DiNQLベンチマークを利用した褥瘡委員会の対応事例 (戸田中央総合病院)

病院概要

【所在地】埼玉県戸田市
【病床数】517床
【DiNQL参加開始年】2017年度
【参加病棟数】15病棟

参加した動機・きっかけ

安全で質の高い看護を提供するために、DiNQLデータを活用して看護の質評価を実施したいと考えたことが、当院がDiNQL事業に参加した動機でした。

運用・活用について

当院では、褥瘡委員会の病棟リンクナースにおいても、他の委員会同様、活動に関する目標管理を実施しています。
年度初めの委員会時にDiNQLデータをリンクナースと共有し、リンクナースは委員会活動に関する目標管理シートを作成します。
今までは褥瘡新規発生部位や発生率で現場の質の評価をしていました。しかし具体的な改善策立案や評価をするには、少し大きすぎる指標であると以前より考えていました。そこで、より現場の現状を可視化できる指標を提示し、データマネジメントの体験をしながら褥瘡ケアの質の向上と看護師としての育成を促したという狙いが背景にありました。
リンクナースはDiNQLデータを指標にして、目標設定、活動計画・評価のPDCAサイクルに取り組みます。

以下に、ある2つ病棟におけるDiNQLデータ活用の取り組みを紹介いたします。

A病棟の取り組み

A病棟は53床の内科病棟で、入院患者は高齢・著明なるい痩・自力で体位変換ができない患者が多い病棟です。
リンクナースはA病棟の中間管理職を担い、日本看護協会ラダーレベルがⅣのスタッフです。

図1:事例1(A病棟)の取り組み前のレーダーチャート(褥瘡)


A病棟のレーダーチャートでは、偏差値50未満の項目が7つ、未入力の項目が3つありました。 そこで、データを病棟に持ち帰り、それぞれの項目について、例えば本来100%であるべき体圧分散寝具使用割合や危険因子評価の実施割合が100%でないのは何故なのか、といったことを話し合いました。
病棟でのカンファレンスの結果、体圧分散寝具の充足率は100%であったが、るい痩が著明で自力で体位変換できない患者に必要なポジショニングクッションは充足できていない状況があること、またおむつを利用している失禁関連皮膚炎に影響された仙骨部の新規褥瘡発生が多いと分析しました。
そこで、リンクナースは「仙骨の褥瘡発生数が現状より減少する」を目標とし、対策として「高機能マットレスを使用中患者のおむつ交換頻度を、睡眠を優先した4時間毎から2時間毎に変更」「おむつ使用患者に対して、撥水効果のある保湿剤での予防ケアの実施の徹底」を立案し、活動を開始しました。
一旦仕組みが構築されると、撥水剤の徹底が習慣化されました。ただ、軌道に乗って、リンクナースの声がけするリーダーシップ力が弱まると習慣化が弱くなることを繰り返すため、数カ月ごとに実施状況の評価が必要でした。
A病棟では1年後、データ未入力の項目はなくなり、偏差値50未満の項目も4つに減少しました。
ケアの質の改善とともに、DiNQLのデータ入力に対する意識の向上の図れた結果となりました。

図2:事例1(A病棟)の取り組み後のレーダーチャート(褥瘡)

B病棟の取り組み

B病棟は49床の整形外科病棟で、高齢者も多く、手術を受ける患者が多い病棟です。
リンクナースは日本看護協会ラダーレベルがⅢのスタッフです。

図3:事例2(B病棟)の取り組み前のレーダーチャート(褥瘡)


B病棟のレーダーチャートでは、偏差値50未満の項目が8つありました。
病棟でのカンファレンスを踏まえ、リンクナースは、B病棟の褥瘡発生の要因として、危険因子評価表で発生リスクが挙げられない術後の踵の新規褥瘡発生が多い、勉強会への参加が少ない、下肢のポジショニングクッションでの除圧が十分に実施されていない、予防ケアに関する意識が弱いといった背景があることを分析しました。

そこで目標を「踵の褥瘡発生数が現状より減少する」とし、具体策として「病棟内での除圧ケア勉強会の実施」「毎月の新規褥瘡発生率や踵の発生数件数をナースステーションに表示」により、ケア方法の習得と意識の向上に取り組みました。一方、実施の為のポジショニングクッションの不足が明確になり、確保のために活動もしましたが、予算が関わる事項に関しては時間がかかるという現実もありました。

B病棟でも1年後、偏差値50未満の項目は3つに減少し、ケアの質の改善を図れた結果となりました。

図4:病棟への掲示(中央が褥瘡掲示板)


図5:事例2(B病棟)の取り組み後のレーダーチャート(褥瘡)

取り組みの効果

A病棟・B病棟とも、褥瘡リンクナースが目標管理や看護実践マネジメントを行う上で、DiNQLのベンチマークは結果や要因を可視化できるため、そこを糸口に課題を発見し、DiNQL以外のデータと合わせて検討することにより、対策立案が容易になりました。またリンクナース自らがデータを用いて、分析、目標設定したことにより、プロセスや結果に信頼性があり、さらに改善に至るという成功体験としても実感できたと考えます。

今後も、リーダーシップをとっていく人材がDiNQLを利用することにより、看護の質改善のためにデータを利用し、現場で実践的に人材を育成していくことができると考えます。

(2024年3月19日掲載)