看護実践情報

都道府県看護協会の取り組み

更新日:2020年12月22日

県の危機に看護提供体制の維持・調整で力を発揮

沖縄県看護協会 会長 仲座明美

7月以降、中南部を中心に新型コロナウイルス感染症が急拡大した沖縄県。8月1日には県独自の緊急事態宣言が発出された。県看護協会の仲座明美会長は、早期から各病院の看護部長らと情報交換を重ね、県内の看護提供体制に「大きな危機感を持っていた」と話す。

医療ニーズが増大し、県や医師会などがそれぞれ看護師の確保に動き始める中、仲座会長らは「看護の窓口は一つにすべき」と県に打診。ナースセンター長でもある宮城とも常任理事が、県対策本部の看護師確保・調整チームに加わり、ナースセンターの求職・求人状況や看護現場の実態を踏まえた対応ができる体制を整えた。

当初、自宅療養者向けの県庁内のコールセンターでは事務職の県職員が相談を受けていたが、ナースセンターがマッチングを行い、リーダー役1人を含む計46人の看護師を確保。運営が安定し、より専門的な対応ができるようになった。また、自宅療養者のうち高齢者の経過観察では、県看護協会が訪問看護ステーションに呼び掛け、条件などを説明して8カ所の事業所と連携。朝・夕の電話での状態確認や訪問看護を行う体制を構築した。

さらに、軽症者宿泊施設については、陽性者の増加でナースセンターを通じた求人だけでは確保が難しくなったことから、各医療機関にも声を掛けて看護師を募集。県看護協会の職員や病院の看護管理者を統括的な立場で派遣して、円滑に運営できるよう全体のマネジメントを行った。

現場のニーズを共有し迅速に必要な人材を派遣

看護師確保・調整チームの活動の様子の画像
看護師確保・調整チームの活動の様子

8月中旬、県内3カ所の医療機関で同時にクラスターが発生した。県のクラスター対策班や自衛隊、DMATなどから看護職が派遣されたが、中小規模の2病院には県看護協会からも独自に派遣を行った。

うち1カ所に派遣した認定看護管理者は、母体となる組織や経歴が異なる看護師が多数派遣されてくる中で、看護管理者に対し役割や業務の整理、労務管理、派遣看護職の受け入れの体制整備に関する支援を行った。また、別に派遣した感染管理認定看護師は、4日間、集中してスタッフに指導を行い「現場が落ち着き、安心して仕事ができるようになった」との感謝の声が届いた。

それまでもさまざまな立場の医師や看護職が入れ替わり支援に入っていたが、それぞれの役割が共有されていないことなどから、効率的な協働・連携ができていなかったり指導方法が異なっていたりといった点に対する現場のニーズを、看護管理者と県看護協会が共有し、迅速な支援につなげた。仲座会長は「全体を見られる人、専門性が高い人など適切な人材を集中して派遣したことで、現場の混乱を早期に収めることができた」と振り返る。

一方で、仲座会長は「今後、クラスターが発生した際には、県内でもすぐに対応できる仕組みがないといけない」と課題を挙げる。現在、各医療機関に呼び掛け、応援に行くことができる看護師40人余りに登録してもらっている。「県と協力して派遣要領を作成し、身分保障や安全の確保などを確実にできるよう調整しているところです」と話す。

さらに、8月以降、県看護協会では感染管理に関するセミナーにも力を入れる。参加しやすいよう夜間に開催したり、密集を避けるために同内容で複数回実施するなどの工夫をしながら、訪問看護ステーションや介護施設、中小規模病院などに呼び掛け、それぞれ数百人規模の参加があった。

新型コロナウイルスの影響が長期化する中、「あらためて、医療と生活、両方の視点を持つ看護の力の素晴らしさを実感しています」と仲座会長。「専門職として、看護師がそれぞれの場でしっかりと自律して活動できるよう、県看護協会が支えていきたい」と、着実に取り組みを進めている。

(2020年11月30日取材)

