DiNQLデータ収集の省力化 ―医療情報部との協働―(神戸市立医療センター西市民病院)

病院概要

【所在地】兵庫県神戸市
【病床数】358床
【DiNQL参加開始年】2023年度
【参加病棟数】9病棟

参加した動機・きっかけ

看護実践や患者アウトカムに関わる看護の質評価への取り組みに向け、看護部でDiNQLの活用が決定し、参加費が無料になったことを契機に2023年7月から参加を開始しました。

運用・活用について

初めに、初回のデータ入力の対象月は2023年7月分に決定し、データ収集は入力項目ごとに看護部内で分担したうえで、早速取り組みを開始しました。しかし、各自が収集するデータ量が膨大であったため、データの登録締切りである9月末までかかり、期限内に正確にデータを収集することが困難でした。今後もDiNQL事業に継続参加し、データを活用して看護の質改善に結び付けるためには、データ収集の負担を軽減する工夫が必要であると考えました。

データ収集体制の検討

データが院内の様々なデータベースに分散されており、データ収集やDiNQLの定義に合わせたデータ加工に時間を要するなど、看護部だけでは対応困難な状況でした。そのため、院内のデータベース(電子カルテ、勤怠管理システム、医事会計システムなど)を管理する医療情報部に協力を依頼し、担当者1名(医療・看護の理解があり、データベースからのデータ抽出のノウハウを持つ、医療情報技師の資格のある事務職)の協力を得ることができました。

データ収集の省力化の具体策

医療情報部の担当者に対し、必要なデータの内容やその必要性、どのような理由で必要か、今までどのようなデータ収集方法で対応していたか等、時間をかけて説明しました。医療情報部との定期的な打ち合わせを重ねた結果、医療情報部の担当者は、院内の共有フォルダ内に別途作成したシステムをクリックすることで、院内の複数のデータベースからデータを自動で収集・集計できる仕組み『ポチっとな』(図1)を構築しました。
自動で収集・集計されたデータは、診療報酬の加算算定などの「診療報酬の算定状況」に関するデータや、看護職員数や教育背景、平均年齢などの「病院・病棟の基礎情報」、「患者像・看護師の労働状況」に関するデータ、各専門職の常勤換算データ、緊急入院数や「身体的拘束の状況」など、種別ごとに収集・集計ができます。集まったデータは電子カルテが入っている端末内の「共有フォルダ」に蓄積され、病棟別に種別ごとにエクセル形式で抽出できます。図2は『ポチっとな』で収集した「患者像・看護職の労働状況」の一部項目のデータです。収集後、DiNQLのエクセルテンプレートに転記しています。

神戸市立医療センター西市民病院_図1_自動収集システム「ポチっとな」

図1:自動収集システム『ポチっとな』

神戸市立医療センター西市民病院_図2_集計結果(見本)

図2:集計結果(見本)

取り組みの効果

当院が入力するDiNQLデータ123項目(精神・産科・小児カテゴリを除く)のうち、56項目(45.5%)は『ポチっとな』により自動でデータ収集が可能となり、ひと月分のデータ収集・登録にかかる時間は約9時間と半分以上も短縮されました。特に、当院は「診療報酬の算定状況」や「身体的拘束の状況」のデータを電子カルテに紐づけてデータ化しているため、自動収集が可能な項目の割合は「診療報酬の算定状況」は84.8%、「身体的拘束の状況」は100%でした。
自動集計の対象とならない項目は医療情報担当者や褥瘡・感染・医療安全の各担当者、病院経営報告からデータを収集し、看護部のDiNQL担当者が収集したデータをDiNQL ITシステムに登録しています。褥瘡、感染対策、転倒転落に関する項目は、それぞれの担当者が手作業で電子カルテから必要なデータを探して収集する必要があるため、多くの項目は自動収集が困難な現状です。その中で、自動収集が可能な項目は、褥瘡ケアや感染対策、医療安全の「研修への年間延べ参加者の割合」を尋ねる項目の「昨年度の在職看護職員数」と、「感染対策の取組み」にある「人工呼吸器関連の肺炎(VAP)発生率」の「1ヶ月間の呼吸器総使用日数」の計2項目でした。

神戸市立医療センター西市民病院_図3_自動集計が可能な項目数(見本)

図3:自動集計が可能な項目数(見本)

当院において、データ収集の省力化が可能となった理由は以下3つが考えられます。

  1. 電子カルテのシステム更新時に、データの二次利用を見越し、電子カルテ内のデータを参照できる環境にしておいたこと。
  2. 電子カルテの「ケア項目」を医事会計システムと紐づけたことで、診療報酬の算定に関わるデータが自動集計し易かったこと。
  3. 医療情報担当者と看護部で対話を重ね、DiNQLの目的や参加理由・意義の説明、実際にどのようなデータが必要か、どこから収集するかなどについてお互いの理解を共有できたこと。

今後に向けて

2024年5月から、電子カルテに入院関連の書類作成の新しいデータベースが導入されました。今後、自動収集できる項目が新たに増える予定です。現在は、各担当者が自動で収集したデータを手作業でエクセルテンプレートに転記していますが、今後はRPA(Robotic Process Automation)を活用して、自動で転記できるよう計画しています。このRPAが実現すれば、さらにデータ収集の負担が軽減され、さらなる時間の短縮が期待できます。データ収集を自動化し、得られた時間で自院を現状分析、各部署に結果を還元、看護の質向上に向けて行動変容に結び付けることが参加2年目への課題と考えています。

 

(2025年2月5日掲載)