第10回「忘れられない看護エピソード」

    「看護の日」30周年を記念した受賞作品をドラマ化!

    最優秀賞は、齋藤泰臣さん(看護職部門)、新田剛志さん(一般部門)
    新たに設けた「Nursing Now 賞」は渡邉美香さん

    日本看護協会は2020年5月12日(火曜日)に、第10回「忘れられない看護エピソード」の授賞作品を発表しました。
    2020年は、「看護の日・看護週間」事業のスタートから30周年、ナイチンゲール生誕200年、「忘れられない看護エピソード」も第10回という節目を迎えました。これらを記念し「Nursing Now賞」を新たに設け、受賞作品を基にした特別連続ドラマの制作・放送が決定しました。

    2,702通の応募の中から、特別審査員の内館牧子さん(脚本家)やゲスト審査員の荻野目洋子さん(歌手、女優)らにより選ばれた21作品をご紹介します。

    講評

    内館牧子さん(特別審査員)

    新型コロナウイルスの感染拡大で、今、世界中の医療現場が「戦時」である。各国の医師、看護師をはじめ、医療従事者がどれほど捨て身で立ち向かっているか。それを世界中の人が認識し、感謝している。
    その一方、今回の「看護エピソード」でよくわかる。「平時」にあっても看護の力がどれほど人を救うか。どの文章もその認識と感謝にあふれている。誰しも思うだろう。「彼ら彼女らに、より一層の待遇で報いてほしい」と。

    荻野目洋子さん(ゲスト審査員)

    それぞれの受賞作に心打たれました。患者さんやそのご家族の人生に優しく力強く寄り添ってくれる看護師さんの一言は、どれだけ心の支えになるでしょう。初めての出産時、明るい笑顔で常に支えてくれたこと、今も忘れられません。
    思春期に差し掛かった娘たちの悩みに向き合う今、「あの時もらった笑顔で私も励ましていこう!」って思います。「笑顔の輪」を繋げていきたいと思います。

    Nursing Now 部門

    ナイチンゲールの生誕200年である2020年末まで、看護職が持つ可能性を最大限に発揮し、人々の健康向上に寄与するために行動するNursing Nowキャンペーンが世界的に行われています。今回、これにちなんで設けられたNursing Now 部門では、看護の力で人々の健康に貢献したことを実感した看護実践・経験を募集しました。
    Nursing Now 賞の受賞作品は、看護師長である作者が、看護の質向上の観点からスタッフと患者との関わりを綴っています。患者へのケアや支援だけでなく、スタッフの育成や病棟管理などの視点を持ち、多面的な成果を記した点が評価されました。患者を尊重した看護の実践が、スタッフや組織の成果にもつながった、同賞にふさわしい作品です。

    受賞作品

    作品名をクリックするとPDFファイルでご覧になれます。

    部門 作品名 受賞者
    最優秀賞 看護職 その声は 齋藤泰臣さん 佐賀県
    一般 今も元気に出してます 新田剛志さん 大阪府
    内館牧子賞 看護職 ハル子ちゃんのおにぎり 久保百香さん 埼玉県
    一般 看護師として 池田幸生さん 東京都
    優秀賞 看護職 つなぐ命 野澤美枝子さん 栃木県
    看護職 「いっ、て」 成田裕子さん 東京都
    看護職 白い看護師 黒い看護師 大野裕子さん 愛媛県
    一般 看護師の”気付き” 稲村歩美さん 千葉県
    一般 仕事という名の愛に感謝 西田恵子さん 大阪府
    一般 2年越しの思い 坂井祐子さん 佐賀県
    入選 看護職 次いつ来るの? 小泉美香さん 新潟県
    看護職 母と子の時間 辻川尚子さん 岐阜県
    看護職 爪切り 土屋操さん 長野県
    看護職 奇跡が起こるかもしれない 一井美哉子さん 愛媛県
    看護職 絆創膏 中島由美子さん 新潟県
    一般 魔法の言葉「かんごしききます」 中野淳子さん 山口県
    一般 やさしさ 悦喜未奈子さん 広島県
    一般 救ってくれ ありがとう 高橋久さん 栃木県
    一般 心を健康にしてくれた看護学生さんへ 庄田恵理さん 茨城県
    一般 おめでとうの本当の意味 齋藤絵美さん 福島県
    Nursing Now賞 セルフケア看護の実践によるハピネス 渡邉美香さん 東京都

