意思決定支援と倫理(3)子どもの意思決定支援

    倫理的課題の概要

    社会的背景

    1989年に国連は、18歳未満の全ての人の保護と基本的人権の尊重を促進することを目的として、「児童の権利に関する条約」を採択し、1994年に日本もこの条約を批准した。本条約では、子どもの最善の利益を前提として子どもも大人と同じ権利主体であることが明確に示され、医療の場においても、子どもの意思の尊重について考えられるようになった。そのため、子どもの治療の決定等にあたり、親の意思だけでなく、子どもへの意思決定を支援することが重要となってきている。

    倫理的課題の特徴

    小児看護領域において、子どもに痛みが伴う処置を行ったり、子どもが嫌がる薬を内服させなければいけない場面がある。「怖い」「やりたくない」「飲みたくない」という子どもの気持ちの尊重と、治療のために確実に処置や内服を行う必要がある、という倫理的葛藤がある。

    また、子どもの治療方針などを決定する際、子どもの発達段階によっては、親の代諾という形をとることが少なくない。しかし、子どもに十分な説明をしなかったり、子どもにとっての最善とは何かを考える際に、親や祖父母などの大人の判断が先行してしまい、子どもの気持ちが不在のまま治療方針が決定されたりすることは、子どもが意思を表明する権利や知る権利、自己決定の権利が阻害されることになる。

    さらに、子どもの意思決定能力について、家族が捉えている能力が、医療職などが客観的に見た場合のものとズレていることもあるため、親が「まだ子どもだから」「説明してもよくわからないだろうし、怖がらせるだけだから」と捉えていても、子どもは「もっと知りたい」と思っている場合もある。

    考える際の視点

    子どもの意思決定支援は、発達を評価して、どこまで説明を理解し、意思決定ができるか評価する必要がある。

    幼児期であれば、治療の決定は親の代諾になるが、その際も子どもの発達段階に合わせた説明がされることが必要である。また、「怖い」「痛い」「やりたくない」などの気持ちが言えるようにすることは、子どものその後の成長に影響する重要なことであり、自分の意思を表明する権利を尊重することである。親や医療職は子どもの気持ちを尊重し、子どもに理解できるようわかりやすく説明し、その内容について子どもの納得を得ることが重要である。大人の側から見た子どものイメージで考えるのでなく、1人の意思のある人格として、知る権利や自己決定の権利、自分の意思を表明する権利が尊重され、庇護されなければならない。

    学童期、思春期であれば、まず、子どもの気持ちを医療職と両親等で確認する。そして、子どもの理解に合わせて、今後の治療の目的やその内容、副作用等について説明し、子どもの納得を得ながら医療を進めることで、子どもの不安を軽減したり、治療がスムーズになる。その際、どのように子どもに病状や治療等について説明するか両親と話し合う。また、子どもと両親が円滑にコミュニケーションをとることができているか否かを確認し、子どもと両親の心の動きに配慮しながら両者を支援し、子どもと両親が共に意思決定ができるよう支援する。さらに、子どもにとっての最善を考える際、病状の回復や苦痛の緩和について配慮すると同時に、治療や療養生活により、学校に行って勉強をしたり、友人と遊んだりすることができなくなることによる心理的、社会的な影響も踏まえ、入院中の学習や遊びの環境をできる限り整えていくことが重要である。

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