庄山由美さん(長崎県)

協会ニュース2018年2月号 連載:特定行為研修 修了看護師活動レポート

あらゆる場、あらゆる人への看護に活かす 
第3回

庄山由美さん
長崎県壱岐病院

庄山由美さん

玄界灘に浮かび、約2万7,000人が暮らす壱岐島。島の基幹病院である長崎県壱岐病院を拠点に、特定行為研修制度を活用した実践を行っているのが庄山由美さんだ。

タイムリーに対応できる実践力を

看護学生のころに対馬で実習をして以来、島しょ部やへき地での活動を考えるようになった庄山さん。大学病院で勤務したり救急看護認定看護師の資格を取ったのも、医療資源が乏しい状況でも初期対応ができる能力を身に付けたいと考えたからだ。一方で、働いていた大学病院では、多忙な医師を待つ場面も多く、患者さんにとって最も適したタイミングで医療が提供できないジレンマも感じていた。
こうした思いから、もっと実践能力を高めたいと、2012年に大分県立看護科学大学大学院のナース・プラクティショナー教育課程に進んだ。同大学院が15年7月に特定行為研修の指定研修機関となったことで、庄山さんも翌年3月に修了証を得ている。
大学院修了後に就職した国立病院機構長崎医療センターでは、2 年にわたって診療科をローテーションし、臨床推論や医学的な病態判断の能力を磨いた。その上で壱岐病院に派遣されることになったのが16年春のことだ。
「この人ならやってくれる。私の役割は活動しやすい環境づくりだと思った」と米城和美看護部長。庄山さんの希望に沿い、看護部所属で急性期病棟への配属とし、その存在が、看護師に好影響を与えることを期待した。
庄山さんは、みるみる院内に溶け込んだ。米城看護部長が師長会で「困ったことがあれば、庄山さんに相談するように」と伝えたこともあり、まず看護師たちが気になる患者さんについて相談するようになった。すると、庄山さんは全身状態をアセスメントした上で、看護ケアについて提案したり、医師と治療についてディスカッションし、より良い方向に導いてくれる。庄山さんの実践能力の高さを認識したのか、やがて医師たちも、特定行為である陰圧閉鎖療法やインスリン投与量の調整などを任せるようになった。向原茂明院長は「チーム医療と言いながらも共通言語がない中、医師と看護師の仲介役になってくれた」と語り、看護師の実践力の向上、多職種協働に大きく貢献したと評価する。

病院から地域の多職種へとつなぐ

庄山さんは院内横断的な活動に加え、16年秋からは退院後訪問や、訪問看護師、ケアマネジャーとの連携・協働により在宅療養支援を強化してきた。看護を基盤に、医学的な判断力や知識・技術を兼ね備えた自身を「地域包括ケアの中にこういう存在がいると、病気を抱えながら地域で生活する人々を支えることができる」と話し、積極的に患者さん宅へも足を運ぶ。
糖尿病の教育入院をしていた80代のAさんは、独居で認知機能の衰えもあり、自己管理が難しい状況にあった。庄山さんはAさんの生活状況を踏まえ、医師とディスカッションをしながら血糖値の目標を定め、1日1回の注射でコントロールできるようインスリン投与量の調整を進めた。さらに、ケアマネジャーと相談し、訪問看護を導入するとともに、デイケアの日数を増やして、退院後も看護師がインスリンの自己注射を支援する体制を整えた。退院後には訪問看護師と共に訪問し、Aさんが自宅で安心して過ごせるよう引き継ぎ、状態の変化があった場合の対応も共有した。その後、A さんの状態は落ち着いている。庄山さんが地域における多職種連携・協働をリードした好例だ。

「当初、特定行為研修修了看護師は『医師不足を埋める人』というイメージだったが、彼女は根底に『看護』がある。医学的な判断力や知識・技術も学んでいるから、患者さん、医師、看護師の架け橋になり、医療の質向上に大きく寄与している」と米城看護部長もその働きに太鼓判を押す。庄山さんが島の中に架けた橋が、今日も人々を支えている。

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