意思決定支援と倫理(2)高齢者の意思決定支援

    倫理的課題の概要

    社会的背景

    超高齢社会を迎え、医療・介護への需要は増加し、療養の場が病院から介護施設や自宅等暮らしの場に移行しつつある。治療・療養に対する価値観や療養場所の多様化等もあり、高齢者が意思決定する機会は増加している。しかし、加齢変化や認知症に対する理解不足や判断能力の低下により倫理的課題が生じやすい。そのため、看護職が意思決定を支援する重要性はますます高まっている。

    倫理的課題の特徴

    高齢者の治療や療養生活については、時として、家族と医療職で決定し、高齢者不在の意思決定が行われていることがある。非がん疾患等、疾患の種類によっては予後の予測が難しく、高齢者の意思決定のチャンスが失われかねない。認知症のある高齢者では、判断能力が不十分だからと高齢者の意思が尊重されないケースも少なくない。また、在宅では、治療内容やどう生活していくかについて、高齢者と家族の意向が強く働くことや異なる機関に所属する他職種とともに支援を行う特徴がある。そのため、何が最善のケアなのか、誰の意向を優先するのかという葛藤が生じやすい。

    さらに、高齢者の中には「家族の言うとおりでかまわない」、「医師に任せる」と意思表明する場合もあり、十分な説明を受けた上での決定であれば、これも一つの選択と言える。しかし、家族への遠慮や希望を伝えることへのためらいによる場合もあり、高齢者の真意を捉えかねると、結果として高齢者の意思とはかけ離れた医療提供につながってしまう。

    考える際の視点

    超高齢社会において、看護職には、高齢者の心身の特徴に配慮した意思決定支援がますます求められる。そのための方策は以下のようにまとめられる。

    • 高齢者に特有な心身の状態への配慮

      視聴覚機能等の加齢変化や疾患に伴う機能低下など、高齢者の状態を十分にアセスメントした上で、説明する側の能力を高め、わかりやすい説明を心掛けることが重要となる。

    • 高齢者の意思表出への支援

      高齢者の意思は、信頼関係を築き、意思を表出しやすい環境を作ることで引き出される。生きてきた時代背景や価値観にも配慮し、安心して希望を伝えられるよう支えることが必要である。

    • 高齢者の意思の確認

      希望する医療や療養生活について、早い段階からの意思確認が求められる。意思は変化することを念頭に置き、一度の確認で終わらせず、状況の変化に応じて確認していくことも欠かせない。また、家族が代弁する場面が多くなることに備え、早い段階から家族の意思を確認することも必要である。

    • 既に高齢者からの確認が困難な場合、もしくは家族がいない高齢者の場合は、関係する人たちと高齢者の人生観や価値観を十分に情報共有し、合意形成することが必要となる。しかし、意思確認ができない高齢者であっても、状況をある程度理解して快不快の気持ちを持つことができる場合もある。したがって、認知症が進み理性的な判断力を失っている場合であっても、高齢者の対応する力に応じて話し合い、その気持ちを大事にする必要がある。

    • 高齢者の意思決定に影響を与える家族の存在への配慮

      希望する医療や療養生活がどのように家族に影響するのか、家族を支援する様々なサービスについても説明できること、さらに、多職種と連携することでその役割を果たすことも、高齢者の意思を尊重することにつながる。

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