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協会ニュース2024年5月号
令和6年度診療報酬改定
「ベースアップ評価料」が新設6月より算定可能に
全領域で新設されたベースアップ評価料
令和6年度診療報酬改定では、医療従事者の賃上げに向けて「ベースアップ評価料」が新設され、6月より算定可能となる。
令和4年度診療報酬改定で看護職員処遇改善評価料が新設されたが、これは救急医療などを行う一部の病院が算定できるものだったため、処遇改善の対象は、全就業看護職員の3分の1に限られていた。日本看護協会では地域医療を支えている病院、診療所、訪問看護ステーションなどを含む「全ての看護職員に対して賃上げが必要」であることを主張し、粘り強く省庁や国会議員などへの要望活動やメディアに対する説明などの働きかけを行ってきた。今回のベースアップ評価料の新設については、こうした政策提言活動が結実したものであり、この評価料をしっかりと活用し、一人でも多くの看護職員の賃上げにつなげていく必要がある。
ベースアップ評価料は、得られた収入を全て職員の賃上げに充てる必要があるが、具体的にどの職種の賃金をいくら上げるか、その分配方法は各医療機関で自由に決めることができる。そこで本稿では、看護職員の実際の賃上げについて、事例を用いながらポイントを紹介したい。
具体的な計算に基づく分配方法の検討を!
実際にいくら賃上げができるかは、職員の給与総額や患者・利用者数によって、各施設で異なり、厚生労働省が公表しているベースアップ評価料計算支援ツールをダウンロードし、自施設の数字を入力してみると具体的な額が分かる。計算ツールに必要な項目を入力すると、図1のようにベースアップ評価料算定により得られる収入合計額が自動計算で算出される。仮にモデル病院Aとして、下記の条件を入力すると、得られる収入額は月あたり302万円となる。
【モデル病院A】・310床・算定実績:初診料1,000回、再診料10,000回、訪問診療0回、延べ入院患者数:6,000人・対象職員341人(うち看護職員228人)給与総額15億9,090万円/年
入院ベースアップ評価料は点数が165区分に細分化されているため、病院の場合は対象職員の給与総額の約2.3%とほぼ等しい額が、ベースアップ評価料の収入合計として算出される。モデル病院Aの事例では、月当たり得られる302万円の収入額を対象職員の賃上げの原資総額として考えていく。
この原資総額の分配に際しては、さまざまな考え方が想定される(図2)。例1のように、どの職種・職員も一律2.3%の賃上げとする方法が考えられる。この場合、職種・職員間の給与差などに関わらず全員が同率に賃上げされるため、公平感が担保されやすい。ただし、引き上げ額の計算が煩雑になりやすいため、率ではなく、引き上げ金額を揃える方法も考えられる。この方が職員にとって分かりやすい可能性もある。
また、ベースアップ評価料の趣旨が人材確保であることを考えれば、特に確保ニーズが高い職種・職員に手厚く配分することもできる。今回改定で人材確保が特に課題視された看護補助者などを優先する考え方や、例2のように夜間の人員不足に対応するために、病棟夜勤を行う職員に手厚く配分する考え方もあるだろう。各医療機関の職員構成や強化したい機能もさまざまであり、自施設にとって効果的な人材確保につながるよう工夫することができる。
中には、看護職員処遇改善評価料による収入分を看護職員に充てているため、今回のベースアップ評価料で得た収入については、その他の職種への配分を多くする医療機関もあるようだが(例3)、看護管理者の方々には、二つの評価料は趣旨が異なり、併算定が可能であることをご理解いただき、看護職員や看護補助者の基本給が職責の重さや年代などを考慮した際に見合っているかどうか、他職種とも比較の上、よく検討し、データを基に経営層と協議いただきたい。
今回は病院の事例を紹介したが、入院医療を行わない無床診療所や訪問看護ステーションでも同様の計算支援ツールを用いることができる。外来と訪問看護のベースアップ評価料は一律での点数設定となっているため、得られる収入額が必ずしも職員給与総額の2.3%に近い値にはならない。特に訪問看護ステーションの場合は、医療保険の利用者割合に応じた額となるため、計算支援ツールを用いた試算が重要である。
そもそも、ベースアップ評価料の収入だけで、目標として掲げられている2.3%の賃上げができるわけではなく、賃上げ促進税制の活用など、さまざまに組み合わせることによって実現できるものと整理されている。よって、ベースアップ評価料で得た収入は全て賃上げに充てる必要があるが、結果的に2.3%の賃上げができない場合であってもペナルティなどが発生するわけではない。期待していた金額とは言い難いかもしれないが、確実に賃上げができるチャンスと捉え、ぜひ積極的にベースアップ評価料をご活用いただきたい。
やりがいにつながるような賃上げに向けて
社会全体を見渡せば、4月の春闘の結果では賃上げ率が33年ぶりに5%超えとなるなど、物価高騰と賃金上昇の動きが広がってきている。看護職員、看護補助者がやりがいを感じながら働けるような処遇改善につながるよう、看護界でも賃上げの取り組みを進めていくことが重要である。今回、ベースアップ評価料が新設された意義は大変大きいが、介護保険の利用者が多い訪問看護ステーションでは診療報酬側での対応による収入が限られることや、職員2.0人未満の医療機関はベースアップ評価料の算定対象外になっていることなど、課題はまだ残っている。全ての看護職員に賃上げの効果が行き渡るよう、本会では引き続き、介護保険における看護職員の処遇改善措置を含め、政策提言を続けていく。
看護補助者との協働について
最後に、看護補助者への研修について紹介する。看護職員と看護補助者は同じ看護チームの一員であり、チーム医療の中で互いに責任を果たし協働していくことが重要である。本会では、これまでに看護チームにおける業務のあり方に関するガイドラインや研修の整備などに取り組んできたが、今回改定で直接ケアを担う看護補助者に対する研修が追加されたことに伴い、6月から「看護補助者標準研修-看護補助体制充実加算該当パッケージ-」を都道府県看護協会および本会が提供する準備を進めている。
また、要件には、看護補助者の業務に必要な能力を段階的に示すことも追加されており、本会では秋ごろをめどに「看護補助者の業務に必要な能力の習得段階(仮称)」を公表し、考え方を示したいと考えている。ぜひ看護職員と看護補助者との一層の協働を進めていく上で、本会の研修などをご活用いただきたい。