特別資料室(初代協会長井上基金設置特別資料室)資料紹介「戦前・戦後の看護教科書」

戦前・戦後の看護教科書を収めた書棚の画像

特別資料室で所蔵する看護教科書の一部をご紹介します。

戦前(明治〜大正)までの看護教科書

日本における看護婦養成所の設立は、明治17年から始まり、養成教育に必要な書物が次々と出版された。鵜沢氏らによると、明治期出版の看護書は、1877(明治10)年の太田雄寧による『看護心得』を皮切りに、47冊の発行が確認されている。当時の書籍は『近代日本看護名著集成』に一部が覆刻掲載されている。

本会では、日本で初めて看護婦教育が開始された有志共立東京病院看護婦教育所で初期の看護教育に用いられたとされる『A hand-book of nursing for family and general use(1880年)』の1901年版や、日本赤十字社の初期の教科書『日本赤十字社看護学教程』1896(明治29)年の原本など、大変貴重な戦前の看護教科書も所有しており、図書館特別資料室(日本看護協会看護研修学校内併設:東京都清瀬市)にて所蔵展示している。

平野鐙『看病の心得』1896年(明治29年)

平野鐙『看病の心得』1896年(明治29年)

東京慈恵医院看護婦教育所七回生である平野氏が著した、日本で最初の看護婦自らの手による書
※図書館所蔵は復刻版(大空社1995年)

Connecticut Training-School for Nurses, State hospital『A hand-book of nursing for family and general use』
1901年版(明治34年)J.B. Lippincott Company

Connecticut Training-School for Nurses, State hospital『A hand-book of nursing for family and general use』
1901年版(明治34年)J.B. Lippincott Company

有志共立東京病院看護婦教育所で初期の看護教育に用いられた教科書

大關和『實地看護法 5版』1926年(大正15年)新友館

大關和『實地看護法 5版』1926年(大正15年)新友館

※本会所蔵は復刻版
桜井女学校付属看護婦養成所一期生である大關氏が『派出看護婦心得』に続き本書を執筆

日本赤十字社編『看護学教程』1896年(明治29年)日本赤十字社

日本赤十字社編『看護学教程』1896年(明治29年)日本赤十字社

日本赤十字社の初期の教科書

<参考:日本の看護教育創成期に設立された養成所一覧>

1884
(明治17)年
有志共立東京病院看護婦教育所(東京慈恵医院看護婦教育所)
1886
(明治19)年
京都看病婦学校、桜井女学校付属看護婦養成所
1887
(明治20)年
東京帝国大学医科大学付属看護婦講習科
1890
(明治23)年
日本赤十字社救護看護婦養成所

上記の書籍は本会で所蔵しているほか、一部は「国立国会図書館デジタルコレクション」で全文を画像データでご覧いただけます。


引用・参考

  • 鵜沢陽子,花島具子:看護書からみた近代看護教育;明治10年"看護心得"から第2次世界大戦終了まで.看護教育,23(9)p544-554,1982.
  • 坪井良子編 『近代日本看護名著集成』大空社,1988〜1989.
  • 坪井良子,平尾真智子:わが国初期の看護教育と 『ハンドブック・オブ・ナーシング』.綜合看護,20(4)p115-129,1985.
  • 吉川龍子:赤十字看護教育における初期の教科書.看護と情報,9 p92-95,2002.

