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協会ニュース 2021年4月号
未曾有の危機を越え、さらなる看護の飛躍へ 〜いまこそのNursing Now〜
日本看護協会会長 福井 トシ子

昨年度は、世界が、日本が、社会をあげて新型コロナウイルス感染症と対峙した1年でした。最前線で尽力されている全ての看護職の皆さまに心より敬意を表します。
コロナ禍での経験は、医療・看護提供に係るさまざまな課題を浮き彫りにしました。私たちは、感染の収束に力を注ぐとともに、明らかとなった医療提供体制などの課題の解決にも取り組んでいかなければなりません。さらには、この機会を逃さず、看護の役割、価値を社会に示していくことが必要です。
これは、2018年より、世界各国で取り組まれている「Nursing Nowキャンペーン」の、人々に看護の存在価値を浸透させ、看護へのさらなる投資の拡大が重要であるという認識を高めるという目的に符合しています。SDGs(持続可能な開発目標)と紐づけた獲得目標を掲げて取り組んできた本キャンペーンは、看護界における「ニッポン宣言」という方針・方向性への合意・共有に結実しました。本キャンペーンで得たものを今後の取り組みに継承し、今後も国民の皆さまの健康と看護職の皆さまの一層の活躍に寄与してまいります。
重点政策・重点事業
本会の重点政策・事業は、2019年度より、3年の実施期間を見込んで目標をおき、年次ごとに進捗状況を評価し成果を目指しています。2021年度の重点政策は基本的には昨年度の重点政策を踏襲し、6つの政策を掲げて取り組んでまいります。「1.看護基礎教育制度改革の推進」「2.健康と療養のための地域包括ケアを支える看護提供体制の構築」「3.看護職の働き方改革の推進」「4.看護職の役割拡大の推進と人材育成」については、実施期間の最終年度として具体的な成果を目指します。2年目を迎える「5.看護職の資格活用基盤の強化」は、この仕組みを、より堅固で実効性のあるものに高めていく段階に移ります。加えて「6.地域における健康危機管理体制の強化」を新たな重点政策に位置付け、コロナ禍で明らかとなった看護に係る課題や、災害支援ナース活動の見直しについても力を注ぎます。
2040年を見据えた看護のあり方
2040年を見据えた看護のあり方について、2020年度は特別委員会を設置し検討を進めました。幅広い領域の専門家による多角的な議論が行われ、2040年に人々は看護に何を期待するのか、諸課題の解決に看護はどう能力を発揮するのかという点に照準を絞り、今から取り組むべき方向性を整理。その中で、「今こそ看護は、社会の変化への柔軟な対応を意識しつつ、減少を続ける現役世代において、看護職の量と質を同時に確保していく体制づくりをより急ぐとともに、地域をはじめ看護が役割を果たせる場を拡げ、看護の価値に対する社会全体の理解度を高めることにも積極的に取り組むべき」との提言がありました。この提言を受け、現在の事業の加速化や重点化と、新規に着手すべき取り組みなどの検討へと段階を進めます。
看護職資格の活用基盤強化に向けて
本会ではかねてより、全ての看護職の実態の把握と継続的な研鑽システムの構築により、①継続的な資質向上の支援②キャリア構築の支援③就業の継続と復職の支援を強化し、総体としての看護の質の維持・向上と量的確保を図ることを目指しています。そのため、看護職の資格情報管理が極めて脆弱な現状を抜本的に見直すことを求めています。
国は社会保障に係る国家資格とマイナンバーとの連携を進めており、この一環で、潜在看護職を把握し、看護職の確保につなげる方向で法改正を予定しています。マイナンバーとの連携を図ることで都道府県ナースセンターが潜在看護職にアプローチし、継続的な研鑽や就業の支援を行う体制が強化できる方向性が示されたことは、一歩前進であると考えています。
本会では、これらの具体的なあり方の検討を行うとともに、厚生労働省の検討に積極的に参画し、より良い仕組みづくりに向け精力的に働き掛けを行っています。
看護政策の実現に向けた取り組みの強化
看護政策の実現においては、合理的・客観的な根拠に基づくEBPM(Evidence Based Policy Making:政策の目的を合理的な根拠に基づいて定め、データ等によって政策の効果を客観的に測定する政策立案のプロセス)の考え方に立脚し、政策の必要性や効果について、国民に理解と納得をもたらす客観的な根拠の提供が必要です。また、利害関係者に対する調整においてもエビデンスの有用性は高く、目指す看護政策の実現には、提言理由や目的を正確に客観的にあらわすエビデンスが欠かせません。
「Nursing Nowニッポン宣言」にもあるように、エビデンス集積体制の構築は、政策の実現にとどまらず、看護界全体の課題の解決、ひいては人々の健康の向上にもつながります。コロナ禍は、看護・医療・介護従事者への関心を高めました。社会における看護に対する理解の浸透は、政治を動かす原動力にもなります。これまで以上に看護政策の実現を牽引できるよう、エビデンスを柱とした看護の力の集結を目指し取り組んでまいります。
おわりに
影響力のある発信には、全国の会員の皆さまとの連携が必要です。新型コロナウイルス感染症に係る情勢を注視しながら、今年度もさまざまな創意工夫を重ね全国各地の皆さまの声を聴き、地域特性を踏まえた現場の課題の把握とともに、政策に関する適時適切な働き掛けや発信ができるよう努めてまいります。国民の命を守る看護職が働きやすい環境でその力を存分に発揮できるよう、都道府県看護協会とのより一層の着実な連携を図ってまいりますので、引き続き皆さまのご協力をお願い申し上げます。