協会ニュース2024年3月号

人材確保の推進や医療・介護・障害福祉の連携強化へ

2024年度 診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定

2024年度の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定では、ポスト2025を見据え、限りある人材で増大する医療・介護ニーズを支えていくため、医療・介護提供体制の最適化・効率化を図ることが重視されている。
日本看護協会は、これまで改定に関する議論の場に参画し、国への要望活動などを行ってきた。本特集では、本会の取り組みとともに、今回の各改定のポイントや看護に関する主な改定項目などを解説する。
なお、施行時期は、診療報酬は6月1日、介護報酬、障害福祉サービス等報酬は4月1日である。ただし、介護報酬のうち医療保険と関連するサービス(訪問看護、訪問リハビリテーション、居宅療養管理指導、通所リハビリテーション)は6月1日施行となる。

同時改定を振り返って―― 今改定の意義と期待
会長 高橋 弘枝

6年に一度の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬の同時改定は、昨今の物価高騰・賃金上昇などを踏まえるとともに、今後の人口動態の変化を見据えたサービス提供体制や人材確保の必要性を強く意識した改定となりました。特に、現役世代の人口が確実に減っていく中で医療・介護人材を確保する観点から、処遇改善を重視した改定率となっています。看護職員の処遇改善は日本看護協会として強く要望してきたものであり、今改定を受けて着実に取り組みが進むことを期待しています。一方で、報酬の引き上げは患者・利用者負担にも直接影響するものであるため、より一層、看護の機能や役割を広く国民に伝えていくことが重要になります。
また、今改定では増大する医療・介護の複合的なニーズに切れ目なく対応できる提供体制の構築が目指され、地域包括ケアシステムの深化・推進として、医療・介護・障害福祉の連携強化が重視されました。医療と生活の双方を看ることのできる看護職員が、入院から外来、在宅療養、ターミナルケアまで、地域包括ケアシステムの要として、質の高いケアを効率的・効果的に提供していくことが期待されています。ICTの活用推進も今改定の特徴の一つです。
本会は、現場の看護職員の皆さまから今改定の影響などを聞きながら、さらに安心・安全な医療・介護の提供体制の構築に資する政策提言を引き続き行ってまいります。

処遇の改善や地域での連携を図りさらなる専門性の発揮を
診療報酬(常任理事 木澤 晃代)

2024年度の診療報酬改定は、ポスト2025の医療提供体制を見据えたトリプル報酬改定として、非常に重要な改定であった。改定率は+0.88%だが、物価上昇を上回る構造的賃上げの実現に向け、処遇改善などに充てるよう財源の使途が決められていることが特徴である。全体のうち+0.61%が「看護職員、病院薬剤師その他の医療関係職種の処遇改善分」に、+0.28%程度が「40歳未満の勤務医、事務職員等の賃上げに関する措置」に充てられた。日本看護協会では、地域完結型医療・介護の実現に向けて、24項目からなる要望書を提出。中央社会保険医療協議会(中医協)においても看護の立場から発言を行ってきた。中でも看護職員、看護補助者の処遇改善についてはたびたび要請活動を実施してきた。今回改定で、全医療機関、訪問看護で幅広く処遇改善が実現したことは喜ばしく、各医療機関内で看護職員、看護補助者への分配が進むよう、看護管理者への周知と確実な算定への支援を進めていく。 
地域医療構想の実現に向けた機能分化・連携については、高齢救急患者が増加していることを受け、新たに地域で高齢救急患者を受け入れ、リハビリテーション、栄養管理、入退院支援、在宅復帰などの機能を包括的に担う「地域包括医療病棟入院料(10対1)」が新設された。また、看護補助者の確保および質の向上に向けた本会要望や中医協における議論を受けて、看護補助者の評価が拡充され、看護補助者の定着や直接ケアを担う補助者の配置などが評価された。今後、さらに看護職員の役割発揮が期待される外来療養指導に関しては、在宅療養指導料の対象に慢性心不全患者が追加されたことが重要なポイントである。
地域においては、同時改定の機会を活用し医療と介護の連携がさまざまな形で推進された。介護サービス利用者に対する適切な医療と介護の提供が求められる中、地域における看看連携や組織間連携をより一層強めたい。訪問看護においては専門性の高い看護師の活用がさらに推進され、24時間対応体制に係る看護業務の負担軽減の取り組みが評価されるなど、持続可能な訪問看護提供体制の構築、機能強化を推進する改定となった。これらは本会としても要望してきたことで、現場での活用・算定が進むよう取り組んでいきたい。

介護報酬(常任理事 田母神 裕美)

介護報酬改定については、改定率は+1.59%。改定内容は社会保障審議会介護給付費分科会で議論された。
2040年に向け、特に85歳以上人口の増加、単身高齢者の増加、認知症者の増加などの社会の姿を見据えて、各地域の状況に沿った地域包括ケアシステムの構築により、利用者・家族を支えることが不可欠である。医療と介護サービス、さらに障害・福祉などの多様な主体との連携は、今回の介護報酬改定においても看護小規模多機能型居宅介護(看多機)等の改定項目に反映されている。
また、慢性疾患や複数疾患を抱え医療のニーズと介護のニーズの両方を有する要介護者が増加する中で、私たち看護職員はどのような場で就業していても、地域連携の中で、利用者の選択と療養を支える必要がある。今回の改定では、本会の要望が反映され、訪問看護や看多機における専門性の高い看護師の訪問の評価や、ターミナルケア加算の引き上げ、介護施設における高齢者施設等感染対策向上加算の新設など、看護職員が専門性を発揮し適切にニーズに対応する取り組みを評価する改定内容となっている。
地域連携、看護職員の専門性の発揮によって、利用者に一層質の高い看護の提供に取り組もう。

障害福祉サービス等報酬(常任理事 中野 夕香里)

障害福祉サービス等報酬の改定は、社会保障審議会障害者部会・こども家庭審議会障害児支援部会の下に障害福祉サービス等報酬改定検討チームを設置し検討が進められた。本会は、検討チームによるヒアリングや部会への参画を通して意見を述べてきた。改定率は+1.12%(処遇改善加算の一本化の効果等を合わせると+1.5%超)。改正障害者総合支援法・精神保健福祉法、第7期障害福祉計画および第3期障害児支援計画作成の基本方針等を踏まえ、障害者が希望する地域生活の実現に向け、サービスの質の確保・向上を図る観点から報酬設定がされた。虐待防止、身体拘束等の適正化、医療的ケア児者への支援の強化等で本会要望にも沿う評価が進んだ。地域におけるインクルージョンの実現には医療の視点や医療との連携が不可欠であり、本会もこの分野での看護職員の一層の活躍を目指していきたい。