すべてはダイヤモンド・プリンセス号から始まった

神奈川県看護協会専務理事 渡邉二治子さん
同 地域看護課地域看護班班長/感染管理認定看護師
吉村靖史さん
神奈川県ナースセンター課長 廣島博美さん

「断るという選択肢はない」

神奈川県看護協会に1本の電話がかかってきたのは2月12日の朝のことだった。

「横浜港に停泊中のダイヤモンド・プリンセス号で船内活動をする看護職30人を、急きょ確保してほしい」という横浜市医療政策課からの電話だった。

同月3日に横浜港に到着したクルーズ船、ダイヤモンド・プリンセス号には、乗客・乗員合わせて3,700人あまりが乗船していたが、5日に新型コロナウイルス感染症の陽性者が確認され、14日間の検疫が開始されていた。

「断るという選択肢はない、と思った」と専務理事の渡邉二治子さんは振り返る。「看護職はJMAT(日本医師会災害医療チーム)の一員として、検体採取や健康観察をしてほしいとのことで、その日の18時には船で活動を開始する必要があった。急な打診だったが、役員および事務局長と相談し即決した」(渡邉さん)。

とにかく時間がない。同協会が看護職を探したルートは2つ。一つは災害支援ナース登録者への一斉呼び掛け。もう一つは県内病院の看護管理者へ直接アタックして看護職を派遣してもらう方法、あわせて同会の職能理事、支部理事の勤務する病院にも協力を求めた。看護管理者へのアタックは渡邉さんと尾花由美子・長場直子常務理事が手分けし、近隣の横浜市や川崎市の大病院を中心に、とにかく電話を掛け続けた。

派遣される看護職の処遇や報酬などは、その時点で何も決まっていなかったが、多くの看護管理者が協力を申し出て、数時間後には必要な人数がそろったという。

ダイヤモンド・プリンセス号に向かう看護職の画像
ダイヤモンド・プリンセス号に向かう看護職

「突然のことだったので、シフトが組まれていないフリーで動ける看護副部長や看護師長たちが参加してくれた。あとは手を挙げてくれた災害支援ナースたち。本当にありがたかった」(渡邉さん)。

その後、派遣日や人数が変更になるなど、状況が二転三転したが、最終的には2月14日から5日間、災害支援ナース13人を含む延べ52人の看護職が個人を含め16病院から、船内活動に参加した。

渡邉さんらは、集合場所まで同行し、荷物の整理や靴底の消毒など可能な範囲の環境整備を医師会の職員とともに行った。その際、内の様子も感染の状況も分からない中にも関わらず、集まった看護職の引き締まった表情に職業人としての使命感を感じ、落ち着いた様子でバスに乗り込んでいく姿に、強く感銘を受けたという。

一方で、今回の新型コロナウイルス感染症への対応の難しさを目の当たりにすることもあった。派遣後、看護職たちが、勤務先の病院で2週間の出勤停止を命じられたケースもあった。未知のウイルスへの恐怖からくる誹謗中傷は医療現場のみならず看護職が関わる周辺でも広がっており、中には自ら家族や周囲に感染させないよう自主隔離する看護職もいたという。

軽症者宿泊施設の派遣看護職に託されたミッション

こうしたダイヤモンド・プリンセス号での対応の経験は、その後、同協会が新型コロナウイルス感染症への対策事業を行っていく際の原点になっていった。

国内での感染が拡大した4月には、神奈川県の要請を受け、軽症者宿泊施設で対応する看護職をナースセンターで募集、49人の応募があり41人が県の非常勤職員として採用された。皆、“ 有事だ ”という認識があり、自ら動くことをいとわない気概をもった人ばかりで、採用はすぐに決まったという。

