看護職の労働環境の整備の推進

医療現場での暴力対策

暴力対策の重要性

暴力の発生状況

医療機関において患者さんやその家族などが職員に対して行う暴言・脅迫、暴力、セクシャルハラスメント(通称、セクハラ)などの院内暴力は、職員の心身に影響を与え、安全で質の高い医療や看護提供の妨げになっています。看護職や医師など病院の職員を対象としたこれまでの調査では、多くの職員が何らかの形で院内暴力の被害にあっていることが報告されています※1〜4

医療の現場で、患者さんからの暴力が起こる背景には様々な要因があります。元々悪意がなくても、待ち時間が長くなったことや職員の対応に対しての不満、また疾患への不安などが「怒り」として表出されることもあります。認知症や精神障害などの疾患により引き起こされる暴力の場合もあります。そのため、暴力を受けた本人も「病気だから仕方がない」など一過性のものとして報告しなかったり、「自分の対応が悪かったのではないか」と自分を責めたりするなど、職員個人の問題として見過ごしてしまうことも多いのではないでしょうか。また患者さんや家族からの過大な要求やクレームでも、サービスへの満足と関連していると捉え、「仕事の一部」として応じてしまうこともあると思います。医療従事者としてある程度、受け入れなければならない場合もありますが、不当な嫌がらせや暴力行為、セクハラを受けた場合は毅然とした対応が求められます。

院内暴力は、救急外来や精神科等の特定の場所で起こることが多いという認識が一般的でしたが、近年の患者の医療へのニーズや医療提供体制の変化に伴い、内科系を含む全ての診療科や健診施設、また介護関連施設などでも暴力の発生が増えてきているといわれています※5、6。また、訪問看護などでは看護職が1人で対応しなければなりませんので、暴力の危険性は高まります。対策が不十分では暴力が繰り返される可能性も高くなりますので、マニュアルを作成して日ごろから職員間で対策について確認しておくなど、組織的に暴力対策に取り組んでいくことが重要です。

院内暴力への対応

院内暴力で、一番多いのは暴言や脅迫などの精神的暴力ですが※7、8、殴る、蹴る、物を投げるなどの身体的な暴力の場合は、重篤な傷害に至る可能性もあります。また、セクハラや付きまとわれたり、待ち伏せされたりするなどのストーカ−被害なども報告されています※9。 暴力被害を拡大しないためにも、暴力のレベルと対応策を決めておき、職場で共有することが重要です。

院内暴力のレベルと対応策

【引用文献】

1、7. 日本看護協会:保健医療分野における職場の暴力に関する実態調査、2003.

2. 全日本病院協会:院内暴力など院内リスク管理体制に関する医療機関実態調査、2008.

3、9. 私大病院医療安全推進連絡協議会:都内私立大学病院本院の職員が患者・患者家族などから受ける院内暴力の実態、日本医療・病院管理学会誌、50(3)219−27、2013.

4、8. 森里美、堀畑佐知子、三木明子、他:患者からの看護職員に対する暴力の実態調査―種類別に暴力被害の影響を検討してー、第42回日本看護学会論文集 看護管理、2012.

5. 日本看護協会:保健医療福祉施設における暴力対策指針−看護者のために−、2006.

6. 兼児敏浩、石橋美紀、日比美由紀:患者ハラスメントの実態調査とその対策に関する研究、日本医療マネジメント学会雑誌、10(2):399-403、2009.

日本看護協会の取り組み

保健医療福祉施設における暴力は、十数年ほど前より世界的にも問題となってきました。国際看護師協会(ICN: International Council of Nurses)は、この状況を受けて、「職場における暴力対策ガイドライン( Guidelines on coping with violence in the workplace)」(1999年発行、2007年改訂)を発表し、日本看護協会ではその周知活動を行ってきました。

本会では「病院における夜間保安体制ならびに外来等夜間看護体制、関係職種の夜間対応体制に関する実態調査」(2001年)、「保健医療分野における職場の暴力に関する実態調査」(2003年)を実施し、その結果を受け、「保健医療福祉施設における暴力対策指針 − 看護者のために − 」(2006年発行)を作成しました。この指針は暴力に関する基本的知識、リスクマネジメント、対応策をまとめたものであり、組織の風土、保安体制、委員会や相談窓口の設置、マニュアル整備、教育など、取り組みの基礎となる「安全管理体制」や、看護を提供する環境、勤務時間などの「作業環境管理」、人員・業務手順等の「業務管理」、「健康管理」について解説しています。そのほか、リスクの把握、分析、対応、評価といったマネジメントプロセスに沿った対策がまとめられています。また、「保健医療福祉施設における暴力対策チェックリスト(指針30ページ)」を掲載していますので、職場での取り組みの際にご活用ください。

さらに本会では「看護者の倫理綱領」(2003年:1988年発行の「看護師の倫理規定」の改訂版)を発行し、看護者が複雑かつ困難な倫理的問題に直面したときに、適切な倫理的判断を行うよりどころとなるように職業倫理規定を示しています。その中の第12条は、「看護者は、より質の高い看護を行うために、看護者自身の心身の健康の保持増進に努める」としており、その解説文に「暴力からの保護」について明記しています。