協会ニュース 2023年4月号

令和5年度通常総会
看護職とともに政策実現を専門職としての強みをさらに活かして

はじめに

新型コロナウイルス感染症が確認されて以降、私たち看護職を含む医療関係者がウイルスと闘ってきた期間は3年以上に及んでいます。現場は疲弊し、やりがいや使命感だけで乗り越えることが困難な状況にあります。そのような中においても、私たちは人々の健康な暮らしを確保するため、目の前の課題に1つ1つ取り組み乗り越えてきました。日本看護協会会長として、看護職を支援し、擁護し、代弁する職能団体としての役割の重さをあらためて感じています。そして、最前線で人々の治療、看護にあたっている看護職の皆さまに、心から深く敬意と感謝を申し上げます。

令和5(2023)年の5月8日より、新型コロナウイルス感染症は従来の2類相当から5類へと移行されます。類型が変わったとしても、地域のさまざまな場所で、私たち看護職と、このウイルスとの闘いは続きます。日本看護協会では、コロナ禍において顕在化した医療・看護提供体制に係るさまざまな課題の解決に取り組み、ポストコロナ時代の新しい生活様式における健康管理、疾病予防の重要性の高まり、社会の健康に関する価値観の変化に対応した看護の専門性の強化に取り組んでまいります。

この1年の大きな成果として看護職の処遇改善がありました。新型コロナウイルス感染症に対応する医療機関の看護職の賃金引上げを図るための措置が実施され、さらには、私たちがかねてより求めてきた国家公務員である看護職に適用される「医療職俸給表(三)」の級別標準職務表の見直しが実現しました。加えて、平成4(1992)年に制定された「看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針」が、日本看護協会の要望により、実に30年ぶりに改正されることとなり、これに向けた検討が開始されます。いずれも、看護の量・質両面から提供体制が確保され、看護職が適切な就業環境の中で、人々のいのち・暮らし・尊厳を守っていくために欠かせないものです。日本看護協会では引き続き、看護職がその力を発揮し、役割をしっかりと果たしていくことを支援する政策の推進に取り組みます。

重点政策・重点事業

令和5(2023)年度は重点政策の取り組みのスパンである3カ年の2年目として、基本的には昨年度の4つの重点政策(本紙3面)を踏襲するとともに、進捗状況の評価結果や社会状況の変化への対応を盛り込んだ重点事業に取り組みます。特に、急性期から在宅療養へのつなぎ目となる回復期・慢性期、さらには外来での療養支援等の看護機能の一層の強化を図るとともに、精神障害にも対応した地域での切れ目ない支援の検討に着手するなど、病院から暮らしの場に至るまで全世代を支える看護提供体制の整備に引き続き力を注いでまいります。また、人生100年時代を見据え、看護職の生涯にわたる自律的な学習活動を推進するために「生涯学習ガイドライン」の普及など、生涯学習支援体制の構築を推進します。あわせて、昨年度より新たに整理された「重点課題」や「基盤強化事業」についても継続して取り組み、目指す看護政策の実現を後押しする科学的な根拠(エビデンス)を明示できる体制の構築を進め、関係者の合意や施策の動き、タイミング等の時宜を逃さぬよう実現に向けて着実に歩を進めてまいります。

また令和5(2023)年度は、本会が2025年に向けて取り組んできた「看護の将来ビジョン」まで残すところあと2年という年になります。そのため、重点政策・重点事業と並行して、これまで積み上げてきた政策の総点検を行いつつ、その先を見据えた新ビジョンの準備にも着手します。人々が地域社会とつながりながら安心して生活ができる全世代型社会保障の構築を目指し、そのような社会の中で従来の価値観にとらわれず、柔軟な発想で看護職が活躍できるよう、看護のさらなる価値の発揮に向けて、私どもも力を尽くしていく所存です。看護職の将来と国民の未来を明るい光で照らすために、灯火となるような新ビジョンの策定に向けて、まずこの一年は2025年の「看護の将来ビジョン」の実現を目指して、丁寧に事業を推進していく年にしたいと考えています。

国際交流におけるリーダーシップの強化

グローバル化やボーダーレス化の進展は、国家間でのビジネスや人々の交流の活発化のみならず、社会規範や価値観の変化にも及んでおり、私たちが医療や看護のあり方を考える際にもこれらの変化への親和性を高めることが必要です。そのため、本会では、国際的な議論の場にこれまで以上に積極的に参画し発言・発信することを通じて、国際的な課題、各国における看護に係る政策動向をタイムリーに把握し、国内での議論に供す体制を強化してまいりました。

目下、世界的には、高齢化への対応とUHC(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ)の実現が優先度の高い課題となっており、わが国はこのいずれにおいても、他国に先んじた経験値を有す課題先進国であると評価されています。これらに不可欠なインフラストラクチャーである保健医療を担う看護の職能団体として、さまざまなレベルにおける国際的な議論に積極的に参加すべきであると考えており、世界のさまざまな場所で災害、争いが続いている現在、UHCの実現・充実のために欠かせない看護の国際的な連帯に、先進国としてリーダーシップを発揮していきます。

おわりに

平成29(2017)年6月に日本看護協会会長に選出していただいてから、早いもので6回目の通常総会、最後を迎えることとなりました。後半の3年間は新型コロナウイルス感染症に翻弄される日々でしたが、未知なるウイルスと対峙する看護の実践の場、新たな看護職を育成する教育の場、さまざまな現場の支援に奔走する中で、あらためて職能団体としての本会のraison d'être(存在理由)を実感することが何度もありました。現場では、個人では、解決できないことを代弁し、提案し、解決していく。それが私たちの仕事です。しかし、そのためには、盤石な組織基盤と政治との連携が不可欠です。これからはこの点をもっと強く、一人でも多くの看護職に伝えていかねばならないと考えています。

ポストコロナの時代、社会状況は大きく変わるでしょう。それでも、人々の健康と暮らしを支える看護の本質や役割は変わりません。健康に対するニーズは高まると言われ、これから私たちがすべきことは、高まるニーズ、多様化するニーズに対して、看護がその役割をより一層果たしていくためにどうすべきかを主体的に考えることだと思っています。看護の力で健康な社会を創造し、皆さまのその手で、その目で、国民のいのちをまもりましょう。

人々に最も近い医療専門職としてリーダーシップを発揮できる、より強い専門職集団を目指しましょ

本紙(4月号)の送付部数

本紙(4月号)は、各会員所属施設の前年度の会員数に基づいた部数をご送付いたします。

2023年「看護の日」イベント「かんごちゃんねる」

これから看護の道を目指す若い皆さんに、看護の魅力を伝えるトークイベントを開催します。「忘れられない看護エピソード」表彰式や、最優秀賞を基に制作したアニメーションを公開します。