その際、同協会神奈川県ナースセンター課長の廣島博美さんは、県に対し同協会で感染対策の研修を行うことを提案した。派遣看護職たちに最低限の知識を確認してもらうこと、チーム力を醸成するための共有体験の場にしてもらうこと、併せてもう一つ重要だと考えたミッションがあった。きっかけはダイヤモンド・プリンセス号から戻ってきた看護職の発していた言葉だった。――船内では医療従事者だけではなく、事務職や船内スタッフも感染リスクにさらされる。「だから軽症者宿泊施設に派遣される看護職には、自分の身を守ることに加え、一緒に仕事をする県や施設の職員が感染しないよう教育するというミッションも必要だと考えた」(廣島さん)。

派遣される看護職への研修は、同協会の2人の感染管理認定看護師、吉村靖史さんと武田理恵さんが担当した。吉村さんは「医療職以外の人は、なかなかウイルスをイメージできない。目に見える形でイメージできることが大事だと伝えた。例えば、ウイルスの大きさを理解してもらうのに、リンゴが大腸菌だとすると、ウイルスはゴマで、細胞は事務机くらいだとか。知名度のあるCMを替え歌にして手洗い歌も作って紹介した」と話す。

「専門家に聞く新型コロナウイルス感染症およびその対策」研修会の様子
研修用に作成したスライド

また派遣される看護職と医療職以外の人が、ウイルスに対して共通認識を持てるような工夫も伝授した。例えば参加者に「ウイルスの何が怖いか」をあえて言語化してもらい「うつるのが怖い」「人にうつすのが怖い」という回答があると「ではなぜうつるのか、どうしたらうつらないと思うか」と問答を重ねることで、お互いの考えを深めていけることを伝えた。

そもそも看護職と医療職以外の人では感染に対する認識、知識に大きな「隔たり」がある。両者が怖さや疑問点を共有したり、対策を話し合ったりすることでお互いの理解が深まれば、「隔たり」が是正され「感染対策」もより実践的に身に付けてもらえるとの考えからだった。

看護職への研修としては、初歩的でかみ砕いた内容も含まれていたため「最初は、“ そんなこと知っているのに ”といぶかしそうだった看護職もいたが、終わってみると皆さん目的意識を共有してくれ、一体感をもって現場に入ってくれた」(吉村さん)。

県の依頼で、訪問看護や福祉施設の研修を行う

高齢者福祉施設職員への研修の様子(平塚市)
高齢者福祉施設職員への研修(平塚市)

この同協会の「医療職以外の人にも学びやすいよう工夫した研修」は、その後、思わぬ展開を遂げる。研修が、神奈川県の担当者の目にとまり「分かりやすくて楽しい」と評価され「ぜひ在宅の現場や福祉施設の従業者向けに研修をやってほしい」との依頼がきたのだ。

従来であれば、県の感染対策事業は、保健所の保健師や、県立病院などの感染管理認定看護師が中心になって行うことが多い。しかし今回は「帰国者・接触者センター」や24時間体制の電話相談の応援で、地域の感染対策事業に手が回らない状態だったという。

吉村さんと武田さんは手分けして、5月末から2次医療圏ごとの県主催の研修会で講師を務め、さらに鎌倉や茅ケ崎など県内各地の保健所や保健センターでは、訪問看護師や介護士、理学療法士などの施設職員を対象に合同研修を行った。評判を聞いた施設から、個別に研修や感染相談を依頼されることもあった。同協会が行った研修は9月1日までの3カ月あまりで計18回、受講者の数は700人を超える。

同協会では研修会ごとにアンケートを実施し、どんなことが分かりにくいか、どんなことが不安か、などフィードバックを受けて研修内容をブラッシュアップしていった。また、参加者の中には、自施設でさらに研修をやりたいと希望する人が多かったため、同協会のホームページに研修の動画をあげ、参加できなかった人にも共有してもらえるようにした。作成した動画は、医学監修を経て、神奈川県の公式動画サイトにも掲載されている。

日頃から、同協会が県の担当者と密に情報交換したり、同ナースセンターが求められる人材を把握するため、求人先の施設を頻繁に訪問して顔の見える関係をつくり、現場の状況を把握していたことなどが、未曽有の事態の中で、新たな取り組みを推進する力になった。

