保健師の活動

    更新日:2021年1月18日

    保健所支所における新型コロナウイルス感染症対応への体制整備

    仙台市保健所青葉支所
    主幹 小林浩子さん

    宮城県は新型コロナウイルス感染症の第4波が全国に先駆けて到来した。前年度まで仙台市保健所青葉支所(青葉区保健福祉センター)次長であり、本年度は同支所主幹として勤務する小林浩子さんは、急激な新規陽性者数の増加に対応体制を整備して同感染症の対応に当たった。

    第4波で受援体制の構築、応援者との協働対応

    仙台市保健所青葉支所の皆さんの画像
    小林さん(前列真ん中)と支所の皆さん

    同支所が所管する青葉区は、仙台市の5区の中でも面積・人口とも最も大きく、事業所や飲食店が集積する。新型コロナ陽性者数は市全体の約3分の1を占め、同支所は同感染症患者に対する積極的疫学調査や自宅療養者の健康観察に加え、施設調査などの負担も大きかった。小林さんは「市内で最も業務が逼迫した状況だったと」振り返る。

    同市は、急拡大した第4波で逼迫した保健所の人員不足を補うため、他の自治体の職員やIHEATに登録している医療・看護系大学などの教員に応援を要請した。同支所は、これら応援者の受け入れに当たり、もともと面識があった保健所業務に関する研究をしている大学の教授や東日本大震災の経験がある県内の公衆衛生看護学の教員らの助言を得ながら、環境整備や応援者がすぐに対応業務を遂行できるようにマニュアルをリニューアルし、受援体制を構築した。「事前に受援体制を整備できたため、応援者と共に機動的に業務ができた」と小林さんは話す。

    応援者として派遣されてきた他の自治体の職員の職種(保健師・看護師・獣医師・衛生職など)や感染症に対応する業務の経験は多様で、限りある専門職を活用するため、専門職でなければできない業務とそれ以外の業務に細分化した。さらに、専門職でなければならない業務を内部・外部者に分け、看護系大学の教員らには通常業務の執務室とは別室にして積極的疫学調査と健康観察に専念してもらった。

    また、マニュアル整備など受援体制の構築に関わった看護系大学の教員らがリーダーとなり、応援業務のマネジメントや他の自治体の職員のサポートなどを担ってくれた。大きな波に慣れていなかった同支所の職員も、応援者らと情報共有をしながら連携し、業務に当たった。

    見直した第5波への対応

    第4波が落ち着いた時期に、第4波への対応中に感じた課題や改善点を踏まえ、マニュアルを見直した。また、第5波への準備を始めた8月中旬は、大学の公衆衛生看護学部は実習期間のため、大学教員らの応援が困難なことが想定された。そこで、看護師であり保健師を目指す大学院生への協力依頼を強化した。短時間なら応援に行けるとの声から、第4波での早番・遅番の2シフト制を3時間単位の3シフト制に変更、応援者を確保した。「細かいシフトで応援者数が増えたが、第4波で整備した受援体制やマニュアルの活用などで対応できた」と小林さんは語る。

    さらに、症状が落ち着いた在宅の患者には、電話での健康観察から、症状をスマートフォンに入力するアンケート方式にIT化し、業務の効率化を図った。「多職種のチームワークで乗り越えられた」と小林さんは話す。

    区役所内の応援体制を強化

    通常業務もある中で保健師など専門職のマンパワー不足から、抜本的に必要となった区役所内の応援体制を強化した。必要な職員が一目で分かる応援職員体制表を作成。業務を切り分け、課ごとに応援業務を決め、感染レベルに応じて必要な応援職員数を明示した。併せて、受援側の負担を軽減するため、マニュアルの見直しや、事務職員の不安や負担を軽減するための研修も実施した。

    小林さんは「同感染症の特徴は波の繰り返し。波の合間にそれまでの過去を振り返り、業務改善・体制の見直しを図り、次の波に備えることが必要。いかに既存のやり方にこだわらず、外部の意見など新しいやり方を受け入れる柔軟性が大事」と今後を示唆する。

    (2021年12月22日取材)

    新型コロナウイルス感染症対応に奔走した保健所保健師の実際

    東京都南多摩保健所 地域保健推進担当課長
     河西あかねさん
    課長代理(地域保健推進担当)
     村井やす子さん

    南多摩保健所の外観画像
    南多摩保健所の外観

    東京都南多摩保健所は、東京都多摩地区に5つある保健所の一つ。東京のベッドタウンとして発展した多摩ニュータウンを抱える3市(日野市、多摩市、稲城市)を所管し、管内人口約42万4,000人の公衆衛生行政を担っている。全所員数は67人。うち保健師は20人で、感染症対策担当の保健師はわずか3人だ。