戦後の看護教科書

1. 連合国占領期における看護教科書

終戦後、連合総司令部(GHQ)の指導のもと、看護教育のモデルスクールとして1946年に東京看護教育模範学院が設立された。最初は教科書がなく聖路加女子専門学校の教本とアメリカの教科書を参考にノート筆記とプリントによる授業であったが、これらをまとめ1947年に「看護実習教本」がメヂカルフレンド社より発刊され、全国的に看護学校で使用されるようになった。
(氏家幸子:看護技術・教材の歴史的考察;『基礎看護技術』を編纂して.看護教育,47(11),p1052-1060, 2006.より)

東京模範看護教育学院編『看護實習教本』1948年(昭和23年) メヂカルフレンド社

東京模範看護教育学院編『看護實習教本』1948年(昭和23年) メヂカルフレンド社

東京看護教育模範学院の教員らにより発行された学生用テキスト

2. 看護教育カリキュラムの規定と更新

保健婦助産婦看護婦令の交付後、1949年に保健婦助産婦看護婦養成所指定規則として看護教育カリキュラムが規定された。1967年には保健婦助産婦看護婦養成所指定規則が20年ぶりに改定、それに伴いカリキュラムも大幅に更新され、看護学は「看護学総論」「成人看護学」「母性看護学」「小児看護学」の4系統に体系化された。それまで主に診療科別に発行されていた教科書もカリキュラムに沿った臓器・系統別で発行されるようになった。

厚生省医務局看護科編『看護の原理と實際』1949年(昭和24年) メヂカルフレンド社

厚生省医務局看護科編『看護の原理と實際』1949年(昭和24年) メヂカルフレンド社

序文に、「甲種看護婦学校又は養成所の専任教師となるべき看護婦のために行われた講習の 講義資料を集め、助手として教育や実習にあたった日本人看護婦が編集した」との記述がある。

序文に、「甲種看護婦学校又は養成所の専任教師となるべき看護婦のために行われた講習の 講義資料を集め、助手として教育や実習にあたった日本人看護婦が編集した」との記述がある。

永井敏枝『看護原理 第4版 高等看護学講座4』1961年(昭和36年) 医学書院

永井敏枝『看護原理 第4版 高等看護学講座4』1961年(昭和36年) 医学書院

著者の永井氏は本会看護研修学校校長を務め、教科書では他に『看護の技術 系統看護学講座23』も執筆を担当

1968年に刊行が開始された『系統看護学講座』は、その後もカリキュラムの改定に対応し、改訂・増巻しながら現在も刊行されている。

カリキュラム改定前

高等看護学講座 全30巻 / 医学書院 (1966年)
  • ...(1〜13巻省略)
  • 14巻 看護史
  • 15巻 看護倫理
  • 16巻 職業的調整
  • 17巻 看護原理
  • 18巻 内科学・伝染病学・内科看護法・伝染病看護法
  • 19巻 結核病学・結核看護法
  • 20巻 小児科学・小児科看護法
  • 21巻 外科学・外科看護法・外科的救急処置
  • 22巻 手術室看護
  • 23巻 整形外科学・整形外科看護法・理学療法・放射線医学
  • 24巻 婦人科学・産科学・産婦人科看護法
  • 25巻 精神医学・精神科看護法・精神衛生
  • 26巻 眼科学・耳鼻咽喉科学・歯科学
  • 27巻 皮膚科学・泌尿器科学
  • 28巻 臨床検査
  • 29巻 看護管理
  • 30巻 病院管理

カリキュラム改定後

系統看護学講座 全18巻 / 医学書院 (1968年)
  • ...(1〜11巻省略)
  • 10巻 看護学総論
  • 11巻 成人看護学Ⅰ 成人看護学総論
  • 12巻 成人看護学Ⅱ 内科 — 外科的看護1
  • 13巻 成人看護学Ⅲ 内科 — 外科的看護2
  • 14巻 成人看護学Ⅳ 整形外科看護
  • 15巻 成人看護学Ⅴ 眼・口腔・耳鼻咽喉科看護
  • 16巻 成人看護学Ⅵ 精神科看護
  • 17巻 小児看護学
  • 18巻 母性看護学

氏家幸子『基礎看護技術 初版』1982年(昭和57年) 医学書院

氏家幸子『基礎看護技術 初版』1982年(昭和57年) 医学書院

改訂を繰り返し現在も発行され続けており、最新版は第8版(2019年)(2021年10月現在)
氏家氏は3版(1990年)まで執筆。

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