吉村班長、渡邉専務理事、廣島課長の画像
左から吉村班長、渡邉専務理事、廣島課長

渡邉さんは「ダイヤモンド・プリンセス号への対応で、神奈川県はどこよりも早く、新型コロナウイルス感染症の危機にさらされた。最初は大変だったが、その経験が本協会の取り組みの全てにつながったと思う」と話す。

「職員たちも、最初はみんな新型コロナウイルスを怖がって、混乱していた。だから職員にも感染対策の研修を行った。皆で怖さを共有し、何をすべきか考えていった。そして、方針が決まれば、120%の力で走ってくれた」。

今回の経験を基に、今後「Withコロナ」の時代にどう協会としての役割を果たしていくか、話し合いが続いている。

(2020年9月18日取材)

きめ細やかな復職支援で潜在看護職をサポート

愛媛県看護協会副会長/愛媛県ナースセンター長
 立川妃都美さん

難しかった新型コロナウイルス感染症対応へのマッチング

新型コロナウイルス感染症の累計陽性者数が115人と、全国でも7番目に少ない数で推移している愛媛県(10月7日現在)。それでも4月初旬には連日、陽性者が確認され流行の兆しがあった。

愛媛県ナースセンターのスタッフ画像(右から3番目が立川さん)
愛媛県ナースセンターのスタッフ
(右から3番目が立川さん)

愛媛県ナースセンターでは、登録者1,355人に復職を呼び掛ける一斉メールを送信し、同センターのウェブサイトでも告知したところ「新型コロナウイルス感染症に関連した求人はないか」「ブランクがあるけど何か役に立ちたい」「今は医療現場にはいないが看護職として自分にできることはないか」など、さまざまな声が寄せられた。5月までに計20人の申し出があった。

しかし「実際のマッチングには、越えなければならないハードルがいくつもあった」と同ナースセンター長の立川妃都美さんは振り返る。

例えば4月中旬、愛媛県から軽症者宿泊療養施設の求人依頼があったが、正式な「求人票」が県からなかなか出てこない。無料職業紹介所として「求人票による処遇等の提示は必須です」と伝えても、県は「まず県内の医療機関に勤務している看護職への協力依頼が優先される。それで、不足するところを潜在看護師さんに補ってもらう」とのスタンスで正式に求人票として出されるまでに時間を要した。また、求人票だけでは読み切れない現場での感染対策や危険手当、万が一感染した場合の補償などの細かい詰めの作業が必要であった。

また申し出てくれた潜在看護師に対しても、離職期間や勤務歴、在職中どのような業務を担当したかなどを丁寧にヒアリングした。「派遣する人材は経験の豊富な看護師を」という県の要望もあり、本人の安全を守るためにも経験値を細かく情報収集した。

マッチングを進める中では家族の反対などの理由で断念せざるをえない潜在看護職もいて「通常の職業紹介とは全く違う難しさがあった」と立川さんはいう。

こうしたハードルを1つ1つ乗り越えた結果、最終的には離職1年以内、勤務歴30〜35年で看護管理者の経験もある潜在看護師3人とマッチングでき、軽症者宿泊療養施設に派遣され活躍した。うち1人はその後、県の入院調整コーディネートの仕事に就くなど、継続して新型コロナウイルス感染症への対応に従事している。

「モチベーションを維持するため」企画した研修が大盛況

新型コロナウイルス感染症については、その後3回にわたって県から軽症者施設やクラスター発生施設への求人依頼があったが、いったん出された求人が途中で取り下げられるなど混乱する事態もあった。さらに8月末から県内の感染者ゼロの状態が続いたためか、軽症者宿泊療養施設等での求人に対する申し込みがほとんどなくなり、立川さんたちは「このままでは、潜在看護職のモチベーションを保ち続けるのが難しい」と危機感をもった。

「専門家に聞く新型コロナウイルス感染症およびその対策」研修会の様子
「専門家に聞く新型コロナウイルス感染症およびその対策」
研修会(9月14日)