    全国の保健所と同様、南多摩保健所でも2月7日から「帰国者・接触者相談センター」を開設し、相談に応える体制をとったが、都内の感染者が急増した3月末からは全ての業務がひっ迫し、保健師たちは土日返上で深夜まで対応する状況が続いていた。

    感染症対策は公衆衛生行政の原点であり、東京都では、2004年4月の保健所再編時に、多摩地区の全保健所に感染症対策を専任とする部署を設置し、地域の感染症対策の拠点としての役割を強化する体制とした。以後、南多摩保健所でも、それまでの結核対策を中心とした取り組みに加え、地域における感染症対策に継続して取り組んできた。しかし、今回の新型コロナウイルス感染症の対応はこれまでの取り組みの想定を大きく超える対応が求められた。

    多岐にわたり繁忙を極めた保健師業務

    新型コロナウイルス感染症に対応する保健師の業務は多岐にわたる。南多摩保健所で1人の感染者(感染疑い者)に対して保健師が行っている療養支援の流れは以下のようになる(2020年7月現在)。

    まず、感染疑い者に対しては下記のような支援を行っている。

    • 「帰国者・接触者相談センター」での電話相談対応によるトリアージ
    • 「帰国者・接触者外来」への受診調整・受診支援・搬送
    • PCR検査の調整、病院・クリニックで実施したPCR検査の検体回収・健康安全研究センターへの検体搬入

    医師が採取した検体を保健師が受け取り、3重に梱包、健康安全研究センターに運ぶ様子
    医師が採取した検体を保健師が受け取り、
    3重に梱包、健康安全研究センターに運ぶ

    さらに検査の結果、陽性が判明し、医師から「新型コロナウイルス感染症発生届」を受理すると、以下の対応を実施している。

    • 入院先の調整・搬送
    • 積極的疫学調査(本人および施設)
    • 事情があって自宅療養している患者の療養支援および相談対応
    • 入院中の患者が重症化した際の転院搬送
    • 退院時連絡、自宅療養の場合は陰性確認のPCR検査(5月下旬まで)
    • 患者発生時の積極的疫学調査に基づく施設への消毒命令
    • 施設からの患者発生時に備えた様々な相談対応
    • 濃厚接触者の特定、本人への連絡、居住地の保健所へ健康観察およびPCR検査の依頼
    • 濃厚接触者の療養相談、健康観察、5月29日以降は国通知に基づく全ての濃厚接触者へのPCR検査

    上記以外にも、関係機関との連絡調整、他の保健所との連絡調整、国や都への報告書類の作成のほか、検疫所からの依頼による流行地域からの帰国者の健康観察などの業務も行っている。

    河西さんは「例えば過去のSARSパニック(2003年)や、麻疹の流行(2007年)、新型インフルエンザ(2009年)など、一時は業務が膨らみ大変でも、患者搬送も含めなんとか対応してきたが、今回は患者発生も想定以上に多く、この事態が半年以上ずっと続いており、患者搬送や施設調査も1日に7〜8件対応しているという大変な状況だ」と話す。

    全職員で保健師の業務をサポート

    これだけの業務を感染症対策担当の3人の保健師で担うのは不可能だったため、南多摩保健所では、 公衆衛生医師である所長の判断のもと、全職員をあげて取り組むことになった。所内の全員に、感染対策の知識や個人防護具(PPE)の着脱方法などの研修を行い、できる範囲で業務を分担していった。

    保健師については、河西さんが中心となり、課を超えて横断的に土日休日を含めたシフトを組み、OJTも工夫しながら感染症対策担当の保健師の負担を分散できる体制とした。

    「帰国者・接触者相談センター」の電話相談は、事務職員が担った。しかしピーク時の件数は1日250件以上、時には1件1時間以上の相談対応になり、慣れない相談への対応に加え、行政への不満、感染者や家族に対する周囲からの理不尽な扱いへの怒り、一般市民からの感染者への差別的な意見もあり、罵声を浴びせられることも少なくなかった。

