熊谷 靖代さん

熊谷 靖代さん  がん看護専門看護師 

所属施設

野村訪問看護ステーション

所属:野村訪問看護ステーション
住所:東京都三鷹市下連雀8丁目3番6号
看護師数:11名
訪問看護認定看護師1名 緩和ケア認定看護師1名 
皮膚・排泄ケア認定看護師1名 がん看護専門看護師1名

資格取得までの道

がん専門病院で勤務しているとき、アメリカでの研修機会があり、アメリカのCNSの働き方に魅力を感じたのが専門看護師を知ったきっかけである。その頃日本でも専門看護師制度が立ち上がり、夏休みを利用して不足単位の追加取得を行った。その後すぐに申請する予定だったが、第一子の妊娠で断念。子供が少し大きくなった時期に申請書類を整え認定審査を受験した。専門看護師教育課程の出身ではないため、友人や恩師に大変お世話になったが、あきらめるより育児と両立してもがん専門看護師として働けることを大きくなった子供に胸を張って伝えたいと思い、必死に頑張った。

活動紹介

訪問看護ステーションで働くがん看護専門看護師の活動の一番の醍醐味は、実践であると感じている。がんに関する専門的知識に基づいた生活指導とその人らしい暮らしを大事にした生活調整を組み合わせて提供することで、より柔軟な薬剤の使用や日常生活への工夫の提案が可能となる。近年の高齢化に伴い、認知機能が低下したがん患者が増加している。がん治療による副作用や症状へのセルフケア支援や、治療の選択など様々な不安に対して生活の具体的な状況を踏まえ、個別の対応を行っている。例えば、タルセバ内服中の高齢肺がん患者は妻と二人暮らしで、短期記憶障害がみられていた。外来通院時の対応はごく普通だが、後日診療内容を確認してもほとんど覚えておらず、スキンケアのための軟膏も「説明なく渡されたから使わない」の一点張りであった。妻も皮膚の状態で軟膏を使い分けることはできなかったため、時間をかけて信頼関係を築き、治療の状況と皮膚状態を評価し、簡素なケア方法としてメモに書き、見やすい場所に貼ることで対応していた。現在、蜂窩織炎による下肢リンパ漏のため、皮膚状態に応じて訪問回数を変更し、金銭的負担を考えながらケア方法を修正している。また、入浴時石鹸があまり減っていない状況から効果的な入浴ができていないと考え、ケアマネージャーと相談しヘルパーによる入浴を提案した。
また、ステーションでは看取りだけでなく外来や短期入院を繰り返しながら治療している期間から訪問看護を利用される方も増えている。このため、進行するがん患者・利用者の体調の変化を適切に評価し、苦痛や不安など利用者の抱える問題にいち早く気づき、尊厳を守りながらその人らしく最期まで人生を全うできるよう支援することが求められる。予後予測に関する指標などを活用した客観的情報に基づき繰り返しこの先考えられることを話し合うとともに、患者本人の意思とともに家族の意向を確認する。「このくらいの時期の患者・利用者であれば、次に訪問するまでの先の変化を含めこうしたサービスや説明が必要である」をいかに察知し支援を計画していくことが、終末期の自宅での生活を支えるためには欠かせない。意思決定の過程では、説明の理解を促すだけでなく揺れ動く心にどう寄り添うかが鍵となり、迷い困難に思うことも多いがやりがいも多い。咽頭がんの女性は息子と二人暮らしのため当初は「歩けなくなったら息子に迷惑をかけるから病院に行きたい。でも、医師が治療やめましょうと言わないからそれまでは緩和病棟の外来受診の申し込みなどはしたくない」と話されていた。徐々にADLが低下しトイレ歩行が困難になった時点で、本人と息子に自宅で過ごした場合と病院に入院した場合、両方の予想される生活と費用について、それぞれのメリット・デメリットを示して説明するとともに、この後どのように生活をしたいか繰り返し確認した。最後まで本人は「息子のそばにいてやりたい」、息子は「本人が望むなら家にいさせたい。家に一人でいる時、急変する危険はあるが仕方がないと考えようと思う」と話されたため、ケアマネージャーと相談し在宅での療養環境を調整し、その後自宅で永眠された。
教育としては訪問看護師を対象に、特に自宅で注意すべき外来化学療法を受ける際の注意点を使用する薬剤やレジメンの特徴から評価することや、症状マネジメントに関する最新情報を提供するようにしている。
例えば、オプジーボによる治療を受けている患者に対して病院経験の少ない看護師(以下、同僚看護師)と一緒に交互に訪問することになった際は、がん化学療法に不慣れなことを踏まえ、外来でのがん化学療法の流れを説明し、治療前に実施する採血の結果を毎回確認してもらった。その後がん化学療法のセルフケア指導を実施したいか希望を確認したところ、現段階では自分には難しいとの回答であったため、主に副作用確認と治療に関する指導は私が行い、今後必要な意思決定支援のために患者の生活や家族に対する思いの傾聴は同僚看護師が行うというように分担し、情報を共有することにした。化学療法における暴露対策は自施設が教育ステーションである特徴を生かし、主に集合教育の場で講義を計画したり、訪問看護師向け雑誌で曝露防止について取り上げてもらうなど対策の重要性を知ってもらう機会を設けている。

野村訪問看護ステーション スタッフ紹介
野村訪問看護ステーション スタッフ紹介

また、病院に勤務する看護師には、自宅で治療しながらがん患者が生活するというのはどういうことなのか考える機会を持ってほしいと考えている。高齢化や認知症の問題、独居など家族のサポート不足など地域の抱える特徴に基づいて行う患者や家族への指導とはどのようなものなのか研修を通して理解を深めてもらえるよう講師として役割を果たすよう心がけている。

所属施設上司から受けた支援

就職時、訪問看護ステーションに占めるがん患者の割合を把握した上で就職した。現在ほぼ半数の担当者ががん患者であり、難しい課題を持つ事例の担当になるよう調整してもらえていることや講師を依頼されることは、自身にとって大きな挑戦でありやりがいを感じている。また自身の希望する院外での活動や研究を「頑張りなさい」と応援してくれることも私にとっては非常に大きなサポートとなっている。

看護管理者からのメッセージ
家崎 芳恵さん  (野村訪問看護ステーション・三鷹市 連雀地域包括支援センター 所長)

以前は月一回、病院の認定看護師や専門看護師にコンサルテーションとして訪問看護ステーションにきてもらい相談していたが、タイムリーな相談ができないのがネックだった。ステーション内に認定看護師や専門看護師がいることで、相談したいときに時間をおかずに相談ができる。また、訪問看護師達は自分で迷いながら考えて導き出したケア方法を専門看護師に認めてもらえることで、これで良かったと背中を後押ししてもらえている。迷いの中にいる時に光を当て照らしてくれるイメージがある。
訪問看護の実践者はケアして満足してしまい、積み重ねを上手にできず、標準化や仕組みづくりが難しいため、研究の視点や実践に役立つと思えるような方法についての支援が欲しい。認定看護師や専門看護師には組織の質の底上げを期待している。そのため、地域や部署での勉強会などを依頼し実践してもらうようにしている。
今後、認定看護師や専門看護師に専門分野だけを担当してもらうことは考えていない。活動を地域に広げたり、病院との横断的活動を行うことも地域包括ケアを進めるため的には必要ではないかと考えている。

(2020年8月21日掲載)

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