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転倒・転落予防に向けたDiNQLデータの活用(静岡市立静岡病院)
病院概要
【所在地】静岡県
【病床数】506床
【DiNQL参加開始年】2015年
【参加病棟数】11病棟(全11病棟)
参加した動機・きっかけ
当院は政令指定都市静岡市の中心部に位置し、1869年(明治2年)の開設から創立150年を迎えました。誰もが分け隔てなく医療を受けられるようにという開設当時の理念を引き継ぎ、現在は「開かれた病院として、市民に温かく、質の高い医療を提供し、福祉の増進を図ります」という基本理念を掲げ、地域の基幹病院として、その役割を担っています。
看護部は「患者さんのよりよく生きようとする力を引き出す看護を提供します」を理念とし目標管理を実践しています。自部署では管理者を中心に、SWOT分析を行いますが、自部署の看護実践を評価する指標に乏しく、看護の質評価に難渋していました。
DiNQL事業で扱う指標は、管理者が病院・病棟をマネジメントするために活用できると思い、看護実践の質評価ができること、および病院内だけでなく病院外での自部署の立ち位置や問題点が明確になることに期待してDiNQL事業に参加しました。主体的に参加の意思を示した3病棟から参加を開始し、現在は11病棟全て参加しています。
運用・活用について
当院の医療安全管理室には転倒・転落予防のための多職種チームがあり、患者さんの転倒・転落予防に向けて各メンバーの得意分野でアプローチしています。しかし、以前は起こった事例を振り返るだけであり、転倒・転落件数がなかなか減少せずに突破口が見いだせない状況でした。そこで、DiNQLデータや院内のデータを活用し、病棟における転倒・転落の発生状況を把握した上で、転倒・転落を防ぐための先取りした対応に取り組みました。
自施設と他施設の転倒転落の現状を把握
自施設インシデントレポートの内容と件数を分析すると以下の傾向が確認されました。
- 転倒・転落事例の半数以上は排泄行為に起因
- 発生患者の7割以上が70歳以上
- 7割以上に筋力低下など運動機能障害あり
- 7割以上に判断力の低下
また、DiNQLデータでは次の状況が把握できました。
- 他施設と比較し、75歳以上の入院患者が多い
- 院内比較では突出した有意差なし
- 全病棟で7月に転倒・転落件数が増加
- 比較した他施設でも7月に転倒・転落発生が増加
研修会開催時期、内容の検討
転倒・転落の発生が多いのは7月で、新人看護師が入職研修を終え、配属された部署で日勤の独り立ちを始めるころと重なっていました。また、インシデントレポートから経験の浅い看護師が、患者の病状や状況をアセスメントできていれば事前に予防対策が立案できたと考えられました。これらの現状を鑑み、6月の新人研修にて「転倒・転落予防のためのアセスメント」(講師:看護師)を開催し、また全職員を対象とした7月の医療安全研修にて「転倒転落を防ぐために転ばぬ先の知識」(講師:理学療法士)と題して、高齢者の筋力低下と排泄行為に着目した講義を実施しました。
取り組みの効果
2017年以前の過去5年間で、年間平均410件発生していた転倒・転落件数は340件まで減少し、現在もその数を維持しています。転倒・転落発生の多い7月に研修を実施したこと、経験の浅い看護師が転倒・転落を起こしやすい状況をアセスメントできるように成長したことで、転倒・転落発生件数の減少につながったと考えます。
今後に向けて
今回の取り組みでは、新人看護師の研修時期の設定にDiNQLデータが役立ちました。ほかにも、多職種チームメンバーを動かす動機としてもデータが役立ちました。講師を担当してくれた理学療法士は、DiNQLデータを提示し、説明することで意欲的に活動してくれました(転倒事例の50%以上が排泄に起因していたことから、トイレ動作に着目した教材を作ってくれました)。また、医師も「起こってしまった出来事を振り返るのではなく、先取りした対応が面白い。とても意義ある活動だと思う。」と教材のためにデータを提供してくれました。
3年間はデータを入力することしかできず、データを活用するには至りませんでしたが、現在は褥瘡発生率について、皮膚の保湿ケアと褥瘡発生に関する有意差を示したことで、皮膚の保湿ケアが定着し、委員会活動にもデータを活用しています。また、重症度、医療・看護必要度では当院の急性期病院としての特徴や高齢者が多い事実が明確となり、より具体的に部署目標や計画を設定することが可能となりました。
年度末に看護師長・看護副師長が一堂に会し部署成果報告を行っていますが、近年DiNQLデータを活用した発表がされるようになってきています。
(2020年9月11日掲載)