    所内研修防護服着脱訓練の様子
    所内研修:防護服着脱訓練

    また感染疑い者や感染者を病院に搬送する際にも、普段はデスクワーク中心の事務職員が、PPEの着脱の研修を受けて運転業務を行った。民間の救急搬送車が手配できず、保健所の車で搬送しなければならないケースもあったからだ。

    河西さんたちは、事務職員たちが抱える感染症への不安や、電話対応でのストレスに対しても、きめ細かくケアし、メンタルケア研修も行った。未知のウイルスに対し保健所をあげて取り組み続けるためには不可欠だった。

     

    感染者の生活を偏見・誹謗中傷から守る

    一連の療養支援の中で、保健師が一貫した対応として心を砕いているのが、感染者や濃厚接触者が、偏見や誹謗中傷にさらされることから守り、支えることだ。

    例えば、感染の疑いがある人の自宅まで出向いてPCR検査の検体採取を行う場合、保健所職員は感染予防のためPPEを着用した状態で訪問する必要がある。しかし―。

    「住民は(自分の感染を)近所の人に知られたくないという方が非常に多い。感染症は、噂が広まると、元のコミュニテイにいられなくなって、転居や転職を余儀なくされることもある。だから私たちが、白い服(=PPE)を着て玄関から入るわけにはいかない」(村井さん)。

    そこで、玄関までは普通の服で訪問し、家の中でPPEを着脱、検査を行っていたが、それでは曝露のリスクが高く、PPEもそのたびに交換しなくてはならず、数が足りなくなってしまう。所内でもいろいろと試行錯誤した結果、検査を受ける住民に、人目につかない近所の公園や橋の下などに来てもらい、車の中から保健所の医師が検体を採取するようにした。

    陽性者の入院支援に出動する管理職(運転担当)と保健師
    陽性者の入院支援に出動:管理職(運転担当)と保健師

    「PPEを着た私たちが車の中にいて、ご本人に車の横まで来ていただく。いわば逆ドライブスルー方式。私たちの感染リスクも低くなり、ご近所にも目立たない。時間的にもこれが一番効率的だった」と村井さんたちは苦笑しながら振り返る。

    こうした地域での偏見や誹謗中傷対策は、感染者の生活の場や職場などで積極的疫学調査をする際にも貫いている。

    「施設に対しては、感染源の探索、感染経路の推定、濃厚接触者の特定や、感染拡大を防ぐための指導、消毒命令も出さなければならないが、保健師が大事にしているのは“感染した職員を温かく迎えてください”というメッセージを伝えること。感染者が退職に追い込まれたり、うつ状態になったり、復職したときに居場所がなくならないように、中立的な立場で、悪いのはその人ではなくウイルスだと何度も伝えています」(河西さん)。

    新型コロナウイルス感染症の患者が発生したことを、企業がホームページ等で公表する場合にも、感染者や地域が特定されて二次被害にあわないよう、公表の仕方や内容についてきめ細かく相談に応じている。

    感染者とその家族の暮らしを支える

    感染者や濃厚接触者となった住民は、誹謗中傷にさらされるだけではない。例えば、自宅に高齢者を1人残して入院しなければならないが、どうしたらいいかなど、一人一人が事情を抱えている。保健師たちは、こうした地域での生活を安心して続けるための支援にもあたっている。

    例えばこんなことがあった。共働きの夫婦が、幼児を祖父母に預けていたところ、祖父母が感染し、幼児も陽性となった。幼児は、祖母と自宅療養となったが、その間、両親とも会えず、外にも出られない。不安はないか、ストレスは大丈夫か、幼児と2人きりで祖母の負担が重くなっていないか。保健師は、毎日連絡をとり、状況をアセスメントしながら療養生活を支えた。

    「住民は、病気が治った後もここで生活していく。その生活を支えるのが保健師の仕事だが、手間と時間、人手はかかる。検査1件、感染者1人と、数字でカウントされるが、その1件1件にどれだけの調整と時間がかかっているかは、なかなか伝わらない」(村井さん)。

    1カ月後、幼児の陰性が確認され、ようやく両親と抱き合えたと聞いた時は、保健所中で「よかった」と喜び合ったという。

    今回の経験を生かした保健所のさらなる機能強化に向けて

    村井課長代理と河西課長
    村井課長代理と河西課長(右)

    8月29日末現在、南多摩保健所管内の感染者は213人、クラスター発生は1件。8月現在1日当たり、他部署からの事務職員の応援4人、看護師・保健師7人の臨時の雇上げもあり対応しているという。

