協会ニュース 2023年3月号

新たな災害支援ナース始まる 感染症発生時の派遣、養成・登録の仕組みも法制化

国の感染症対応の動き

新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取り組みを踏まえ、2022年12月に「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律」(令和4年法律第96号)が制定された。これにより、感染症発生・まん延時における国による広域での医療人材派遣の仕組みや、派遣される医療人材の養成・登録等の仕組みなどが法制化された。この中に、DMAT・DPATと並び、日本看護協会および都道府県看護協会の災害支援ナースの応援派遣も想定されている。

改正後の「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」(平成10年法律第114号、以下「改正感染症法」)および「医療法」(昭和23年法律第205号、以下「改正医療法」)において、以下の仕組みが規定された。同法は2024年4月から施行される。

  • 改正医療法に基づき、厚生労働大臣から委託を受けた者が実施する研修の修了等厚生労働省令で定める基準を満たした医療従事者を「災害・感染症医療業務従事者」として登録
  • 都道府県知事からの求めに応じて、厚生労働大臣から委託を受けた者は「災害・感染症医療業務従事者」のリストを都道府県知事に対して提供
  • 都道府県知事と医療機関の間で「災害・感染症医療業務従事者」の他の医療機関等への応援派遣(県内・県外)を含めた協定を締結
  • 災害救助法・改正感染症法の規定に基づき、応援派遣に係る費用を公的に負担

新たな災害支援ナースの仕組みの構築

本会および都道府県看護協会はこれまでも自然災害や新型コロナウイルス感染症の発生時に看護職の応援派遣を行ってきたが、現行の災害支援ナースの派遣は、自然災害のみが対象であり、また、法令などの根拠に基づくものではなかった。災害と感染症に対応できる看護職の養成・応援派遣・確保を一体的に行うという国の動きを受け、本会も、自然災害、感染症支援に係る看護職の応援派遣体制の仕組みを新たに構築することになった(図1)。それに伴い、従前の看護協会独自の応援派遣の仕組みは、発展的に解消する。

【図1】自然災害、感染症支援に係る看護職の応援派遣体制の概要
【図1】自然災害、感染症支援に係る看護職の応援派遣体制の概要

本会および都道府県看護協会において、災害や新型コロナなどの新興感染症の発生時に、他の医療機関等への応援派遣に的確に対応できる看護職を養成するための研修(以下、「災害支援ナース養成研修」)を実施し、当該研修修了者(災害支援ナース)のリスト化を進める。災害支援ナースのうち、改正医療法に基づく「災害・感染症医療業務従事者」として登録されるのは医療機関に勤務する看護職のみだが、都道府県の調整により、医療機関以外に勤務する看護職や潜在看護職も応援派遣される。これらの応援派遣は、全て在籍出向で行われる。

災害支援ナース養成研修では、災害と感染症についての一体的な研修プログラムを提供する(表1)。

【表1】災害支援ナース養成研修の構成・方法
構成と主な内 研修時間 一部受講免除
講義(オンデマンド研修) A. 総論
  • 災害・新興感染症に係る応援派遣の体制
4日間
  • 120分
 
B. 災害各論
  • 災害医療の基礎知識
  • 災害時に求められる看護支援活動
  • 災害時の心理的変化とこころのケア など
540分 既に都道府県看護協会に災害支援ナースとして登録している者のうち、以下のいずれかに該当する者
  • 災害看護に関する研修もしくは訓練に毎年参加している者
  • 登録日から5 年を経過していない者
C. 感染症各論
  • 新興感染症の基礎知識
  • 新興感染症患者の治療と観察ポイント
  • 新興感染症患者の看護(軽~中等症/重症)など
540分 新型コロナウイルス感染症対応看護職員養成事業の研修のうち、重症患者対応研修を修了した者
演習(集合研修) D.災害・感染症
  • ○○県における災害・感染症に係る応援派遣時の看護支援活動(講義)
  • 災害時の看護職の活動の実際
  • 新型コロナなど新興感染症患者の看護 など
2日間 講義 60分
災害 270分
感染症 270分
 

研修対象は、災害および新興感染症の発生時に他の医療機関等に応援派遣され、災害支援看護業務および新興感染症支援看護業務に従事することを目指す者とする。全ての看護職を対象とするが、勤務している医療機関において、災害および新興感染症の発生時に他の医療機関等に応援派遣されることを予定されている者を優先する。所属施設がある場合には、看護管理者あるいは部門長を通じて、また、所属施設がない場合には直接、都道府県看護協会に受講を申し込むことになる。

全てのオンデマンド研修および集合研修を終えた看護職を養成研修修了者とし、都道府県看護協会がリスト化する。この修了者リストを、都道府県看護協会が都道府県に提出する。その後、都道府県が、修了者リストから協定締結医療機関に勤務する者を「災害・感染症医療業務従事者」として登録する。

災害・新興感染症の発生時、医療機関は、都道府県と締結した協定に基づき、看護職を応援派遣する。県内派遣の場合は、都道府県が応援派遣調整を実施するが、県内調整で対応できない場合は、都道府県が厚生労働省に対して全国応援派遣の実施を依頼する。本会は厚生労働省からの要請に基づき、医療関係の職能団体・病院団体から構成される調整会議を設置するとともに、派遣要請県や応援実施県の都道府県行政や都道府県看護協会と連携し、全国レベルでの看護職の応援派遣調整を行う。

なお、医療機関以外に勤務する看護職や潜在看護職については、改正感染症法・改正医療法の協定の対象とはならないが、これまでのコロナ禍における応援派遣等の実績を踏まえ、都道府県が、地域の実情に応じて、医療機関以外との間で、災害支援ナースの応援派遣に係る協定を締結することも考えられる。このような場合、災害支援ナースは都道府県もしくは都道府県看護協会に雇用された上で応援派遣される。

本会では、改正医療法に基づく「災害・感染症医療業務従事者」の仕組みがスタートする2024年4月までに新たな災害支援ナースの仕組みへの移行完了を目指しています。2023年度中に、多くの看護職に災害支援ナース養成研修を受講いただくよう、ご協力をお願いします。オンデマンド研修は、今夏から配信予定です。