  • 【設置主体】会社
  • 【所在地】福岡県福岡市
  • 【開設】1918年
  • 【病院区分】地域医療支援病院
  • 【定床数】1,048床(一般床978床、精神70床)
  • 【従業員数】看護師1,052人

飯塚病院は、患者中心の医療を推進するため、「患者の権利宣言」を定め、全スタッフが一丸となり、医療の質向上を目指している。院内では、TQM活動が推進されており、毎年20以上のサークルが質の向上を目指して改善活動を行っている。今回、この活動の中から、患者や多職種も巻き込んだ、内服薬飲み忘れ防止に向けた取り組みについて紹介する。

  • 全員・全体(Total)で医療・サービスの質(Quality)を継続的に向上させる(Management)こと

内服薬飲み忘れ防止への組織的取り組みに挑戦

急性期病院である同院は、手術を受ける患者や重症患者、高齢者が多く、患者の服薬については看護師の管理を必要とすることが多い。しかし、看護師が服薬管理を担っていても、内服薬飲み忘れなどのインシデントとして多く発生していた。

そこで、2009年に薬剤部と投薬関連インシデントの多い10病棟のセーフティマネジャー(各部門・病棟と医療安全管理室などをつなぐ役割を担う)によるワーキンググループを結成し、インシデントを減らすための改善活動に取り組み、手順書の作成や新人看護師への教育などを行ってきた。

試行錯誤で誕生した「未実施防止カード」

前述の活動と同時に、医療安全推進室と薬剤部、2つの病棟によるTQM活動サークルでも、内服薬飲み忘れ防止に向けた改善活動を行っていた。この活動の中で、内服薬飲み忘れの原因について分析を行ったところ、原因の約60%が看護師の配薬忘れだったため、配薬忘れを防止するべく、2021年4月から「未実施防止カード」を使った取り組みを開始した。

「未実施防止カード」は、「このカードを見たら、看護師に声かけしてください」と大きく記載されたA4サイズのカード(写真参照)で、看護師が使用するカートに常備して必要時使用している。配薬時に患者が不在だった場合にはカートの「未実施防止カード」を患者のテーブルに置き、配薬ボックスには「未配薬」のカードを付けるという仕組みになっている。

当初、「未実施防止カード」は2病棟で使用し、試行錯誤を重ねた。職員、患者、家族、誰が見ても一目で分かるような文言や表記、使い方にするため、各部門の医療安全担当者や医療安全推進室の意見も反映し、全病棟で使用できる汎用性を考慮したシンプルな仕組みを作り上げた。ワーキンググループやTQMサークルの「インシデントを減らしたい」という思いが原動力となり「未実施防止カード」発案の翌年2022年10月には、全病棟での導入に至った。

「未実施防止カード」で内服薬飲み忘れゼロへ

患者が部屋に戻った際にカードがあることで「看護師さん、何かカードが置いてあるよ」と声を掛けるようになった。これまで未配薬・未内服は受け持ちの看護師にしか把握できていなかったが、患者や他職種にも一目で分かるようになり、配膳を担当する他職種が「未実施防止カード」に気付き、食前の血糖降下薬の飲み忘れを防いだ例もあった。このカードを先行して導入した病棟では、内服薬飲み忘れ発生件数が0 件になっている。

従来は、服薬を管理する看護師個人のヒューマンエラーとして個々の注意や努力による対策のみだったが、個人の責任に任せず組織としての取り組みとして考案した「未実施防止カード」は、シンプルでありながら看護職以外の職種や患者も巻き込んだ内服薬飲み忘れ防止に有効な策となった。

医療安全推進室の新鹿深夏副室長は「この取り組みを患者が薬の自己管理を学ぶ機会に応用していきたい。自己管理できるようになれば、配薬自体の件数が減ることとなり、内服薬飲み忘れの発生も看護職の負担も安全に減らしていける。将来的には退院後の服薬自己管理にもつなげていきたい」と今後の展望を語った。

(2023年4月6日掲載)

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