長谷川 美智子さん

長谷川 美智子さん  老人看護専門看護師 

所属施設

公益社団法人 京都民医連中央病院
病床数:411床(一般病床、回復期リハ病棟,緩和ケア病棟
     地域包括ケア病棟,外来透析)
在宅復帰率:94.2% 地域に43の関連事業所を有す
看護師数:388人 認定看護師12分野17名 専門看護師1名

資格取得までの道

大学を卒業後、所属施設に入職。内科病棟で5年間働き、急性期から終末期を迎える高齢者に関わり、高齢者が最期まで生きぬくことを支える看護を追求したいと考えるようになった。そのために、課題を研究していく力、先を見通す力を鍛えたいと考え、大学院に進学した。修学中から歴代の看護部長と話し合い、修了後は、看護部長付きの主任のポジションで、病棟ラウンドを行い、活動を開始した。2012年度に資格取得。

活動紹介

せん妄ケア・治療ポケットマニュアル(2つ折りの一面)
せん妄ケア・治療ポケットマニュアル(2つ折りの一面)

1.せん妄・認知症ケアの底上げ
活動開始当初、せん妄と認知症の知識不足により、せん妄やBPSD(行動・心理症状)の悪化を引き起こしている病棟があることに気づいた。スタッフもどう対応すればよいかと悩む状況であったが、病棟からの相談は無かった。そこで、病棟を訪問し、スタッフと一緒にケアに取り組んだ。その中で「大声を出さずに眠ってほしい」とBPSDを抑えこむ発想だったスタッフが「なぜだろう?苦痛は何か?」と言動を紐解き、具体的にケアを検討するようになっていった。その変化を受け、スタッフと悩みを共有し「高齢者その人にとってどうか?」と問い続ける事が自身の役割であると自覚した。そして、効果的な介入に向け、精神科リエゾンチームを開設し、多職種から相談に応じる体制を構築した(延べ相談件数900件/年)。また、せん妄スクリーニング、薬物療法のプロトコールの運用を開始した。多職種を対象にワークショップ形式の研修を行い、受講者にケアマニュアルを作成・配布し、その標準化を図っている。

2.最期を見据えたケアの継続-病院と地域のつながり
高齢者は老化をベースに、慢性疾患、悪性腫瘍など様々な影響を受け、死を迎える。当院の緊急受診のトップは誤嚥性肺炎であり、徐々に食べられなくなることも自然な経過といえ、過度な医療を回避する事も重要である。
ケースを紹介する。認知症が重度に進行し、肺炎で入退院を繰り返す高齢男性A氏と妻の支援を、在宅で支援する医療・福祉専門職者と約2年に渡り検討した。経口から栄養確保ができなくなった時には「Aさんにとってどうか?」という観点で話し合い、A氏が美味しいと感じているかどうか表情やしぐさといった反応を確認し、最期まで食べる支援が継続された。A氏と妻が希望する自宅で最期を迎えた後、デスカンファレンスを行い、病院・地域で継続してきたケアを振り返った。こういった事例の経験から、高齢者の苦痛を緩和するケアが提供される環境を整える事の大切さを学び、地域の医療・福祉専門福職者からの相談対応や、時には、在宅・施設への訪問を行っている。

3.高齢者の尊厳を守るー身体拘束解除の取り組み
「身体拘束解除」を重点課題として取り組み続けてきた。身体拘束に悩むスタッフと、転倒予防目的で行われていたカンファレンスをラウンド形式に変え、高齢者本人の視点から環境やケアを見直した。今年度の看護部目標の柱は「身体拘束ゼロ」となり、毎月、師長会で事例検討を行い、実数調査も開始した。身体拘束解除に向け、どのようなケアが必要か検討し、スタッフへの教育や医師との調整など、マネジメントについても活発な意見交換が行われ、身体拘束の減少という成果につながっている。

4.日常ケアを良くするための看護研究
研究活動の教育を担い、実践を事例にまとめてきた。スタッフのケアを良くしたい! という動機や、どうすればいい? という疑問をリサーチクエスチョンへと発展させ、スタッフが日常ケアの価値をどんどん発見できるような支援を目指している。自身の研究活動としては、排泄ケアや認知症のある高齢者の疼痛緩和となる関節拘縮予防・軽減のケアをテーマとすることを計画中である。

看護部長・GCNS・WOCCN
看護部長・GCNS・WOCCN

所属施設の上司から受けた支援

看護部長からは、組織のニーズと自身の役割を擦り合わせることを学んだ。臨床で起きる事を管理者と共有し、問題解決する経験が活動のチャンスとなった。感謝は尽きない。その分、高齢者の望む生活を尊重するための実践を積み重ね、その実現に向かって進みたい。

上司からのメッセージ
坂田 薫さん(京都民医連中央病院 看護部長)

長谷川看護師は当院初の専門看護師であり、病棟師長を経て、専従の立場で、精神科リエゾンチームでも活躍している。専門看護師として自律性が高く、質の高いケアの提供にコミットしその努力を惜しまない。医師・看護師・地域からの相談や調整は、レディネスに合わせた対応となっており信頼も厚い。今年度は長谷川看護師を中心に「身体拘束ゼロ」の取り組みを進めており、院長・事務長とともに行っている院内ラウンドでもケアの風景が変わったと評価を受けている。この6年取り組んでいる研究活動への支援では、1事例を深めるスタイルに変え、研究者が研究の楽しさと重要性を実感できる活動へと変化した。管理者として意識しているのは活躍できる場の提供である。今後もその活動に信頼を寄せ、顧客が満足する質の高いケアの提供を共に目指していきたい。

(2020年3月31日掲載)

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