    保健師ならではの細やかな対応の重要性を認識しつつも、河西さん、村井さんが強調するのは、今後を見据え、地域の関係機関や住民自らが、感染対策、感染予防の力を上げることに業務をシフトしていきたいということだ。

    「検査や搬送は保健師でなくてもできるが、感染源探索や感染経路の推定、感染拡大防止のための積極的疫学調査、地域における健康危機発生時の公衆衛生看護活動は保健所保健師が専門性を発揮して対応すべき事案であり、こうした活動を通して、地域全体の感染症予防対策の向上につなげていく必要があります。感染予防対策は“事前対策と、万一発生しても広げないこと”が大事。保健所保健師の活動は見えにくいが、10年、20年の単位で地域が力をつけていけるように、地道な活動を着実に広げていきたい」(河西さん)と考えている。

    (2020年7月16日取材)

    385人の保健師を統括 大都市のコロナ禍に立ち向かう

    大阪市健康局健康推進部 保健主幹 松本珠実さん

    全国人口3位の大都市で感染者に対応する

    人口約275万人、全国の市町村で第3位の人口を抱える大阪市。新型コロナウイルス感染症の累計陽性者数は4,529人にのぼり、大阪府の半数以上を占める(2020年8月31日現在)。

    その最前線で市民を支えているのが385人の保健師たち。本庁等に57人、保健所に27人、24区の各保健福祉センターに計301人が配置されている。そのトップに立ち、対応を指揮しているのが大阪市健康局健康推進部の保健主幹、松本珠実さんだ。

    陽性者への健康管理(区)様子
    陽性者への健康管理(区)

    他の自治体の保健所と同様、大阪市でも2月4日からの「帰国者・接触者相談センター」での24時間の電話相談に始まり、検査が必要な人のピックアップ、帰国者・接触者外来への受診調整、PCR検査の手配、陽性となった患者の入院調整や搬送、さらには感染者の疫学調査、濃厚接触者の特定、その後の健康観察など、保健師たちは膨大な業務にあたってきた。未知のウイルスなだけに、日々対応のルールが変わり、その都度、業務の内容も変更を迫られた。医師、獣医師、薬剤師、事務職員他関係職員とその時々の課題を共有し、組織として解決策を見出していった。

    多くの企業や複数の歓楽街を抱える大都市ならではの難しさもあった。例えばある飲食店で感染があっても、感染者の居住地、勤務先は別の自治体であることがほとんどだ。感染対策の基本は、陽性者の所在地での対応であるため、そのたびに、陽性者の立ち寄り先や勤務先の自治体に連絡し、疫学調査の継続を連携する必要があり、その数も膨大になった。

    が、そうした中でも、松本さんは本庁と保健所と保健福祉センターが一丸となって「常にスピーディーに物事を進めていく体制をとることは、できていたと思う」と振り返る。

    ひっ迫する業務を予測し、分散する

    統括的な立場の保健師として、松本さんが心掛けたのは「しっかり全体を見渡して、どこに課題があり、何を解決すれば全体に良い影響を及ぼすかを考えること」だったという。

    まず松本さんが行ったのは、保健師の業務を、量や必要性を見極めながら早い段階で切り分け、代替できるところには応援をもらって対応する仕組みを、整えることだった。そうすることで疫学調査など保健師でなければできない業務に、パワーを集約させられると考えたからだ。

    感染者の職場への指導消毒(大阪市保健所)
    感染者の職場への指導消毒(大阪市保健所)

    例えば、最も人と時間が必要になった24時間対応の「帰国者・接触者相談センター」。ここには派遣看護師と契約し、最大23人を投入した。松本さんは「電話相談という入口はとても大事なので、委託ではなく専門知識を持った看護師を派遣してもらう形でお願いしたい」と会議で申し出た。多い日には1日1,500件を超える電話相談に対応したが、3交代制を組み、状況に応じて増員して乗り切った。

