児玉 久仁子さん

児玉 久仁子さん  家族支援専門看護師 

家族ダイナミックスの解説
家族ダイナミックスの解説

所属施設

東京慈恵会医科大学附属病院(本院)看護部・看護部長室
東京都港区西新橋3-19-18
東京慈恵会医科大学は、附属4病院(本院、葛飾医療センター、第三病院、柏病院)と慈恵医大晴海トリトンクリニックが、首都圏エリアにて相互に連携を行なっている。
1日の外来患者数:約3,000名、病床数:1075 床
看護師数:約1000名、認定看護師と専門看護師は25分野45名
*本院のみ h20年11月時点

資格取得までの道

大学を卒業後、東京慈恵会医科大学附属病院の外科病棟に就職。先輩の認定看護師に憧れ専門職を志す。家庭の事情で地方転勤したため一旦退職。その後、民間の緩和ケア病棟で働く中で、家族ケアの奥深さに魅せられ、非常勤勤務しながら大学院に進学。大学院修了後、現在の勤務先に再就職。
2010年資格取得

活動紹介

家族支援分野では、病気の当事者である患者も家族の一員と考えています。家族(患者も含む:以下同様)を個人・サブシステム(夫婦など)・家族全体というように様々な角度から捉えます。さらに、①発達的側面:個人や家族のライフサイクルなど、②構造的側面:家族の役割や勢力関係など、③機能的側面:家族の関係性やコミュニケーションなどからアセスメントし、支援することで、家族のセルフケア能力を高めていきます。同時に、危機的な状況にある家族(家族危機)に対して、家族と医療チームが協同的に問題解決できるよう支援しています。

ロールプレイを取り入れた研修
ロールプレイを取り入れた研修

『危機的な状況にある家族の例』
・意見がバラバラで方向性が決まらない
・本人へ告知や病状説明をしないよう求める
・治療/ケアへの不信があり怒りを表出する
・本人が入院前の状態になるまで退院できないと訴える
・来院せず、日用品が不足したり洗濯物が溜まりっぱなし
・終末期の母親に当たる娘。娘を叱る父親
・衰弱した本人へ無理やり食べさせる

家族危機は、家族からのSOS信号です。しかし、家族内部の複雑なダイナミックスを伴うため、その信号に気がつくのは容易ではありません。しばしば、医療者は、受け入れが悪い・こだわりが強い・非協力的・患者が置き去りなど、家族にとっては不快なレッテルを貼ってしまいます。すると、よかれと思って実施した医療者の関わりが逆効果となり、家族から怒りを向けられしまうのです。また、悪循環に陥ってしまうと、お互いに抜け出すことが困難になり、家族だけでなく医療チームも疲弊していきます。

家族支援分野の持ち味は、臨床現場で陥りがちな悪循環に対応可能なことです。多様な家族への働きかけを前提としているため、人間関係を読み解きながら、家族・医療チームのニーズに沿う解決策を探り、援助のための戦略を立てることができます。現在は、看護部長室に所属し、組織横断的に活動しています。スタッフナースだけでなく、複雑な問題に直面することが多い看護管理者や他分野の認定看護師、専門看護師、医師やMSWなどのコメディカルからも様々な相談を受けています。

教育については、附属4病院の看護職に向けて広く実施しています。現代社会は、家族の多様化・縮小化が進んでおり、臨床現場の看護師には、短時間のうちに家族のニーズを見極め援助する能力が求められます。集合教育では、基礎から応用まで様々なレベルを想定したコースを設けています。

研究については、家族支援を深めたい方を対象に慈恵医大家族支援研究会を主催しています。学外からの参加者も多く、事例検討やロールプレイを通して、実践と理論をつなぐ役割を果たしています。専門看護師資格取得を目指す者や他領域の認定看護師、専門看護師も参加しており活発なディスカッションが行われています。ここで学んだ人が、事例研究を発表するケースも増えています。

所属施設の上司から受けた支援

資格取得当初は、スタッフナースとして内科病棟に配属となり、家族支援専門看護師としての活動を模索していました。複雑な症例への対応には時間を要し、コンサルテーションもスムーズではありませんでした。そんな時、上司は、数値で成果を示すことを要求せず、関わった事例の質を肯定的に評価してくれたのです。そして、家族カンファレンスなど、家族ケアの重要な局面では、受け持ち人数の調整をしてくれました。ある時、リーダーナースから受け持ち人数が少ないのは不公平という不満が出たことがありました。すると上司は「彼女の患者さんを、あなたが受け持ってもいいのよ」と患者の交換を提案したのです。リーダーナースは、しばらく考え「すみません。このままでいいです」と返答しました。その後、そのリーダーナースは、私に相談をしてくれるようになりました。このような上司の支援によって、ジェネラリストからスペシャリストへと飛躍できたように感じています。
現在でも、上司からは様々な支援を受けています。当施設は、認定看護師、専門看護師は、個別活動の他、類似領域のグループに分かれて活動しており、統括師長がマネジメントを行っています。直属の上司だけでなく、経験豊富な認定看護師、専門看護師から助言を受け、組織的な問題に対して認定看護師、専門看護師が協力して取り組めるような体制が取られています。

看護管理者からのメッセージ
小澤 かおりさん(東京慈恵会医科大学附属病院 看護部長)

病気と向き合うご家族(患者を含む)は、身体状況の変化によって認識の変化が生まれ、取り巻く社会関係も大きな変化をもたらします。時には、それが家族の力を結集する方向へ進まず、解決の糸口が見つからず苦しい思いがつのり、家族の絆が壊れそうになる事や、医療者が家族支援に困り果てるケースがあります。そうした時に、児玉さんが、天使のように舞い降りてきて、医療チームメンバーに加わることで、それぞれの思いを引き出し、持てる力を結集する方向で、家族あるいは医療者を支援してくれます。家族・医療者の総力が、より良い療養環境をつくり、社会復帰への足がかりになる事を様々なケースを通じて実感し、いつも心強く感じています。

(2019年1月16日掲載)

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