そこで9月、同ナースセンター主催の研修会を企画。「専門家に聞く新型コロナウイルス感染症およびその対策」と題して、感染制御が専門の医師に講師を依頼し、最新の知見やエビデンスに基づく感染対策、ワクチンの話などをしてもらった。

復職希望の看護職だけでなく、多くの人に聞いてもらいたいと広く呼び掛けたところ、現役の看護職や施設管理者など、50人の募集枠に100人以上が集まった。研修後のアンケートでは満足度100%で「エビデンスを確認できてよかった」「情勢に即した内容を今後もお願いしたい」と継続的な研修を要望する声が多く挙げられた。

「モチベーションを保つには刺激も必要かと思って企画したが、予想以上の反響だった。皆、モチベーションが下がっているわけではなく、さまざまな情報が報道で飛び交う中、正しい情報が分からず医療・介護の現場にいても不安を抱えていたということが分かった」と立川さん。

同ナースセンターでは、継続的に新型コロナウイルス感染症の情報提供を行うべく、11月には、愛媛県の行政担当者や、感染管理認定看護師、軽症者宿泊施設で勤務した看護職などの報告を含めた研修を企画。また通年で行っている「復職支援研修」にも感染対策の講習を入れたところ、すぐ定員に達したという。

安心安全を確保し、確実な復職支援を

立川さんは、コロナ禍におけるナースセンターの役割について「自分たちは、復職者の安全安心を確保し、周囲の家族、職場の方にも安心して『行ってこい』と言っていただくための環境をつくる必要がある」と強調する。

都市部に比べると感染者が少なかった愛媛県だが、逆に個人が特定されやすく、誹謗中傷につながることもあった。就業を希望する看護職の中にも「自分は働きたいが、新型コロナウイルス感染症の患者さんがいる病院や施設で働いていることを家族や周囲に知られたくない」という人が少なからずいたという。

「愛媛は、東京や大阪のように毎日数百人単位で感染者が出るわけではない。しかし未知の感染症に対して、医療者の疲弊感が強く、誹謗中傷があるのは同じ」と立川さん。さらに「何百人単位で登録してもらえる規模ではないが、その分一人一人きめ細やかなフォローとケアで、確実に実を結んでいけるよう、潜在看護職の復職を支援していく」と意欲を燃やしている。

(2020年9月30日取材)

院内クラスター発生施設の支援に奔走

東京都看護協会会長 山元恵子さん
同 新型コロナウイルス感染症対策プロジェクトチーム
 縣智香子さん
寺岡征太郎さん

プロジェクトチーム中心に独自事業を立ち上げ

新型コロナウイルス感染症患者が国内で最も多い東京。8月には感染が再拡大し、累計陽性者数は2万2,019人にのぼっている(9月8日現在)。

東京都看護協会は、4月1日に「新型コロナウイルス感染症対策プロジェクトチーム」を立ち上げ、独自の取り組みに着手してきた。その数は代表的なものだけでも20を超える。といっても、これらが最初から「形」になっていたわけではない。「東京は流行の最中で、まさに緊急事態。走れるだけ走って、思いつくことをやっていくしかなかった」と山元恵子会長は振り返る。

中でもプロジェクトチームが強い危機感を持って臨んだのが、院内クラスターが発生した医療施設に対する支援だ。しかし、当初はどの病院で、どのくらいの規模の感染者が発生しているのかさえ、分からなかった。

院内クラスター発生施設の困窮

そこで、東京都看護協会では、職員がインターネットや報道から、感染者が出た医療機関や施設を一つ一つ調べ上げ、可能な場合は直接訪問して、現場の状況を確認、必要な支援などをヒアリングした。その結果、予想を超えた人手不足や物資不足、情報の混乱やスタッフのメンタルヘルスへの深刻な影響により現場が困窮している状況が明らかになってきた。

