臨床倫理のアプローチ

    臨床倫理のアプローチ

    看護業務の中で、「患者の苦痛の緩和がされているだろうか」「そのひとらしい最期をむかえるためにはどうしたらよいか」「治療やケアの選択に悩む本人、家族をどのように支え、援助すればよいか」という倫理的課題に直面することがあります。
    臨床倫理では、患者又は利用者とその家族、保健医療福祉サービスに関わる様々な専門職の意見を集約し、多くの選択肢の中で、関係者間で折り合いをつけながら、患者又は利用者等にとっての最善にむけて倫理的課題に取り組んでいくことになります。
    では、どのようなアプローチで倫理的課題に取り組んでいけばよいのでしょうか。

    倫理的課題に取り組む際に核となる考えは、患者又は利用者等が中心です

    看護業務の中で「あれ、何かおかしい」と思うことがあったときには、様々な事象を整理して問題を捉え、倫理的課題の解決のために取り組んでいきます。その際、「利用者のためになっているか」「患者は苦痛を感じていないか」など、患者又は利用者等を中心に考えることが基本となります。

    患者又は利用者等にとっての最善を様々な視点で考えましょう

    倫理的課題を考える際には、患者を取り巻く家族、保健医療福祉サービスに関わる専門職など、全ての関係者がそれぞれの立場や価値観を尊重し、患者又は利用者等にとっての最善というゴールに向かって共に考えていきます。各々の意見に相違が生じることがあっても、患者又は利用者等にとっての最善を検討し、組織としての解決策を導き出していくことが重要です。

    倫理的課題を考える際のアプローチの方法は一つではありません

    倫理的課題を整理し、解決策を考える際、アプローチの方法は様々です。例えば、既存の枠組みを使って様々な視点から現状を整理したり、ナラティブに語り合って患者又は利用者等にとっての最善を導き出す手法もあります。
    アプローチの方法に正解はなく、メンバーや事例、話し合いの状況などによって、どのような方法を用いて倫理的課題を整理していくか選択をします。ただし、これらの方法はいずれも患者又は利用者等にとっての最善を導き出すためのものであり、整理することが目的とならないよう留意が必要です。

    看護実践上の倫理的概念

    看護実践上の倫理的概念の中でも、特に看護職の倫理的意思決定の基盤となる主なものには、アドボカシー、責務、協力、ケアリングがあります。
    これらの概念は、倫理的葛藤などが生じたとき、看護職としてどう考え、行動するかを考える基盤となるものです。

    アドボカシー

    アドボカシー(advocacy)とは、権利擁護や代弁などという意味です。
    看護実践において、看護職は患者のアドボケート(権利擁護者、代弁者)として、患者の権利を擁護し、患者の価値や信念に最も近い決定ができるよう援助し、患者の人間としての尊厳、プライバシー等を尊重しなければなりません。
    アドボカシーは、患者の安全や医療の質の保証、意思決定支援に関わる重要な概念です。

    責務

    看護実践の責務には、法的責務と道徳的責務があります。法的責務は、免許や業務を規定している保健師助産師看護師法に基づいています。道徳的責務は、日本看護協会が定めた「看護職の倫理綱領」(2003年)や「看護業務基準(2021年改訂版)」(2021)などに示されています。
    ICN看護師の倫理綱領(2012年)の中で、看護師の基本的責任として「健康を増進し、疾病を予防し、健康を回復し、苦痛を緩和する」と示されており、これらの基本的責任をどのような目的を持って、どのように責任を遂行したかということを説明する責務があります。

    協力

    看護職は様々な専門職・非専門職とチームを組んで業務を遂行することが多くあります。近年では、患者・家族もチームの一員として考えられるようになりました。協力とは、看護を必要する個人、家族、集団、地域等に対して安全で質の高いケアが提供できるよう、様々な人と協働することです。協力では、信頼関係を基に、メンバー全員が互いに配慮しあい、価値や目標を共有し目的達成のために共に貢献します。
    看護実践においては、様々な価値観を持つ患者・家族、専門職間で倫理的葛藤が生じることがありますが、様々な人と協力して解決に向かっていかなければなりません。

    ケアリング

    ケアリングの概念は次のとおりです。「①対象者との相互的な関係性、関わり合い、②対象者の尊厳を守り大切にしようとする看護職の理想・理念・倫理的態度、③気づかいや配慮、が看護職の援助行動に示され、対象者に伝わり、それが対象者にとって何らかの意味(安らかさ、癒し、内省の促し、成長発達、危険の回避、健康状態の改善等)を持つという意味合いを含む。また、ケアされる人とケアする人の双方の人間的成長をもたらすことが強調されている用語である。」


    • 国際看護師協会:ICN看護師の倫理綱領,2012.
    • 日本看護協会:看護にかかわる主要な用語の解説−概念的定義・歴史的変遷・社会的文脈,14,2007.

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