協会ニュース 2022年10月号

次の感染症危機に備える政府が対応の具体策を決定

9月2日、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部(本部長:岸田文雄内閣総理大臣)は「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策」を決定した。看護協会はこれまで看護職員の応援派遣を行ってきたが、具体策ではこうした広域での医療人材派遣の仕組み創設も盛り込まれた。この決定を受けて、厚生労働省等の関係省庁では感染症法等の改正を検討しており、早ければ、現在開会中の臨時国会で改正法案が審議される。

新型コロナウイルスがまん延する中で感染症対応にはさまざまな課題があることが明らかとなった。当初は、急激な感染拡大に病床や看護職員等の人員確保が追い付かず、治療薬もなく、防護具なども大幅に不足する中で、現場の看護職員らの献身的な努力だけが頼りという状況となった。クラスターが発生した医療機関では医療従事者が出勤できなくなり、さまざまなルートで医療従事者の応援派遣が行われた。看護協会も看護職員の応援派遣をコーディネートするなど医療機関などでの看護職員の確保支援に尽力した。しかし統一的な仕組みはなかった。しかも、感染症対応のために一部の病棟閉鎖や外来休診で病床と人員を捻出した病院も多く、医業収入が減少し、ボーナスカットなどの憂き目に遭った看護職員も出た。他方、地域の健康危機管理の最前線である保健所では、感染者の入院調整、健康管理や積極的疫学調査等に当たる保健師が膨大な業務量に苦闘していた。

こうした状況に政府や地方自治体も病床、人員確保のための補助金の交付や特例的な診療報酬の設定、宿泊療養施設の開設など感染症医療確保のための手段を次々と講じていった。ワクチン接種や緊急事態宣言の発出など感染拡大防止のための措置も講じられた。こうした中で、新型コロナウイルス対応の教訓として、平時からの備えが重要であることが、あらためて確認された。

次の対応の具体策決定

9月2日に政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が決定した「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策」では、平時から備えておくべき内容が網羅的に示されている。その中には看護職員に関わるものも多い。

<予防計画>

第一は、感染症発生・まん延時における保健・医療提供体制の整備だ。平時からの備えとして、都道府県、保健所設置市は予防計画を策定し、その中で、医療、検査、宿泊施設等の確保の数値目標を定めることとされた。感染症に対応できる病床が足りない、病床があっても看護職員等が確保できない、防護具等の装備も機器も足りない、症状があっても検査が受けられない、在宅の療養者が重症化し、死亡するといった事態の発生を避けるべく、病床、発熱外来、自宅療養者等に対する医療の提供、後方支援、人材派遣、個人防護具の備蓄等について、あらかじめ数値目標を決めておくということだ。自宅療養者等に対する医療については、さらに具体的に、オンライン診療、往診・訪問看護、医薬品の提供などについて定めることが求められる。

<医療機関との協定>

そして、この予防計画に実効性を持たせるべく、医療機関には都道府県と協定を締結することが求められる。協定の内容は、感染症に対応できる病床の確保から後方支援や人材派遣などまで、各医療機関の機能を踏まえたものとなる。協定締結の対象が感染症患者に直接対応する医療機関だけではないことには留意が必要だ。公立・公的医療機関や特定機能病院、地域医療支援病院には、その機能を踏まえ、感染症発生・まん延時に担うべき医療の提供が義務付けられる。

感染症発生・まん延時の初動対応等を含む特別な協定を締結した医療機関に対しては、都道府県は、「流行初期医療確保措置」を講じる。これは、新型コロナウイルス感染症に対応した医療機関の収益が悪化したことを受けて新たに制度化されるもので、感染症流行初期に、その感染症に対する診療報酬の上乗せや補助金による支援が充実するまでの間、暫定的に、感染症発生・まん延時以前の診療報酬収入と同等の収入を保障しようとするものだ。

<医療人材の派遣>

広域での看護職員等の医療人材の派遣や患者の搬送等を円滑に進めるための国による調整の仕組み、都道府県知事が医療ひっ迫時に他の都道府県知事に医療人材の派遣の応援を求めることができる仕組み等も設けられる。また、都道府県知事の求めに応じて派遣される医療人材の養成・登録等の仕組みも整備され、派遣や活動がより円滑に行えるようになる。DMAT、DPATと並び、看護協会が行う看護職員の応援派遣も想定されている。保健所については、感染症発生・まん延時に、保健師等の専門家が保健所業務を支援する仕組み(IHEAT)が整備される。

この具体策の内容は、順次、法案化され、早ければ、現在開会中の臨時国会で審議される。新型コロナウイルス感染症の収束は見通せず、新たな感染症もいつ発生するか分からない。感染症危機に備えるための具体策の実現が急がれる。

「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策」の主な項目

  • 1.次の感染症危機に備えた感染症法等の改正
    • ①感染症発生・まん延時における保健・医療提供体制の整備等
      • 平時からの計画的な保健・医療提供体制の整備
      • 感染症発生・まん延時における確実な医療の提供
      • 自宅・宿泊療養者等への医療や支援の確保
      • 広域での医療人材派遣の仕組みの創設等
      • 地域における関係者間の連携強化と行政権限の見直し
      • 保健所の体制・機能の強化
      • 情報基盤の強化と医薬品等の研究開発促進
      • 感染症対策物資等の確保の強化
      • 国・都道府県等の費用負担
    • ②機動的なワクチン接種に関する体制の整備等
    • ③水際対策の実効性の確保
  • 2.新型インフルエンザ等対策特別措置法の効果的な実施
  • 3.次の感染症危機に対応する政府の司令塔機能の強化
  • 4.感染症対応能力を強化するための厚生労働省の組織の見直し