日下 咲さん

日下 咲さん  がん看護専門看護師 

がんゲノム医療外来
がんゲノム医療外来

所属施設

兵庫県立がんセンター・看護部(外来配置)
病床数:377床
外来患者数:660人/日
看護師数:403名(専門看護師2名、認定看護師20名)

資格取得までの道

兵庫県立がんセンターで4年の臨床経験を経て、困難を抱える患者さんを支援する力を身につけたいと考え、がん看護専門看護師を目指して兵庫県立大学大学院に進学。大学院の講義の中で出会った「遺伝看護」に関心を持ち、サブスペシャリティのひとつとして取り組み始めた。修了後、同センターに復職。
2013年資格取得

活動紹介

現在、外来に所属しがんゲノム医療 ※外来や遺伝外来を担当している。以下、がんゲノム医療に関する活動を紹介する。

2013年に遺伝外来の開設に携わり、チーム医療の実践のために遺伝性腫瘍委員会(院内委員会)を設置し事務局を担当するなど、遺伝性腫瘍の診療に携わってきたことがきっかけで、がんゲノム医療に携わることになった。当院は、都道府県がん診療連携拠点病院であり、2018年にがんゲノム医療連携病院、2019年にはがんゲノム医療拠点病院に指定された。2018年6月にがんゲノム医療外来が開設され、2020年2月までに約190件の外来受診、約120件のがん遺伝子パネル検査実施に関わった。日々の実践は、がんゲノム医療外来を訪れる患者の検査にまつわる意思決定の支援や、結果の理解や受け止めを確認し、結果にもとづく治療や療養の意思決定を支援することである。対象になる患者の多くは標準治療の終了後や終了見込みのため、体調に配慮し、病状の受け止めや今後の療養も含めた希望や考えを丁寧に聴きながら、検査説明の理解を支援しつつ、その人の価値観に合った意思決定ができるよう寄り添うことを大切にして関わっている。多くの患者は、治療につながる可能性が低くてもゼロではないなら検査をして希望をつなぎたいとの思いで検査を受けている。しかし、治療につながる結果が出ず落胆したり、治療は見つかっても遠方での臨床試験や治療薬の適応外使用などで体力的、精神的、経済的、社会的に余裕がなく葛藤することがある。患者の期待と現実にギャップがあり、課題のある医療であるため、多職種チームで患者を支援する必要があり、チームの一員として看護師も役割を発揮することが重要だと考えている。院外から紹介されてくる患者も増えており、事前に看護情報を把握し初診時の介入に役立てたり、受診後に継続看護が必要なことを情報提供するなど、紹介元との看護連携が必要であると考え、看護情報提供書を導入し取り組んでいる。
また、患者の身近にいてさまざまな質問や相談を受けるすべての看護師がある程度基本的な知識を持ち、気がかりなことを聴いて専門職につなぐなどの患者支援ができるように組織的に取り組む必要があると考え、ゲノム・遺伝看護委員会(看護部委員会)の企画案を作成し、上司と委員会設置について相談を重ねた。看護部の理解と協力を得て、2018年度に委員会が設置され、全病棟・外来・がん相談支援センターから1名ずつ委員が参加し活動を開始した。各部署で委員による伝達講義(がんゲノム医療と遺伝性腫瘍に関する内容)の実施、委員が遺伝外来・がんゲノム医療外来を見学、遺伝に関する問診票や運用の見直し、対応ガイドの作成、事例検討などを行った。委員会活動前後の委員や全看護師のアンケート結果などから、がんゲノム医療や遺伝性腫瘍診療についての理解や認識に変化が見られた。知識不足のため患者の気がかりなことを聴くにも不安があり、身近な医療に感じられなかったが、少しずつ理解が深まったことで不安が軽減し、患者支援ができそうだという前向きな反応が増えてきた。新たな知識は多少必要とされるが、特別な看護ではなく、気がかりなことを聴いたり、説明に対する理解や受け止めを確認して、意思決定の支援をしたりといった日々実践している看護が求められていることを伝え、興味・関心が保てるような教育活動を続けていきたい。

※がんゲノム医療とは、主にがんの組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べ、遺伝子変異を明らかにすることにより、その遺伝子変異に対して効果が期待できる薬がある場合に臨床試験などを含めてその薬の使用を検討する個別化医療である。

ゲノム・遺伝看護委員会のメンバー
ゲノム・遺伝看護委員会のメンバー

所属施設上司から受けた支援
復職後、遺伝外来の開設や院内委員会の設置、三交代勤務の中で遺伝外来担当の活動日を与えてもらうことなど、上司の理解や協力、後押しが欠かせなかったと考えている。また、看護部委員会を新たに設置することは容易ではないが、その必要性について理解を示し、賛同し、委員会活動を支援してくれた上司や委員会活動に積極的に参画してくれた委員にも大変感謝している。院外活動なども含め、CNS活動に対する理解と支援のおかげで活動できていることに感謝し、活動の成果を上げることで応えていきたい。

上司からのメッセージ
江角 美紀恵さん (兵庫県立がんセンター 副院長兼看護部長)

がん専門病院の価値が変化し、差別化戦略が必要となる中、がん拠点病院の看護師には期待されることも多い。安心で質の高いがん先進医療を推進するためにも、看護師の知識・技術の向上は不可欠であり、がん看護専門看護師としての役割は大きい。「看護師教育」「がんゲノム・遺伝医療推進チーム作り」「広報活動」と、やはり看護部が動いて大きな力になった。具体には、ゲノム・遺伝看護委員会を立ち上げ、各セクションにおいて先進医療が理解でき周知できるラダーⅢ以上のスタッフを人選し、専門看護師にリードしてもらっている。病院が新たな課題に向かって動き出す上で、専門看護師は有効活用されることとなり、ゲノム・遺伝の分野では多職種からも信頼され、彼女が欠かせない存在となっている。院外でも効果的な広報活動を行い、頼もしい限りである。今後も、ジェネラシストナースと共に歩み、更に看護部全体に波及する活躍を期待している。

(2020年3月31日掲載)

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