いったん院内クラスターが発生すると、感染者だけでなく、看護職をはじめ濃厚接触者となった多くの職員が、職場を離れることを余儀なくされる。その欠員に加え、派遣会社から派遣されていた看護職が引き上げられてしまう状況もあった。また、清掃業者やリネン業者、葬儀会社が病棟に入らなくなり、看護師長が職員のユニフォームの洗濯をせざるを得なくなったり、患者が亡くなっても納体袋がない、霊安室にご遺体を収容しきれないなどの事態が起きていた施設もあった。

「特に200床以下の小規模な医療機関の状況は深刻だった。感染管理認定看護師がいなかったり、応援を得られる関連病院がなかったりと状況は厳しかった。東京の医療機関の7割は200床以下。こうした施設に向けた支援が必要だということが分かってきた」(山元会長)。

最新の情報を週1回のWEB講座で配信

東京都看護協会「新型コロナウイルス感染症対策プロジェクト」Webサイト
東京都看護協会
「新型コロナウイルス感染症対策プロジェクト」
Webサイト

プロジェクトチームでは、こうした200床以下の医療機関を中心に、2つの独自支援を開始した。1つは、オンラインでの新型コロナウイルス感染症対策のミニ講座の配信、1つがクラスター発生施設への直接的な人的支援だ。

「新型コロナウイルス感染症対策のミニ講座」は、登録を希望した130の施設に対して配信するもので、4月21日から開始した。内容は、忙しい業務の合間でも視聴できるよう15分でワンテーマとし、「緊急時の個人防護具の最適な使用方法」や、政府や学会が出す「ガイドラインの改訂ポイント解説」など、国内外の最新の情報を盛り込んだ。

プロジェクトチームのアドバイザーである縣智香子さんは「感染管理認定看護師がいる大きな病院なら、自分の施設に必要な情報を収集して職員に伝えていくことができるが、小さい病院だとそこまで手が回らないし、必要な情報の探し方も難しい。信頼できる新しい情報を、その週の感染の動向や社会情勢も踏まえながら、内容を考えている」と話す。これまでに20を超えるテーマを配信し(9月29日現在)、定期的に質疑応答コーナーも設け、具体的なアドバイスも行っているという。

感染対策、看護管理、実働する看護職をセットで派遣

一方、院内クラスターが発生した施設に対する人的支援は、4月にクラスターが発生したA病院(173床)から始まった。A病院では患者・職員計92人が感染し、一時は病棟の看護職が半分以下となり当日の夜勤者が確保できないという状態だった。感染管理認定看護師は在籍しておらず、看護管理者も一時的に着任していなかったため、現場は困窮していたという。

東京都看護協会は、急きょ、プロジェクトチームの感染管理アドバイザーである縣さんと、師長経験がある同協会の職員を看護管理者として派遣した。また同協会は「東京都看護協会が全面的に支援します」と謳った上で、実働する看護職をナースバンクで募集した。その結果、5人が採用され現場に配属された。山元会長自身も何度も現場に出向いて支援に加わった。

外来が再開する7月まで、延べ3カ月にわたって感染対策の支援に入った縣さんは次のように話す。「クラスターが発生した医療機関は本当にダメージが大きく、外からの指摘や指導だけでは、立ち上がれないところもあると思う。だから支援としては、中に入って、同じ目線、同じ立場で一緒に対策を講じていくことが必要だった。一緒にラウンドして、こういう病棟の配置だから、動線はこうしようとか具体的な対策を現場のスタッフに提案し相談して決めた。物品もそこにあるもので、どう応用するかを一緒に考え対策を立て実行した。訪問しない日もメールでやり取りして相談に対応し、途切れないように支援を続けた」。

人間関係の構築が十分ではない段階で一から感染対策を指揮する難しさもあったが、看護管理者が一緒に応援に入ったことで、両輪で動けたという。

山元会長は「支援していて分かったのは、感染対策は実はマネジメントが重要だということ。トップマネジャーが初動段階で迅速に対応し、感染制御からスタッフの教育まで見られるか、それが感染の次の山をつくらないことにつながる。ところが、いったんクラスターが発生すると、管理者は、感染対策の指示だけなく、保健所や行政の会議へ提出する資料作成、院内の情報発信、スタッフのフォローなど、業務が何倍にもなる。そこを支援することが重要だった」と話す。

