コラム コラム
Column

キャンペーンコラム

第11回
2020/10/01

「コロナ・ハラスメント」を考える

2020年の年明けからわが国でも新型コロナウイルス感染症の発生が報じられ、その後の感染拡大を受けて政府は4月7日に新型コロナウイルス感染症緊急事態を宣言(5月25日解除)しました。国民生活はもちろん、社会・経済活動のすべてが大きな影響を受けることになりました。緊急事態宣言の解除後も、各地で新規感染者の確認が続いており、現時点では感染蔓延の収束の見通しは立っていません。
この間、保健・医療・介護の現場で働く看護職は、新型コロナウイルス感染症の最前線で活動してきました。自身の感染への不安と恐怖、自らが媒介者となって家族など身近な人々に感染させるのではないかとの懸念と、現場を支える専門職としての責任と使命感とのはざまで苦しみながら、それぞれ最善を尽くして業務にあたってきました。業務上の感染防止対策だけでなく、日常生活でも厳しい行動規制を受け入れ、家族への感染を避けるため部屋を分けて生活した例もありました。
このような看護職に対して一部の人々から、新型コロナウイルス感染症患者に対応していることを理由とする誹謗中傷が向けられ、心無い言葉や態度によって看護職だけでなくその家族までもが傷つくという出来事がありました。残念なことに、このような出来事は看護職が働く場で、ほかならぬ同僚間でも見られました。なかには、自身の健康状態や家族の事情などのために感染症患者の対応を辞退したり、休職や退職を選ばざるを得なかった看護職に、冷たい目が向けられたケースがあります。これらが、いわゆる「コロナ・ハラスメント」(新型コロナウイルスを理由とするハラスメント)です。
日本看護協会は新型コロナウイルス感染症に対応する看護職を対象に、4月下旬からメールによる相談窓口を開設しており、ハラスメントを含む労働に関する相談も多数寄せられています。「コロナ・ハラスメント」の一例をご紹介します。
〇妻(看護師)が感染症指定病院で働いていることを理由に、夫の会社から妻の行動履歴を求められた
〇家族が看護職であることを理由に職場から休職を打診された
〇感染症病棟配属だが、「患者数が少ないから暇だろう」と言われ、他部署に応援に行くと「汚い」と言われる
〇妊娠中で早めの産休に入れることになったが、周りの一部スタッフから「ずるい」「ありえない」などと言われた
〇別の勤務先で働く子ども(看護師)の病棟にコロナ陽性患者が入院したことを理由に自分が出勤停止となり、職場からは子どもと別居しないと仕事復帰させない、別居の費用はすべて自己負担と説明された
〇看護管理部からの部署異動に関するアンケートに、コロナ病棟や集中治療室に行きたくないと記入したら、コロナを看たくないという人は非国民だ、書き直せと差し戻された
などがありました。
image
いわゆる「コロナ・ハラスメント」の背景については諸説ありますが、感染の不安の中で、看護職を感染リスクが高いものとして遠ざけようとすることを、感染から自身や家族、社会を守る行動だとして正当化する意識があると思われます。感染症に対する正しい知識や必要な行動が共通理解されていないがゆえの過剰反応や、他者への過剰な忌避や隔離を求める行動は、社会的な摩擦を生じ、場合によっては人権侵害となり得ます。保健・医療・福祉など看護職が従事する職場でも、感染防御に関する科学的な知識の不足や職場の体制の不備は、看護職自身に感染者患者の対応への強い不安をもたらし、業務の一層の負担感につながります。さらに、感染への不安に対応してくれない職場への不信や不満を抱え、傷ついた経験を、「ハラスメント」として訴える相談も少なからずありました。平時からの職場内のコミュニケーションの問題が今回のような非常時には増幅され、時として「ハラスメント」と受け取られることに十分注意しなくてはなりません。
はからずも、今回の新型コロナウイルス感染症患者への対応で、看護職の職場の労働安全管理、労務管理の課題が改めてクローズアップされました。日本看護協会は、2018年に改訂「看護職の労働安全衛生ガイドライン~看護職が健康で働き続けられる職場~ヘルシーワークプレイスをめざして」を公表しました。以降3年間にわたり普及キャンペーンを展開しており、今(2020)年度は「健康な職場づくり~お互いを尊重し協力しあおう~」がテーマです。これは、新型コロナウイルス感染症に対応する看護職に対する、特に職場内でのハラスメントに焦点を当てています。2020年6月から職場のパワーハラスメント防止対策が事業主に義務付けられました。これに先立って2019年9月に本会が全国の病院・有床診療所を対象に実施した調査では、7割の施設が防止対策に対応済みと回答しましたが、職員調査では4人に一人が何らかのハラスメントを経験していました。組織を挙げた、さらに実効性のある取り組みが求められています。
次回のコラムでは、先進的な取り組み事例をご紹介します。