会長の手帳(日本看護協会 会長 秋山 智弥)
機関誌「看護」2025年8月号より
「いのち・暮らし・尊厳」をまもり支える仕事だからこそ看護職自身のウェルビーイングが大切
2025年6月11日の通常総会で信任を賜り、第15代日本看護協会長に就任いたしました。会員73万人の期待に応えるべく、その重責を実感しつつも、新たなるチャレンジに向けてワクワクする気持ちでいっぱいです。看護界は今大きな転換点を迎えています。医科学の進歩によって、これまで救えなかった多くのいのちを救うことができるようになりました。その恩恵を受けて延長できた大切な時間を誰とどのように過ごし、また、どのような足跡を残していくのか、一人ひとりの生き方が問われる時代です。二つとして同じ答はなく、その答は計算によって導き出されるものでもありません。
どのような意思決定をするのか、それはその人の生き方そのものとも言えます。「口から食べることをあきらめてでも長く生きていたい」と仰る方もあれば、「たとえ寿命が縮んでも最期まで口から食べていたい」と仰る方もあります。多様な価値観の中で、どのような生き方を選択するのか、よりよい選択が行えるためには、より正確で豊富な情報が必要になります。そうした情報を提供し、その人らしい生き方、意思決定を支援することが、「医療」と「生活」の両方の視点を備えた私たち看護職の仕事なのです。誰一人として取りこぼされることのない社会、そうした社会をつくる国や自治体の取り組みに積極的に参画し、すべての人々が健やかで幸せな人生を全うできるよう支援することが私たち看護職の務めであり、喜びだと確信しています。看護というこの尊い仕事の実際をさまざまな機会で発信し、国民からよりよく理解されるようになるとともに、次世代を担う多くの若者が看護の道を選び歩んでくれるよう心から願っています。そしてまた、この尊い仕事を全うするために、看護職自身もまたウェルビーイングな状態、健やかで幸せな状態でいなければなりません。仕事と私生活が両立でき、そのいずれもが自分の人生を豊かにしてくれるものであることが望まれます。その実現のためには、働きやすい職場環境や労働条件が整えられ、仕事に見合う処遇改善がなされ、キャリアを磨く学びの機会が得られるよう、改革を進めなくてはなりません。
総会の翌日、6月12日には厚生労働大臣の元へ赴き、処遇改善や夜勤負担の軽減、看護業務におけるDXの推進など、すべての看護職の労働環境改善のための財政支援を要望してまいりました。また、6月24日には記者会見を開き、看護職の置かれている厳しい現状を報告するとともに、2040年に向けた看護の将来ビジョン(※1)を紹介し、会長としての今後の抱負を述べさせていただきました。課題は山積していますが、知恵を出し合い、十分に話し合い、着実に解決し、すべての人々のウェルビーイングの実現に向けて全力を注いでまいります。会長である前に一人の看護師であることを行動の指針として。
※1 看護の将来ビジョン2040 ~いのち・暮らし・尊厳を まもり支える看護~
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