院内クラスター発生施設のメンタルヘルスの深刻さ

クラスター発生施設への派遣メンバーへ感謝状授受の様子
クラスター発生施設への派遣メンバーへ
感謝状を授与(2020年6月18日)

もう一つ、クラスター発生施設に対して、欠かせないと分かったのが、メンタルヘルスへの支援、特に看護管理者への支援だった。「看護管理者の話を聞いていると、毎日毎日、気を張り詰めている。スタッフを気遣って、自分のことは後回し、誰にも相談できない。うつ状態となり力が発揮できなくなる」(山元会長)。

そこで精神看護専門看護師の寺岡征太郎さんにプロジェクトチームに入ってもらい、2つのクラスター発生施設を数回にわたって訪問、電話やメールで継続的な支援を行った。寺岡さんは、「組織が混乱する中では、管理者自身が疲弊しているのは、よくあること」としたうえで、看護管理者の話をゆっくり聞いて、これまでのことや、やらなければならないことを自分なりに整理してもらえるように、心掛けたという。「スタッフケアは、結局は管理者支援でもある。特に今回は外部からのサポートなので、組織の要となる人へのサポートを通して、それがスタッフに浸透していくよう見据えながら、行った」(寺岡さん)

またクラスター発生施設のメンタルヘルスの特徴として、自宅待機となったスタッフと、勤務を続けていたスタッフとの間に溝ができ、新たなストレスの要因になるという状況が起こっていた。職場がぎくしゃくすることに加え、自分たちのせいで患者さんたちを苦しい状態に置いてしまったという強い自責感も、メンタルヘルスの不調をきたす要因となっていた。寺岡さんは復職者への声掛けを管理者に促し、スタッフたちの面談も行った。

経験を共有し、次の支援に生かす

このような直接的な支援の経験を基に、東京都看護協会では、今後もクラスター発生施設に対して迅速な人員支援ができるよう、急ピッチで仕組みを整えている。後に、国や日本看護協会からの支援もあり、具体的な支援のスキームは徐々に構築されている。

「新型コロナウイルス感染症からの学びと備え」をテーマに看護管理者座談会を行った様子
「新型コロナウイルス感染症からの学びと備え」
看護管理者座談会(2020年6月6日)

そうした中で、山元会長がこだわったのは、クラスター発生施設が経験したことを、次に発生した施設での支援に生かしてもらう仕組みだ。実際にクラスターを経験した病院の看護職を、新たなクラスター発生施設に短期で派遣したり、オンラインでの「ミニ講座」に、クラスター発生施設の看護管理者に出演してもらったり、管理者同士の座談会を開いて自身の体験を話してもらうなど行った。当事者にしか語ることのできない現場の苦労や思いが、時に涙ながらに率直に語られ、経験が共有されるとともに、施設同士、顔の見える関係ができ、ネットワークの構築にもつながっている。

今後に向けては、200床以下の施設を対象に、新たな教育研修も予定している。主任クラスを対象とする感染対策の基本を5日間程度で学べるコースは、オンデマンド配信で10月開始を予定している。また、すでに感染管理認定看護師の資格を持つ人および前述のコースを修了した者を対象に、クラスター発生施設等へ外部から応援ができるよう、10日間のコースを新たに2021年1月から立ち上げる予定だ。

「外から支援したときに、どこを見て何から始めればいいかはノウハウが必要だ。また支援を受ける病院側にもある程度の知識があれば受援がうまくいく。押し付けではなく、相手の病院の実情にあわせた指導ができるように教育研修を行う予定だ」と山元会長は言う。

一度院内クラスターが発生すると、病院の経営も、看護職も何より患者が大きなダメージを受ける。だからこそ早期に支援し、少しでも立ち直りが早くできるように―。新型コロナウイルス感染症の終息が見えない中、秋以降のインフルエンザとの同時発生も見据え、着々と準備は進んでいる。

(2020年8月11日取材)