河野 佐代子さん

河野 佐代子さん  精神看護専門看護師 

活動風景
活動風景

所属施設

慶應義塾大学病院 看護部(医療連携推進部)
東京都新宿区信濃町35
許可病床数 960床※2018年度11月現在
看護師数:1,015名〔専門看護師6分野10名・認定看護師15分野33名〕
※2018年度9月現在

資格取得までの道

現在の所属施設に就職後、休職制度を利用し大学院へ進学。
大学院を修了後、復職。
2009年資格取得

活動事例の紹介

私が所属施設の中で担っている役割のうち、代表的な2つの役割について紹介します。

1.精神科リエゾンチームの看護師としての役割
精神科リエゾンチーム(以下チーム)の主な活動目的は、身体疾患で入院している患者に精神的な治療とケアを提供することです。チームが活動を開始した2013年当初、病棟主治医や病棟看護師からの依頼の半数以上がせん妄を発症した患者への対応でした。せん妄を例にチームの活動と活動に伴う精神看護専門看護師の役割について説明します。

せん妄が発症すると、患者は混乱し、安全に治療が受けられなくなります。せん妄が長期化すると生命予後が悪くなります。近年、せん妄は、予防対策が有効であることがわかってきました。そこで、チームは、せん妄の予防対策が必要であると考えました。現在、チームでは、看護部・医療連携推進部・薬剤部と連携し、入院前からせん妄の予防対策をおこなっています。

医療連携推進部の看護師は、入院の予約をした患者に対し、看護上必要な情報を収集しています。この際、せん妄のハイリスク患者に該当するかどうか確認し、70歳以上の全患者に対しては、せん妄について説明します。せん妄のハイリスク患者が入院すると、病棟看護師は、入院初日から予防ケアを開始します。入院初日には、病棟看護師と薬剤師は、患者が普段内服している薬剤の中にせん妄のリスクとなる薬剤はないかを確認します。病棟主治医は、必要に応じて薬剤の調整を行います。

上記のように予防対策をおこなっていますが、それでもせん妄が発症するときがあります。その際、病棟主治医や病棟看護師からチームに依頼があります。チームの医師は、薬剤を調整します。精神看護専門看護師は、病棟看護師に対し、せん妄を発症した患者への接し方についてアドバイスをします。患者の混乱が著しいなど病棟看護師が患者への対応が困難なときは、精神看護専門看護師が直接、患者に対応します。

せん妄の予防対策をおこなった結果、現在では、せん妄を発症した患者への対応の依頼は減少してきています。精神看護専門看護師は、個別に患者に対応するだけでなく、チームの活動を通して、組織的な取り組みにおいてリーダーシップをとって活動しています。

2.看護師のメンタルヘルスのサポート
看護師の仕事は、薬剤の投与や処置など、患者の心身に直接的に影響を与える仕事が多く、緊張を伴います。看護師は、ストレスを抱えることが少なくありません。看護師が精神的に安定して仕事ができることは、看護師にとって重要であるだけでなく、患者のケアに影響を及ぼすという意味でも重要です。したがって、私は、看護師のメンタルヘルスのサポートの役割を担っています。

新人看護師のAさんを事例として、どのようにサポートしているかを説明します。ある日、Aさんから連絡が入り、私はAさんと面接をしました。Aさんは、仕事が続けられそうにないと話します。私は、Aさんからこれまでの経緯について聴きました。入職して1か月経ったころ、薬剤の投与や処置をひとりで任されるようになりました。Aさんは、自分がおこなっている薬剤の投与や処置が、本当に適切なのかと不安になり、帰宅後も緊張がとれません。そして、夜も眠れなくなってきました。入職して3か月後、先輩から処置のやり方について注意され、その後仕事に行けなくなりました。

面接をする中で、Aさんは、普段から先輩に相談できていないことがわかりました。緊張して先輩に声がかけられないと言います。私は、Aさんにリラクセーション法を教え、緊張を緩和できるようにしました。面接を重ねながら、先輩に相談することが大切であることを伝え、先輩に相談してみるようにアドバイスをしました。次に、Aさんの了承を得た上で、部署の管理者にAさんの状態を伝え、Aさんが相談しやすい環境を作ってもらうように依頼しました。その後、Aさんは、緊張が緩和し、睡眠がとれるようになりました。先輩に相談できるようになり、安心して仕事が続けられるようになりました。

精神看護専門看護師は、看護師本人を直接サポートするだけでなく、看護師が所属している部署から間接的にも看護師をサポートします。間接的なサポートは、今後の看護師のメンタルヘルスのサポートにも良い影響を与えることができると考えます。

所属施設の管理者から受けたサポートの事例

精神科リエゾンチームの仲間
精神科リエゾンチームの仲間

就職して5年経ったころ、私は大学院に進学したいと考えました。当院には休職制度があるため、2年間の休職を認めてもらいました。
大学院修了後に復職し、内科外来、外科外来、救急外来、精神神経科病棟に配属となりました。当時、私はまだ精神看護専門看護師の資格はありませんでしたが、当時の管理者は、私が複数部署で精神看護専門看護師に準じた役割を担えるようにサポートをしてくれました。私は、この役割を担ったことにより、精神看護専門看護師に求められている役割を理解することができました。当時の経験は、精神看護専門看護師として役割発揮に活かされています。

看護管理者からのメッセージ
片岡 美樹さん(慶應義塾大学病院 医療連携推進部課長 看護専門領域担当師長)

当院では日本看護協会認定の専門看護師・認定看護師を中心に、組織横断的な活動を行う看護師を「看護専門領域看護師」と呼んでいます。専門性を発揮できる場所に所属しているため、月に1回の定例会の中でお互いが組織の患者ニーズに応えるためどのような活動ができるかを話し合う場を設けています。当院に入院する患者は、複雑な病態であることも多く、看護師は社会背景や家族関係を含めた多面的なアセスメントを行い、専門職として果たせる役割を多職種と共に検討をする力が求められます。
河野さんをはじめ専門看護師達は、部署や職種に関わらず様々な場面でアドバイスを行い、また実践活動をモデルとなり示すことで、現場スタッフは患者のニーズに見合った対応を学び実践力を高めています。当院では欠かせない存在となっていますが、今後ニーズの高まる領域として、後継者育成を視野にいれながら益々活躍してくださることを期待しています。

(2019年3月18日掲載)

前へ戻る