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協会ニュース 2023年2月号
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「看護職員の仕事を選んでよかった」と思える賃金制度を目指して
—まずは勤務先の賃金制度の確認から始めよう—
2022年11月18日に、看護職員の賃金に大きな影響を与えてきた国家公務員医療職俸給表(三)の改正内容が公表されました(改正内容は本紙2022年12月号、2023年1月号で既報)。これを受け、現在、日本看護協会では、看護職員の処遇改善キャンペーン第2弾を展開中です。1〜3月に掛けて、47都道府県看護協会による看護管理者等を対象とした緊急勉強会を開催しています。この勉強会では、国家公務員医療職俸給表(三)見直しの内容とその意義、賃金に関する基礎知識や賃金決定の在り方について解説し、賃金制度の見直しに当たってまず何から着手すべきか、具体的なイメージを持てるよう、自施設の賃金制度について現状分析のポイント等をお伝えしています。以下ではその概要をご紹介します。皆さんの職場でも話し合いを行ってみましょう。
賃金を決める際に最も重要なことは、今野浩一郎学習院大学名誉教授によれば、「人材をどう確保し育成し活用するのか」の視点から考えることであり、以下のように解説されています。
賃金は「あるべき人材の確保・育成・活用」を支援するものであり、「看護職員として働きたい人材を確保できること」「看護職員が能力を開発し、能力を発揮することで患者に対して良質なサービスを提供すること」を実現させるものでなければなりません。各医療機関は、「看護職員として働いてもらえる水準」「看護職員の確保・定着が図れる水準」という視点から賃金を考えなければなりません。
賃金決定には、労働市場の相場をみて決める「外部均衡」と、組織(医療機関)内で働く多様な人の間のバランスを考えて公平に決める「内部均衡」の原則があります。
「外部均衡」については、少子高齢化を背景に人材不足が深刻化し、他産業・他職種との人材獲得競争が激化するなかで、「看護職員の仕事を選んでもらえる賃金」(人材を「採れる賃金」「辞めない賃金」)であるかを点検し、改善を進める必要があります。
「内部均衡」については、医師、看護職員、コメディカル等、各職種が提供しているサービスの価値(組織に対する貢献)を比較し、同じ価値であれば、同じ賃金にするということです。看護職員と他職種の間で均衡がどうなっているのかを常に点検し、均衡が崩れていれば是正することが賃金の改善方法となります。
この「内部均衡」の考え方により看護職員と他職種の間の賃金原資の配分を決め、不均衡があるならその是正を行うことで看護職員の賃金改善につながります。その上で、看護職員が提供するさまざまなサービスの価値を調べ、そこから看護職員の能力・役割のレベル分けを行い、レベルに合わせて賃金を決めることで、看護職員の賃金がキャリアと連動したものとなっていきます。本会が示した能力・役割に基づく「看護職の賃金モデル」はそのよいツールです(※1)。サービス価値の向上を図り、それに見合った賃金改善を図ることが「賃金改善の王道」です。つまり「看護職員の高度専門職化を図ること」「そのサービスの価値を公正に評価すること」「それに見合った公正な賃金を実現すること」が具体的な対応となります。
勤務先の賃金制度の把握・整理
賃金決定の考え方について理解できたら、勤務先の賃金制度について確認を行い、現状把握と課題を整理することから着手しましょう。
最初の確認事項は、勤務先の看護職員に適用される給与規定の有無です。そもそも給与規定は、労働基準法で就業規則の中に記載することになっています。さらに、この就業規則を職員に周知すべきことが同じ労働基準法にあります。次に、給与規定の内容を確認します。基本給を決める基準、一般にこれを賃金の決定要素と言いますが、何を基準に給料を決めているか、給与体系と適用基準を確認します。毎月支払われる賃金は、基本給と各種手当の総額です。
賃金の柱となる賃金決定要素には、①年齢給・勤続給(年功型)②職能給③職務給④役割給⑤業績給・成果給などがあります(表1)。医療職俸給表(三)は典型的な年功型です。手当は、(A)役職手当、資格手当のように、仕事につく賃金、(B)家族手当や通勤手当のように、個人属性に応じて付与される手当、(C)時間外手当、休日出勤手当、深夜割増手当など、法令に基づいて支払うべき手当などがあります。
<表1:基本給を決める基準(賃金の決定要素)> ①年齢給・勤続 労働者の年齢や勤続年数を基準にして定められる賃金(年功) ②職能給 「人」基準の賃金。労働者の職務を遂行する能力を基準にして定められる。配置転換しても賃金に影響が及ばない(職務遂行能力) ③職務給 「職務(仕事)」基準の賃金。労働者の担当する職務(仕事)を基準にして定められる。職務内容との対応が明確 ④役割給 労働者の担う職務に対する役割期待を基準にして定められる賃金 ⑤業績給・成果給 業績や成果を基準にして定められる賃金 次に支給実態の確認です。横軸を年齢(もしくは勤続年数)、縦軸に実際の額を入れ、散布図を作ります。例えば、非管理職の基本給が早期に頭打ちになっていないか、他職種と比べ不利はないかなどをチェックします(表2)。
<表2:自施設の賃金制度チェックポイント> - 非管理職の賃金の伸びの状況
- 賃金のばらつきに不合理な点はないか
- 非管理職と管理職との賃金水準の差は適正か
- 支給実態をもとに職員の年齢ごとの基本給に関する散布図を作成の上、以上をチェック。看護職員と他職種との比較も行う
その上で、今回の医療職俸給表(三)の見直し(キャリアアップに伴う処遇改善)と自施設の賃金制度とを照合し、処遇改善が必要な点を検討します。さらに、現在の給与制度は、看護職員の中で、公平感、納得感のある賃金になっているか、という観点での検討も必要です。2019年の調査(※2)では、回答施設の62.5%が人事評価を実施していながら、賃金処遇と連動しているのは6割弱であり、4割は、人事評価が賃金に結びついていない結果でした。
看護職員のキャリアアップに伴う処遇改善の実現のためには、勤務先の看護職員の人材育成計画に基づき、能力・役割等の評価を採り入れ、専門職群、管理・監督職群、高度専門職群といった複線型等級制度が構築された賃金体系に変更することが、今後の看護職員の確保定着戦略として、極めて有用なステップです(8面に関連記事)。
- 都道府県看護協会主催の勉強会への参加を希望される方は、最寄りの都道府県看護協会へお問い合わせ下さい。
- 「看護職員の処遇改善」について、本会HPに詳しく紹介しています。