協会ニュース2025年4月号

令和7年度 通常総会 
いのち・暮らし・尊厳を まもり支える看護の実現に向けて

日本看護協会 会長 高橋 弘枝

はじめに

「看護の将来ビジョン」公表から10年、私たちは今、同ビジョンが見据えた2025年を迎えています。この10年で私たちの暮らしも看護を取り巻く状況も大きく変化しました。病院から地域へと療養の場は多様化し、自宅だけで
なく施設なども含めその選択肢は広がっています。また、ICTなどデジタルツールは日常生活に浸透し、医療へも積極的な導入が図られるようになりました。そのような変化の中において、看護職は、医療と人々の暮らしをつなぎ、尊厳ある療養を支える存在としてあらゆる場で力を尽くしてきました。
折しも、昨年の出生数は過去最少を更新し、予測を上回る速さで少子化は進んでいます。今後、現役世代の激減とさらなる高齢化(85歳以上の高齢者の増加)が大きな社会課題となる2040年に向け、増え続ける医療・介護ニーズに看護が応えていくためには、本会は、看護職一人ひとりのキャリアと研さんを支え、看護の質向上を図るとともに、その力を十分に発揮できる働きやすい環境づくりをより一層推進していく必要があります。そこで本会は、2040年を見据えた中長期的な視点から、それら取り組みの目指す方向性を示す新たなビジョンを、6月の総会で公表する予定です。
また、長引く物価高騰は、医療機関や介護施設、訪問看護事業所などの経営に深刻な影響を及ぼしています。世の中の賃金引上げの流れの中で、医療・介護・福祉の分野は後れを取っており、他業種への人材流出も懸念される状況です。
依然混沌とする社会経済の情勢は、物価上昇期にも対応可能な新たな報酬改定のルールの策定など、危機的な状況を打開する抜本的な政策を必要としています。良質な医療や介護などの提供には、専門職一人ひとりがやりがいと誇りを持って、その力を十分に発揮できることが必要です。職責に見合った賃金の確保はその大前提となります。国に対しては、本会独自の要望はもとより、関係団体と連携して声を上げ、大きなうねりをつくり、看護職をはじめとする医療・介護従事者などの処遇改善、特に訪問看護事業所などの看護職に対する介護報酬での処遇改善の実現にも、引き続き強く求めてまいります。

重点政策・重点事業

6月に新ビジョンの公表を控えていることから、今年度は、これまでの重点政策を1年間、継続延長して取り組みます(3面に関連記事)。同時に、重点課題や基盤強化事業についても取り組みの継続を図ってまいります。6月以降は新ビジョンの内容を踏まえて各事業を進め、併せて次年度以降の3年間で取り組む重点政策の検討を行います。国では、新たな地域医療構想の下、全ての地域・世代の患者が、適切に医療・介護を受けながら生活し、同時に医療従事者も持続可能な働き方ができる医療提供体制の構築を目指しています。本会も今年度は、昨年度策定した「2040年を見据えた看護提供体制のあり方」に基づき、看護サービスの提供場所ごとの「点」ではなく、「点」にある機能が連携し合い「面」となって地域の看護提供体制をつくっていくこと、それにより看護を必要とする全ての人々を支えていくことを目指し、その実現に向けた取り組みを進めてまいります。また、より多くの資格認定者に看護の現場で役割を発揮し、活躍し続けていただくことを目的に進めている資格認定3制度の中でも、教育課程について見直しを進めてきた認定看護管理者制度は、昨年度決定した新たな方針の下、今年度さらに具体的な内容の検討を進めます。そして本会に2カ所ある教育拠点(看護研修学校および神戸研修センター)は今後一元化し、効率的な運用と教育体制の構築を目指すこととなりました。引き続き、看護職の生涯学習の必要性の周知・普及に努め、その環境整備にも取り組んでまいります。
さらに今年度は、日本看護サミット2025との連携・協調のもと、ICN(国際看護師協会)WFF(ワークフォースフォーラム)を日本で開催いたします。日本看護サミット2025では、WFFとの連携・協調の下、国内外の多様
なリーダー達と、看護職の働き方改革に向けた政策的な議論をする予定です。国を越えて看護職同士が手を携え、一人ひとりが心身ともに充実して働ける働き方を共に考え、前進する契機としてまいりたいと思います。

おわりに

今年は‶昭和100年"、終戦から80年という節目の年です。分断や紛争による先行きの見えない世界情勢を思うとき、人間としての尊厳が保持され、その人らしさや健康を自由に追求できる平穏な日常は、当然のことではなく、目には見えない多くの努力の下で成り立っていることを感じます。
日本看護協会長に選出していただいて以降、職能団体としての本会の役割を果たすべく、日々精一杯取り組んでまいりました。このたび、会長としては最後の総会を迎えることになりますが、これまでの多くの出会いに、そして看護のためにまい進できたこの2年間に心より感謝を申し上げます。総会では新たな「看護の将来ビジョン」を公表予定です。新たなビジョンのもと、一人でも多くの方が、看護職になって良かったと実感できる毎日を送れることを何よりも願っています。大きく広がる看護への期待に応え、その役割を果たすため、人々のいのちと暮らし、尊厳をまもり支える看護の実現をこれからも共に目指してまいりましょう。

神戸研修センター閉所について

本紙12月号で、本会の教育拠点を一元化し、効率的に運用するため、神戸研修センターで実施している認定看護師教育課程(以下、CN課程)および認定看護管理者教育課程(以下、CNA課程)を2025年度で閉講(CNA課程は2026年度から看護研修学校で開講予定)するとお知らせしました。それに伴い、神戸研修センターも2026年3月末で閉所することとなりました。
本会は1997年、西日本の教育拠点設置の要望を受け、神戸研修センターを開設しました。以来、看護研修学校と共に「教育と研鑽に根ざした専門性による看護の質向上」を使命とし、研修を実施してきました。
一方、2019年以降、会員のニーズや教育環境の変化を踏まえ、生涯学習支援体制の再構築を進めてきました。2023年6月には「看護職の生涯学習ガイドライン」を公表し、生涯学習が看護職自身の主体的な取り組みであり、職能団体・看護管理者・教育機関・行政などが連携して支援する必要性を共有しました。
現在、神戸研修センター開設時と比べ、都道府県看護協会の研修実施体制は整備され、研修やCN課程、CNA課程の開講も充実しています。
また、研修方法のオンライン化も進み、コロナ禍も経て遠隔研修の環境も整備しました。このような経過を踏まえ、神戸研修センターは開設当時の目的を達成したと考え、2カ所の教育拠点を一元化し、効率的な体制の構築を目指すこととなります。
本会は今後も看護職の生涯学習を支援し、全国の看護職が学び続けられる環境整備に努めてまいります。神戸研修センターで学ばれた皆さまのさらなる活躍を願うとともに、神戸研修センターの運営にご支援、ご協力をいただきました方々に心より感謝申し上げます。