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協会ニュース 2022年4月号
「政策実現による看護のプレゼンス向上」日本看護協会会長 福井 トシ子
はじめに

2019年末に突如姿を現した新型コロナウイルス感染症は、2年を経た今も、変異しながら世界で感染拡大を繰り返しており、2月下旬にはロシアによるウクライナ軍事侵攻という事態が発生しました。危機的な状況において、医療・看護へのニーズはますます高まります。コロナ禍において、ウクライナ危機において、日本、そして世界の看護職は、自身もリスクに晒されながら、人々の看護にあたっています。日本看護協会会長として、看護職を支援し、擁護し、代弁する看護職能団体の役割の重さを、あらためて感じます。そして、最前線で働く看護職の皆さまに、あらためて心から敬意と感謝を申し上げます。
一方で日常における看護の役割も、確実に広がり、大きくなっています。大きく広がる看護への期待に応え、その役割を果たすため、看護の力を一層強化することが急がれます。日常においても、感染症のパンデミックにおいても、あってはならない争いの中においても、人々のいのちと暮らしをまもるプロフェッショナルとしての自律と力を、看護に実装してまいりましょう。
重点政策・重点事業
さらに少子高齢化が進展する2040年を迎えるころ、現在の公的制度下での縦割りや単一的な区切りによるサービスの提供では、複合的なニーズを抱えた人々は、制度の狭間にこぼれ落ちることが懸念されます。また支え手の減少など地域により状況が異なることから、全国一律ではない、さまざまな工夫が必要となると考えられます。本会でも2040年を視野に、目下取り組んでいる「看護の将来ビジョン」の実現に向けた検討を行った結果、「看護の価値の可視化」「地域における看護の拠点の創出」「専門職としての働き方の確立」の3点につながる事業を精力的に進めていくべきことが整理されました。2025年をゴールとする「看護の将来ビジョン」のその先へと向かう方向を示す標(しるべ)として共通認識するとともに、次年度以降の事業の計画へと反映させてまいります。
本会の「重点政策」は、3年の実施期間を見込んで達成すべき目標をおき、年次ごとに進捗状況を評価して進めています。2022年度からは、新たな3カ年を迎えます。また、最終年となる2024年は、「看護の将来ビジョン」の集大成の年とも重なるため、その最終評価と2025年以降の指針(新ビジョン)の策定を視野に取り組みを進めることとなります。
そのため新たな3カ年は、2040年に向けた議論も踏まえ、看護職の将来、国民の未来を安心で包み、リードできるような新ビジョンの策定に向けて、都道府県看護協会をはじめ地域で働く看護職の意見も十分に伺いながら、丁寧に検討を進める3年間にしたいと考えています。
そして本年度は、前3カ年の事業の成果や、2040年を見据えた検討の結果を踏まえ、次の3年間で実現すべきこととして、
- 1.全世代の健康を支える看護機能の強化
- 2.専門職としてのキャリア継続の支援
- 3.地域における健康と療養を支える看護職の裁量発揮
- 4.地域の健康危機管理体制の構築
の4点を重点政策として掲げました※1。
また、かねてより継続的に重点政策に掲げてきた政策のうち、「准看護師養成の停止」「看護師基礎教育の4年制化」「ナース・プラクティショナー(仮称)制度構築」は、看護の発展に極めて重要で、関係者間の合意を十分に得た上で法律改正を要するものであることから、「重点政策」とは別に「重点課題」として位置付け、引き続き強力に着実に取り組み、実現に向けて邁進します。
Nursing Nowキャンペーンからの継承
2021年6月に終了したNursing Nowキャンペーンは、その精神を受け継ぐ「Nursing Nowニッポン宣言」の実現へ、看護が一層力を発揮できるよう取り組みを続けています。宣言において「政策の意思決定への参画」とそのための「エビデンスの蓄積・構築」に取り組むことを、看護界として表明したことは重要です。科学的な根拠に基づく政策立案のプロセス(Evidence Based Policy Making:EBPM)の実現に向けて、わが国においても看護政策を推進するためのエビデンスの構築は、これから充実させるべき重要事項です。本会では2022年度は基盤強化事業として位置付け、その取り組みを一層推進してまいります。
また、同宣言にある国連の目標「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」への貢献にも、本会の事業と連動させる形で継続的に取り組みます。特に、看護への投資がその達成に貢献するとされる「3.すべての人に健康と福祉を」「5.ジェンダー平等を実現しよう」「8.働きがいも経済成長も」の3目標については、本会の2022年度の重点政策・重点事業とも目指すところは強く関連しています。
そこでSDGs達成への貢献に向けて「日本看護協会 SDGs宣言」を表明し、重点政策を3つの目標と紐付けて、その目標達成をより意識した事業推進を図ってまいります※2。
看護政策推進力の強化
看護にとって必要な政策を実現していくには、地域における看護政策推進力の強化、さらには、看護職および国民に向けた情報発信力の強化が必要です。地域の実状に鑑みて、地域のことは地域が決めるという地方分権の流れからも、本会ではこれまでも都道府県看護協会とともに、政策力強化に向けて研鑚を図ってまいりました。そのような経緯を踏まえつつ、今後はさらなる地域の政策力の強化へ、県協会のニーズに応じた支援にも取り組んでまいります。
また、政策力推進の強化を行う上で欠かせない看護職および国民への情報発信力の強化や、国際的なプレゼンスの向上に向け、国際交流事業の強化と、WHOおよびICNが進める看護の国際的連帯への参画にも一層取り組んでまいります。
おわりに
日本看護協会会長に選出していただいてから、早いもので5回目の通常総会を迎えます。会長としての締めくくりの1年は、現場の看護職がよりよく働き、看護職としてのキャリアを積み、飛躍していくことを支援する、将来に向けた礎を築く年としたいと強く願います。看護実践はもとより、看護管理、そして看護政策の推進において確実に行動し、実績を示すことで、評価され、社会からの信頼を得ること。その結果として、看護のプレゼンスは一段と向上していくと確信します。
会員の皆さま、全ての看護職の皆さま、都道府県看護協会の皆さま、そして、国民の皆さまとの一層の連携・協働の下、引き続き着実に取り組んでまいります。