    また感染疑い者のPCR検査をどこで受けてもらうかなどの調整は、1件で最低20分はかかる。これは保健所の薬剤師、獣医師のセクションに担ってもらった。

    こうした業務の切り分けは、法律や国の事務手続きが変わるタイミングで、業務の増加や繁忙を予想し、常に先んじて準備できるよう関係者とともに苦心した。

    大阪府が、感染者の入院調整や宿泊施設の確保などを一括して引き受けてくれるなど、市と府の連携ができたことで、一部の業務を切り離せたことも大きかった。

    「今一番必要なのはクラスターを見つけること」

    松本さんが、当初から、最も重要だと考えていたのが感染者、濃厚接触者の「疫学調査」と「健康観察」だ。

    「疫学調査」で、濃厚接触者を特定し、感染経路を追跡調査することは、クラスターの早期発見につながり、感染拡大を防ぐために重要だからだ。松本さんは、この「疫学調査」を24区の保健福祉センターの保健師たちを中心に担当してもらった。一人一人への電話で、行動経路や濃厚接触した人物など、丁寧な聞き取りを行う。「対人への疫学調査は、時間がかかる。それをきちっとやらないと後の発生を止められない」(松本さん)との思いから、住民との距離が近い各区の保健師たちに、主体性を持って担ってもらおうと考えたのだ。大阪市は歴史的に結核患者が多く、全ての保健師が新人時代に必ず感染症対策を経験しているという強みもあった。人手が足りなくなった場合は、24区に派遣看護師を配置し、休日対応もできる体制をとった。

    ただ業務を任せるだけではない。松本さんが心を砕いたのは、本庁と保健所、24区の保健師たちが共通の目的意識を持てるように働き掛けることだった。

    「いま一番必要なのはクラスターを見つけることだ、という意識を統一していくために、保健所に働きかけ、(感染が拡大する前の)2月6日に24区の保健師と事務担当に集まってもらい説明会を行った。3月には24区の統括保健師を集め、クラスター対策の医師から、後ろ向き調査がいかに大事かを話してもらったり、ここに向けてみんなで頑張っていこうという雰囲気を作っていく企画、調整を行った」(松本さん)。

    その後も、お互いに困ったことを共有し助け合う、先駆的な事例があれば共有するというチームワークが醸成された。

    こうしたことは、実際に早期のクラスター発見にも結び付いた。3月に大阪市内で発生したライブハウスでのクラスターは、同じ人物が複数のライブハウスをはしごしていたなどの情報を、区と保健所の保健師がお互いの情報を統合して、発見につなげた。

    「疫学調査は保健師にしかできない業務だから、そこは専門性をしっかりいかしてやってくれと頼んでいた。おかげできちっとクラスターを発見してくれた」と松本さんは評価する。

     

    連携のための職員を派遣し、現場に必要な支援を見つけ出す

    このように早期から体制を敷いていても、刻々と変わる状況の中で、現場が行き詰まる場面も多々あった。そうした際、現場に必要なサポートを把握するため、松本さんが取ったのが本庁から連携のための職員を送り込むということだ。

    「当事者は目の前のことで精一杯で、どこで人が足りなくてどこで困るのか、なかなか発することができない。それは当たり前なので、こちら(本庁)から連携役が現場に出向いて、一緒に業務をやりながら、電話回線とか、物品とか、スペースとか、どこに人や物を投入しなければならないかをキャッチして報告してもらい、援助していく。現場で解決できない問題は引き上げて、こちらで動いた」(松本さん)。

    困りごとが起こった時だけでなく、人員を増員した後などにも、混乱が起こってないかなど、さまざまなタイミングで連携の職員を派遣し、現場がスムーズに動くよう支援した。松本さん自身も現場に赴き、必要な支援を洗い出したこともあった。

    大きな組織にこそ信頼感が必要

    HER-SYSをみながらの陽性者の健康管理(区)
    HER-SYS※1をみながらの
    陽性者の健康管理(区)

    半年を超えた新型コロナウイルスとの闘い。お互いの顔が見えにくい大きな組織の中で、士気を高め、維持していくため、リーダーとして松本さんが一番大事だと考えるのが、成果を現場に還元すること、そして現場への信頼感を持つことだ。

    「みんなが頑張ってクラスターを発見してくれるから患者数が他よりも早く減っている、次の波を抑えられているなど、結果は必ず現場に返す。私は現場への信頼感をものすごく持っているので――。みんながやってくれると信じているし、お互い信頼感を持ってやっていかなければ大きな組織は動きにくいのではないか」と松本さんは振り返る。

    8月、大阪市の新規感染者数は100人を超える日が続き、3〜4月の累計数を超えた。市では5月に拡大した保健所の機能を、9月にはさらに拡充し、新型コロナウイルス感染症対策グループは100人体制となる予定だ。保健師たちの忙しさはさらに加速しているが、確実にノウハウを蓄積しながら、互いの絆を信じて、感染拡大の阻止に向け日夜走り回っている。

    (2020年7月18日取材)


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