    「Nursing Now賞」受賞作品の解説

    Nursing Now 賞の受賞作品「セルフケア看護の実践によるハピネス」は、病棟の看護師長である作者の目を通して、慢性疾患の患者と看護師との関わりが、患者のみならず、ほかのスタッフや組織にも良い影響を与えていった様子を描いた作品です。

    地域包括ケアシステムが進み、在宅での療養が重視される中、作者が勤める急性期病院でも、入院中から退院後の生活を意識した看護を進めていました。患者にとって入院は、退院後の地域での生活を考える機会でもあり、看護師は、退院後の生活を見据えて最大限、患者の持っている力を引き出すことが大切です。

    作者は、心不全で緊急入院を繰り返していた患者Aさんに対し、効果的に行動変容を促し、セルフケアを支援することが大事であると考え、SCAQ(Self-Care-Agency-Questionnaire)という評価指標を使うことを担当の看護師Mさんにすすめました。SACQは、患者がふだんの生活や療養上、気を付けている点などについての質問に回答し、各項目をレーダーチャート化して評価します。患者の強みを引き出すことに着目したツールです。

    Aさんが患う心不全は、急性憎悪で入院して状態が悪化すると、入院期間が1カ月に及ぶこともあります。しかし、体調に異変を感じた時点で、できるだけ早く受診してもらうと、1週間ほどで退院できることも多くあります。SACQを使うことで、患者は自らの状態を知り、病気を抱えながら生活していく上でのヒントが得られます。入院時から看護師が一緒に評価を見ていくことで、退院後の生活を一緒に考え、患者の強みを強化し気付きを促すこともできます。

    Aさんも、SCAQを使う中で自らが重症化してから入院していたことに気付き、軽症のうちに対処して、入院期間が短縮化されるという成果が出ました。さらに、Aさんの自己管理の様子が分かったことで、Aさんに対する看護の在り方も変わりました。作者は、スタッフとともにAさんの努力を再評価し、病気が悪化しないための関わりから見えたことをスタッフに問い掛けました。慢性疾患を持つ患者に「指導」するのではなく、一緒に考えるプロセスを大切にしていったのです。

    こうした中で、M看護師にも変化が生まれました。日々の業務を効率的にこなすのではなく、多面的に患者を捉え、患者自身が生活や病状をうまく語れるような場をどのようにつくるかを考えるようになったのです。M看護師は、看護の力や自らの影響力に気付き、それを部署のスタッフに伝えたいと、カンファレンスを開くまでになりました。

    こうした変化には医師も驚き、院内での看護の関わりに対する評価も変わりました。作者も、医師の評価を看護師たちに伝え、作中で「ダイナミックな様相」と表現してM看護師の変化や成長をたたえています。作者は看護管理者として、M看護師が大きな経験を得たことや、スタッフからAさんに対するネガティブな言葉が消え、患者の尊厳を守る風土が生まれたことが何よりうれしかったといいます。

    作中では、慢性疾患で再入院する患者を単に自己管理が不十分だったと見るのではなく、ツールをうまく活用して状態を客観的に評価しました。本作品には、患者が自らの状態に気付き、看護師がそれを支えていくという真摯な看護の在り方を大切にしたい、という作者の思いが込められています。

    2015年、国連のサミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、本会が掲げた目標「住民の健康を支える看護モデルの確立」が示すように、今後、療養の中心が地域になっていくとき、看護職が率先して貢献することが求められています。本作品は、急性期病院を舞台としながらも、地域で生活する患者への視点がしっかりと認識され、取り組んでいたことも大きな魅力でした。また、Nursing Nowの活動では、看護のエビデンス収集も目的の一つとなっています。このエピソードのよ うに、普段の看護実践の中で成果があったことについてプロセスやアウトカムを明らかにし、広く共有していくことが期待されます。

    第10回「忘れられないエピソード」集

    第10回「忘れられない看護エピソード」集

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