協会ニュース2025年11月号

令和8年度診療報酬改定の基本方針等に関する検討状況について

令和8年度診療報酬改定に向けて、社会保障審議会医療保険部会(以下、医療保険部会)で改定の基本方針について議論を重ねている。次期診療報酬改定は、2024年12月に公表された「新たな地域医療構想に関するとりまとめ」を踏まえ、物価高騰・賃金上昇や人口減少による支え手の不足といった課題を解決し、地域の医療提供体制を維持することを目的とした報酬体系への見直しが行われる見通しである。

令和8年度診療報酬改定の基本方針(案)について

第201回(2025年10月23日)医療保険部会において、以下四つの基本認識および基本的視点の案が示された。

医療従事者の処遇改善について

基本認識の案では、一つ目に「物価・賃金の上昇、人口構造の変化」、二つ目に「2040年頃を見据えた医療提供体制の構築」が位置付けられた。生産年齢人口が減少していく中で必要な人材を確保し、持続可能な働き方を確保した医療提供体制を構築するためには、医療分野の賃上げ、処遇改善が重要になる。物価高騰に伴うあらゆるコストの上昇が病院経営を著しく圧迫しており、他産業では賃上げが進む一方で医療分野は十分な賃上げができていない現状や、看護師学校養成所の定員充足率が低下傾向にある状況が検討会資料でも示されており、具体的方向性の例として「医療従事者の処遇改善」や「ICT、AI、IoT等の利活用やタスク・シフト/シェアによる業務効率化」などが記載されている。
看護職員の処遇改善の必要性は日本看護協会が強く訴え続けており、10月7日に令和7年度補正予算および令和8年度診療報酬改定に関する緊急要望書を提出し、実効的な処遇改善の実現に向けた医療機関などへの経営支援を要請した。2024年度の全産業労働者と看護師の給与を比較すると、20歳代では看護師の給与が全産業労働者を上回るものの、30歳代で逆転し、その後は格差が広がっていく。看護師の就業者数が最も多い40歳代後半では、夜勤手当などを含めても、全産業労働者と比べて9.5万円の差が生じており(図1)、この差は2023年度よりもさらに拡大している。
また、患者の療養生活を24時間支えるためには、夜勤者の確保が大きな課題となっている。夜勤者の確保に向けては、夜勤手当の増額や夜勤手当以外の手当の支給などの方策が効果的である一方で、病院勤務看護職員の1回あたりの夜勤手当額は10年以上ほとんど上がっていない(図2)。
このまま、看護職員の処遇改善が実現されなければ、他産業への人材流出を招き、地域の医療提供体制の維持が困難となることが懸念される。地域の医療提供体制をまもるためにも、職責に見合う処遇改善を着実に進め、看護が魅力ある職業であり続けることが必要である。
今後も引き続き、看護職員一人ひとりの処遇改善の実現を図るため、関係機関などとも連携した取り組みを進めていく。令和8年度診療報酬改定の基本方針は12月上旬に発表予定であるため、改定の方向性に注目していただきたい。

第24回核戦争防止国際医師会議世界大会in長崎
手島ICN第二副会長が世界の看護職を代表してメッセージを発信

10月4日、国際看護師協会(ICN)第二副会長、東京医療保健大学副学長・看護学研究科長 教授 手島恵氏が、長崎で開催された第24回核戦争防止国際医師会議(IPPNW)世界大会において、「核戦争防止における医療界の役割」をテーマとするセッションに登壇した。また、11月5日には、ICNと本会が連携したプレスリリースがICNより世界に向けて発出された。
プレスリリースでは、手島ICN第二副会長がIPPNW世界大会において、世界の看護職を代表して力強く発したメッセージとともに、秋山智弥会長による、原爆が広島と長崎にもたらした影響や看護職による救護活動についての共有、被爆国の看護協会長として、二度と核兵器の被害により人々の未来が奪われることがないよう、平和な世界を願うコメントが世界中に届けられた。また、手島ICN第二副会長が講演で発したメッセージが詳述されている。「健康と平和は切り離せない」として、世界各地で地政学的な緊張の高まりが続く中で「核兵器の全面禁止と廃絶」というICNの立場を明確に示した。ICNの#NursesforPeaceキャンペーンによる人道的取り組みを紹介し、本年6月にヘルシンキで開催されたICN会員協会代表者会議において、国際人道法の遵守を求める緊急決議が採択されたこと、さらにICNホセ・ルイス・コボス・セラーノ会長がグテーレス国連事務総長に対し紛争地域での保健医療への攻撃の即時停止などを要請したことも示された。
手島ICN第二副会長は、開催地の長崎において被爆者のケアに当たった看護職の栄誉を称えるとともに、看護教育とリーダーシップへの投資拡大を訴えた。そして政府に対し、危機を予防する政策形成のために、災害対策や平和政策の策定の場に看護師を参画させることを求めた。最後に世界中の看護職を代表し、核兵器のない世界を実現するために、誰もが責任ある行動を取ることを求め、講演を締めくくった。